第21話 同級生

「あっ、グレイさん。」

「貴様は軟禁されている身だということが分かっているのか?」

「やっぱり出歩いたらまずかったですか?」

「いや、別に構わん。ただ少し脅しかけてみただけだ。」


そんなに日も経っていないのに、俺をねじ伏せて尋問にかけての忘れたのか?

俺にそんなことしてきたやつが脅しかけてきてんじゃねぇーよ。


「はいはい。どうせ、やることも無いですし、部屋に戻りますよ。」

「その前に、私の仕事部屋に来い。」


だから、怖いんだって。

何されるのかわかったもんじゃない。


「何するんですか。」

「いや、ちょっとな。人目につく可能性のあるところではないほうが良い。」


グレイさんは目を逸らし、声のトーンを落として答えた。

えっ・・・その反応はもっと怖いんですけど。

なんですか、人目のつくところはダメって。


俺はビクビクしながら、グレイさんの仕事部屋に連れてこられた。

やはり、グレイさんと歩く時は2・3歩後ろを自然と歩いてしまった。

背中からも感じる威圧感。

さらに、恐怖が増す。

軽く雑談でもして、この気分を和らげよう。


「シルバさんも仕事部屋がありましたけど、みんな一部屋与えられるんですか?」

「いや、役職が与えられてからだ。私は"新規開発長"。役職があるから部屋がある。」

「お偉いんですね。」

「上に行けば良いってものでもないがな。」


グレイさんなら「この程度の役職では足りない。」って答えそうだけど。

出世欲とかないのかな。

それとも、若くして偉くなってしまって、変な悟り方をしてしまったのかもしれない。


ヤングさんは仕事部屋に入ると指パッチンを鳴らした。

すると、部屋の壁にかけられているロウソク全てに火が灯り明るくなる。

試しに俺も鳴らしたらロウソクの火が全て消えて、余計なことをするなと怒られた。

このシステムいいなー。

俺たちが住む家にも欲しい。

グレイさんの部屋はシルバさんの部屋と違い、本も書類も机に雑に重ねられていた。

見た目のキッチリ感と異なり、意外と整理整頓ができないタイプらしい。

本棚の本も横積みになっていたり、巻数の並びもバラバラだったりしている。


「それで、人目のない部屋に連れ込んで何をする気ですか?」

「会議の場で君にした勘違いを謝罪しようと思ってな。本当にすまなかった」

「えっ・・・それはシルバさんの部屋でもう・・・。」

「あれはシルバ様の謝罪に合わせて私は頭を下げただけだ。私の心からの謝罪になっていない。」


「もう大丈夫ですよ」と言うのが失礼になると感じるほどの綺麗な頭の下げ方だ。

しっかり謝ることができるから、シルバさんもグレイさんも、かなり高位な地位まで上がることが出来たのかもしれない。

俺はこんな謝罪ができるのだろうか。


「分かりました。しっかり受け取ります。それに俺だけでなく・・・。」

「あぁ。もちろん、ハンナ・ウェインライトにも謝りに行く。対等な立場で謝るためにも、軟禁が終わり、魔素乱板を剥がした時にしっかりとする。」


相手の立場も考え、謝罪のタイミングは考えているらしい。


「それと、これからもよろしくと伝えなくてはな。」

「これからも?」

「貴様の提案の実現のため、私が指揮を執ることになった。それと……これ計画書と日程表な。おそらく、2つを合わせる方向だから、3ヶ月程度で終わるだろう。そうだ、問題ないとは思うが後輩の育成も踏まえジャーも参加するがいいよな?すでにジャーには初段階の実験を始めてもらって……なんだその顔は。不満か?」


話が早すぎるだろ。

会議が終わってから2日も経ってない。

この一連の流れで、人間としての格の違いを見せつけられている気がした。

俺はこの1ヶ月、ずっと不安だった。

提案書を書いて"待っていた"だけ。

魔術も使えない、持ってる知識が活かせる場所もない。

でも、召喚者として国の問題を解決しないといけない。

ようやく、国家魔術協会に来れたと思ったら、尋問にかけられ、仲間も命も失う可能性があった。

元の世界のさいたまズの失態も重なり、自分が情けなく感じる。


「何が不満だ?もっと日程が早いほうがいいか?」

「いやそういうわけでなく。グレイさんと俺で格の違いを見せつけられている気がしまして。」

「なるほどな。"隣の芝は青く見える"……リストウォレットを作った召喚者から聞いた貴様の国の言葉だ。私は定期的にこの言葉を思い出すようにしている。いいか?私は貴様の芝が青く見えている。」

