第11話 遠雷の序章


 「敵編隊、右前方40度!!」


 レーダー員の報告がリアンダー級軽巡洋艦4番艦「オライオン」の艦橋に飛び込んだ。


 「了解。各艦に通達しろ」


 艦長のウィリアム・ボークラーク少佐が冷静に判断を下す。

 オライオンの搭載するレーダーは出力が随伴艦の持つレーダーより大きくより遠くの敵航空機、敵艦艇を見つけることができた。

 数百メートルほどの距離を開けて追随する随伴艦の駆逐艦2隻へと敵航空機発見の報が送られる。

 ウィリアム・ボークラーク少佐は、右前方の空域に双眼鏡を向ける。

 しかし、丸く狭い視界の中には、青い空と雲しか見えなかった。

 しばらくの時間が経過して


 「あれか」


 雲の隙間を縫うような黒点が視界に映り、それはやがて航空機の形となった。


 「各艦へ通達。最大戦速!防空戦闘用意!」


 見張り員が機種を告げる。


 「敵、戦爆雷連合24機!スツーカ10、フィゼラー6、残りはメッサーシュミット!」


 フィゼラーが高度を落とし始める。

 雷撃を狙っての動作だ。


 「雷撃は操艦で回避する。全砲、敵艦爆を狙え。撃ち方始め!!」


 その声に応えるように15.2cm連装速射砲3基6門、10.2cmMkXVI連装高角砲4基8門が仰角を上げて咆哮する。

 艦首から艦尾へと振動が抜けていく。

 撃ちだされた14発の砲弾が右前方の空で炸裂するが墜ちる敵機はいない。

 随伴する2隻の駆逐艦の11.4㎝連装高角砲の射撃音も後方から艦橋へと聞こえてくるが命中弾はない。


 「こういうものだが、じれったいな」


 少佐は、ただ一言そう言うと右前方の空を睨んだ。


 「回避行動に移る!! 取り舵!!」


 敵艦爆の爆弾の命中を避けるべく艦が左へと艦首を向け始めた。

 照準が変わりますます当たる可能性の減った砲撃はなおも続く。


 「敵機、降爆!!」

 「全機銃を艦爆に集中させろ!!」


 頭上に達したスツーカがお馴染みのサイレン音を上げながら250㎏爆弾を浴びせるべく、降下してくる。

 それを落とそうと40mm連装機銃2基、同単装機銃3基、20mm連装機銃2基が真っ赤な火箭を伸ばす。

 それをものともせず高らかにジェリコの喇叭を、得意の風切り音を響かせながら4機のスツーカが降下してくる。

 

 「敵機1機、撃墜!!」


 見張り員が声を弾ませて報告を上げる。

 多数の機銃弾を浴びたスツーカがジュラルミンの襤褸と化し銀色に輝きながら空に散華した。


 「了解」


 少佐は、短くそう返した。

 まだ敵艦爆は3機残っているのだ。

 随伴艦の2隻にもそれぞれ2機ずつのスツーカが襲い掛かっていた。


 「敵2番機、投弾ドロップ!!」


 投下された250㎏爆弾が直撃することはなく右舷側に大きな水柱を上げた。

 続く敵3番機の爆弾も躱した。

 

 「敵4番機、投弾ドロップ!!」


 艦は、3番機の爆弾を躱してから面舵を切っており舵が効き始めたのか艦が右側へと艦首を向ける。

 それは、前進する速度が鈍った瞬間でもあった。

 艦体に鋭い音が響くとともに艦橋が激しく揺れた。

 

 「2番砲塔被弾!!」


 敵弾は2番砲塔に命中したらしかった。


 「弾薬庫注水!ダメージコントロール班を向かわせろ!」


 少佐は、弾薬の誘爆を防ぐべくそう指示を出した。

 運が良かったのか弾薬の誘爆だけは免れた。

 が、一つ見落としていたことがあった。


 「敵雷撃機、魚雷投下!!」


 2機のフィゼラーが超低空で接近、肉薄し魚雷を投下していたのだ。

 直後、250㎏爆弾の命中したときとは比べ物にならない衝撃が「オライオン」を襲った。

 2本の魚雷のうち1本を回避することはできたがもう1本が艦橋の直下に命中したのだ。

 その衝撃が「オライオン」乗組員の最後の記憶となった。

 リアンダー級軽巡洋艦4番艦「オライオン」は、高く火柱を上げるとそのまま真っ二つに折れるようにして海中にその姿を消した。

 随伴艦の駆逐艦2隻も1隻は煙突内に運悪く爆弾が命中し機関部から爆発を起こして即沈した。

 もう1隻は、艦尾に魚雷を喰らってスクリューを破損し行き足が止まった。

 カイザー攻撃目標の敵2群もダイドー級軽巡洋艦が沈没。

 駆逐艦3隻のうち1隻が魚雷発射管に爆弾を喰らって爆沈した。


 『第16試験飛行隊より、作戦の第一段階の終了を報告する』


  アドリア海の海上には藻屑となった艦艇の残骸が波間に浮いていた。

 『遠雷』作戦の序章は、数機の航空機の損失を出したがそれをはるかに上回る戦果を残して終了した。

 

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