気むづかしい初老の男が、お屋敷の庭に勝手に入って遊ぶ女の子たちにお菓子をあげたくなる、ただそれだけの短いお話

新島眞琴

(短編 読み切り)

「ジーナ、庭にいる子どもたちは誰だい?」


 秋も深まったある日の夕暮れどき、朝からずっと書斎にこもりきりだったラビリットは、わざわざ厨房にいるメイドの所まで来て尋ねた。


「あら、あの子たち、また庭に来ているんですか?」


 二人が廊下の窓から外を見ると、三人の女の子が庭の片隅で遊んでいるのが見えた。どうやら魔法の練習のようなことをしているようだ。


「最近、たまに庭に入ってきて遊んでるようなんです。すぐに出ていくように言いますね」


「いや、いいんだジーナ。自由に遊ばせてやりなさい」


「でも……旦那様の研究の邪魔になりますわ」


「子どもの声は大して気にならん。それに庭だって使ってないしな」


 ラビリットはそう言うと、口髭を撫でながら再び窓の外に目をやった。ジーナは不思議そうな顔でラビリットを見たが、一礼をして厨房に戻ろうとした。


「ああそうだ、ジーナ」


 ジーナは呼び止められて振り返った。


「たしか贈り物で頂いたお菓子があったと思うんだが……あの子たちに少し渡してやってはどうだろう?」


 いつも無口で威圧感のあるラビリットが、今はずいぶん落ち着かない様子だったので、ジーナは少しだけ意地悪をしたくなった。


「それはいい考えですね。でも私はお料理の途中で手が離せませんので、お手数ですが旦那様からお渡しして頂いてもよろしいでしょうか?」


 ジーナが厨房に戻ってしばらくすると、庭の方から女の子たちの声が聞こえた。大きな可愛らしい声でお礼の言葉を言っている。「ありがとう、おじさま」だって。メイドは料理片手に肩をすくめてクスッと笑った。




――おしまい

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気むづかしい初老の男が、お屋敷の庭に勝手に入って遊ぶ女の子たちにお菓子をあげたくなる、ただそれだけの短いお話 新島眞琴 @Makoto-Niijima

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