「嫌味ですか?」

「私が今後の予定とかを話している時、楽しそうに話しているように見えたか?」

「えぇ。大層自信ありげに、楽しそーに話してるように見えましたよ。」

「そうか。それは大きな勘違いだ。」


お互い様って言いたいのか?

「まぁまぁお前にも良いところあるぞ」って雑に励ましてるのか?


「やりたい事があるんだろ?私達も全力で協力するから前だけ見てろ。それが貴様の役割だ。できないものはできないって割り切ったほうがいいだろ。逆に周りに頼らない方が罪だぞ。」

「そうですかね?」

「大体なぁ・・・勝手が全く分からない国で1ヶ月で人間2人を当たり前に受け入れ、暮らせる生活基盤を整えて、国家魔術協会の会議に参加する所まで来てるんだぞ。お前が必要のない人間なわけがないだろ。」

「運も良かったですけどね。」

「運は行動を起こしてる人間のところにしか来ない。貴様の行動力は十分プラスに働いてるだろ。」


随分と褒めだしたな。

そんなに思いつめた顔をしてたのかな。

まぁ・・・素直に受け取っておくか。


「国家魔術師になって10年経つが、この2.3日はトップレベルで濃い日だな。」

「そうですか。楽しそうでなによりです。」

「貴様を見ていると国家魔術師になった18歳の頃を思い出す。」

「はぁ・・・えっ?18の頃?今年で28ですか?」

「まぁな。なんだよ?」


こいつ同い年かよ。

喋り方とか話す時の振る舞いとかからも、それなりに歳食ってるのかと思ってたけどな。

年齢の判断が難しいんだよな……西洋系の顔って。


「グレイさんは俺と同い年でしたか。」

「そうか・・・召喚者は見た目と中身が違うからわかりにくいんだよ。それであれば私に対し、堅苦しい言葉は使わんでいいぞ。」


グレイさんが少し笑っているように見えた。

同い年だったのが嬉しかったのかな。

三十路に突入してるおっさんが気持ち悪いな。

グレイさんは幼いころから高圧的だったらしいから友達が少なかった説が事実に近づいてきたな。

・・・お疲れ様です。


「はあ・・・気が抜けちまったな。とにかく、これからよろしくグレイ。」

「ああ、よろしく。そうだこれを受け取れ。」


グレイが雑に俺に何かを投げてきた。

・・・拳銃だ。

初めて拳銃なんて手で持った。


「それは光線弾銃。光の線が出力されて、力が残っている限り物体を貫通し続ける銃だ。ヤング家が誇る歩兵兵器だ。」

「レーザー銃か!こんなのもらっていいのか?」


銃火器の開発で名を馳せたヤング家が作った兵器か。

レーザー銃が存在するとはさすがファンタジー世界。

あれ?レーザー銃って漫画とか映画の世界だけだよな?意外とありそうなラインだなレーザー銃って。

使いこなせるか分からないが、何かあったときに相手に"突きつけるだけ"でも効果がある。

それは俺自身が尋問中にグレイに銃を向けられて十分に感じた。

そんなことより、撃ってみてたいなこれ。


「まあ、今回我々が尋問をしてしまったように、貴様に何があるか分からないから。護身用として持っといてもいいだろう。」

「こんなものくれるなんて、なんか申し訳ないな。」

「申し訳なく思う必要はない。別にこれは貴様に特別にあげているわけではなく、出会った召喚者全員にヤング家として渡しているだけだ。」

「いい年した大人の男のツンデレは見るに堪えないからやめたほうがいいぞ。」

「ツン?意味の分からないことを言うな!」


この世界の人に元の世界の言葉を使って嫌味言うの楽しいな。

言語翻訳トランスレーションでは"ツンデレ"のところは日本語のまま伝わってるんだろうな。


「そうだ、聞きたいことがあるんだが。貴様の最終目的ってなんだ?ルカとやらが仲間にいる以上は他にも何かしているのだろう?」

「まあ、子供たちのために新たな楽しみを作ろうとしてる。今の子供たちは突風のせいで少ししか外に出れなくて、大半が家にこもって暇だからな。」

「それとカメラは何が関係あるんだ?」

「家で起きたちょっとした面白いこととか、普段なら友達に会って話すようなことを写真や動画に撮って、遠くにいる人と共有できるようにする。」

「共有方法は全く想像つかないが、それでカメラが必要なのか。しかし、それ大丈夫か?大人も使えるんだろ?今まで国民の中で自然と押さえつけられていた思想があふれ出てこないか?政治的思想も宗教的思想も話し放題だ。」


鋭いな・・・俺の本来の目的をちょっとした会話で当ててしまった。

ただ、話し放題なことは決して悪いことではない。

当たり前のように押さえつけられているほうが問題だ。


「話し放題になってもいいだろ。この突風の件で気づいた奴らもいっぱいいるんじゃねーか。」

「この突風は説明が足りないところが多いからな。まあ・・・国王に不信感があるのは今に始まったことではないが。」

「ほらーグレイさんですら文句があるんでしょ?その考えが共有できるような社会にするんだよ。」

「何だがなぁ・・・それは良いことなのか悪いことなのか分からんな。」


良いことか悪いことかは俺らの世界でも答えは出ていなかったよ。

良い方向に行くのも悪い方向に行くのも使う俺たち次第。

SNSゼロの状態の世界を良く知らないから、俺たちが完成させた後の世界が楽しみだ。


そろそろ戻ろうかと思ったが、グレイが事務処理の仕事が退屈だから、話し相手になってくれと言ってきた。

こいつ・・・年齢近いと分かった瞬間から懐きすぎたろ。

まったく・・・28歳にもなって。

きっと寂しい人生を送ってきたんだな。


「でも羨ましいぞ。ルカとやらも女なのだろう?2人の女と暮らしているとはな。」

「節操ねぇな、女たらしが。」

「女と暮らして逆に手を出していない方が異常だろ。」

「ルカは住み始めて2週間も経ってないし・・・ハンナさんは・・・もうそういう次元ですらない。」

「なんだ?ハンナにはすでに手を出そうとして怒られ済みか?」

「そうじゃない。それにハンナさんと俺は王様の指示とはいえ、使用人と雇い主という間柄だし・・・いや、それ抜きでも壁がある。」


グレイさんは手を出していない方が異常と言うが、1ヶ月共に暮らしていながら雑談がほぼ無い方が異常だ。

最初は使用人という関係が嫌だから、俺から雑談を振ることも多かった。

だが明らかにハンナさんはなるべく早く会話を止める方向に話を進めた。

それに気づいて以降は俺も確認事項以外の会話はしないようにした。

街の人との対応からわかるハンナさんの本来の性格や、街で服を選でた時に見せた俺への対応。

あちらも普段は俺とあえて壁を作り距離を置いているんだ。

それが使用人としての流儀だと言うなら仕方ないが、違うのなら根本的に性格が合わないんだろう。

下手に首を突っ込むと取り返しがつかなくなりそうだから、現状維持に努めている。

そう・・・それがおそらく正解だ・・・多分。


「・・・ずいぶんと苦しそうな顔をするな。」

「えっ・・・あぁそんな顔していたか?」

「苦しいのなら取り返しがつかなくなる前にしっかり話し合うことだな。その壁がハンナの人間性から来るのか過去の経験から来るものなのかは分からんが、知っているという繋がりが生まれるはずだ。」

「・・・教えてくれるのならな。」


性格の合わない人間にそんなこと話してくれるわけないだろうが。

俺はずっと仲間への対応で悩んでいる。

元の世界だろうが今の世界だろうが何も変わらない。

少し暗い雰囲気のまま俺はグレイさんの部屋を後にした。

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異世界に召喚されたしSNS作っちゃいます!~可能性のカギを投ずるもの~ ドレイン @DrainDrain

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