第3話 ちっ・・・現実か・・・。

「おはようございます。」


目が覚めると、いつもの部屋ではなく豪華絢爛な部屋のままで、銀髪メイドが覗き込んでいた。

……夢じゃ無かったのか。


え……マジですか?

ということは俺は本当にこの国の問題をひとつ解決しなければならないってこと。

しかも解決すべき問題も分からない。

王様も随分と雑だ。

何が「国を見て回れば何かわかるじゃろ」だ。

分かるわけないだろ。


それに俺はやらないといけないことがある。

さいたまズを今後どうして行くか?

喧嘩解散して中途半端な状態のままだ。

どうにか軌道修正してあいつらにやる気を取り戻させないといけないのに。

こんなとこで知ったこっちゃない国の問題など考えてる暇は無い。


「ふざけやがって……。」

「何をごちゃごちゃと朝から独り言を話しておられるのですか?寂しい人ですね。」

「勝手に呼び出して意味のわからないことを言わたら、ごちゃごちゃ言いたくなるだろ。」

「任せてくださいと言った物分りのいい好青年はどこに行ったのですか。私はその方に用があります。」

「てめぇ……。」


息するように嫌味なこと言うやつだ。

とにかく元の世界に帰らないといけない


「どうにかして元の世界に俺を戻せ。」

「言ったでしょう。王は今後4年間、召喚はできないと。」

「他にも使えるやつがいるんだろ。」

「なぜ王が王の立場にいるのか分かりますか?この召喚魔術がとんでもないものだからですよ。もちろん王様になれたのはそれだけではないですが。」

「なっ……ふざけんじゃねーよ!」

「私に暴力を振るっても元の世界には戻れませんよ。」

「ちっ……。」


女どころか人に暴力らしい暴力は振るったことがない。

成人するまで殴り合いの喧嘩をしたことなければ、人に暴力を振るう方法なんて分からない。

一人っ子だったしな。

俺に兄か弟でもいればぶん殴り合いでも経験できただろう。

そういえば、さいたまズの仲間とした喧嘩……まともに人の胸倉なんて掴んだの初めてだったかもな。

それにハンナさんは表情1つ変えず俺の顔を見ていた。

その表情に俺は何も言えなった。


「やはり物分りがいいですね。」

「やめろ。」

「私自身もあなたの立場は十分に理解しているつもりです。」

「理解しているとは思えない嫌味っぷりだったが?」

「申し訳ありません。」


メイドらしく、丁寧に慎ましいお辞儀をした。

嫌味ったらしい言い回しで腹が立つが、ハンナさんはあくまで上からの命令で俺の世話をしてくれてるだけだ。

俺が置かれた現状にハンナさんは何も関係ない。


「改めまして。ハンナ・ウェインライトと申します。」

「……町田蓮斗です。」


この国だと、ハンナ家かウェインライト家のどちらになるのだろうか。

まぁ王様もハンナって言ってたし、ハンナの方が名前っぽいか。


「マチダ様。お洋服を用意しておきましたのでお着替えください。」


服を受け取り着替えようとしたが、ハンナさんがこちらを見て立っている。

凄まじく着替えにくい。


「てか着替えてる時隣に居られると普通に恥ずかしいんだけど。」

「私は問題ないです。訴えたりしないので堂々と脱いでください。」

「いや、ネグリジェみたいなやつ1枚着せられてるだけだから……これ脱ぐだけで全裸なんだけど。」

「股間の1本や2本気にしませんよ。それにその服を着せたのは私です。」


すでに見られた後だったと。

脱いだときに再度この体を見たが、やはり見覚えのない体は気持ちが悪い。

それに、この左肩に入っているタトゥーは何の模様だろうか。

波のような、煙のような、なんともいえない模様だ。

この人が趣味で入れたのか?

タトゥーそのものに偏見はないが、入れる気が一切なかった俺からしたら今すぐ消したい。


「その左肩が気になりますか?」

「当たり前だ。こんなの入れたことがないから。」

「本来はそこに囚人番号が彫られています。それを上書きしているのですよ。」


この人の体に彫られているものは、タトゥーというより入れ墨という表現のほうが正しかったか。

数字を掘ることで、一度犯罪者になった人間は一生罪を背負うことになるのか。

かなり、旧時代的な考え方だ。


「ちなみにこの人は何をやらかしたんだよ?」

「……教えることはできません。」


"知りません"ではなく、"教えることはできない"ってどういうことだ。

もう死刑が執行されたなら、教えたところで別に問題はないだろう。

ハンナさんが教えてくれないのは王様から口止めされているからか?

俺はこの国で何をやらかしたか分からない人間の体で生きていかなければならない。

どうすんだよ……このトスカノさんの被害者にばったり出会ったら……。

くそ……またイライラしてきた。


「大体、どうして王様はこんなややこしい召喚方法にしたんだよ。体ごと呼べばいいじゃねーか。」

「王様曰く、最初は体ごと召喚する予定でしたが、魔術を発動させたら近くの使用人に人格と記憶が上書きされたとのことで、理由は良く分かっていないとのことです。」

「人の人生を変えてるんだから、もう少し詳しく調べろよ。」

「……まだ、受け入れられませんか?」

「当たり前だ!俺は元の世界でやり残したことがあるんだよ!さいたまズ……仲間と仲違いしたままなんだよ!」


元の世界とこっちの世界での生活、天秤にかけるまでもなく元の世界のほうが大事だ。

不完全燃焼のまま、さいたまズに手が届かない世界に連れて来られたんだ。

納得できるはずがない。

だが、もう……どうしようもないんだ。

自分なりに納得できる理由を見つけないといけない。

ん?待てよ……。


「そういえば、"人格と記憶の上書き"って言ったよな?」

「ええ。人格的に殺す執行方法ですから。」

「じゃあ元の世界の俺は今も普通に生活している可能性もあるのか?」

「さぁ……でも"元の世界のあなたが今まで通り普通に楽しく生活している"と思い込んだほうが、現状を受け入れやすいのではないでしょうか。」


元の世界の俺はそのまま生活しているか、人格と記憶が抜かれ植物人間になっているかの2択だ。

そのまま生活しているのなら、俺はこの世界の生活に身を投じるのも悪くない。

無理やりだが、この理由なら思い込み、受け入れることができる。

元の世界の俺よ……絶望的なさいたまズのこと任せたぞ。


「外に出る前に一旦ベランダから見ますか?」


誘われるがままにベランダへ出た。

オレンジを基調とした三角屋根のほぼ同じ高さの家がズラっと並んでいた。

サイトとかで「1度は見るべき世界の景色」みたいなタイトルでまとめられてそうだ。

王宮に向かって一本道が通っていて、都市を囲うように壁が建っていた。


「お城があるここはカンナビア王国の王都グランです。」

「ちょっと高いところから見渡すだけで全貌が見えてしまうくらいの広さなんだな。」

「それでもグランは10万人程度の大都市ですよ。」


こちらの10万がどの程度なのか分からないが、カンナビア王国にここ以上の都市はないということらしい。


「カンナビア王国は50年前の戦争で3つの大公国が統一され、できた国です。」

「あの壁は戦争の名残り?」

「そうですね。まぁ今となっては陽の光を遮り体内時計を狂わすためだけの無用の代物ですが。」


城塞都市ってやつだっけ。

今でも一応都市を広げる時は壁も一緒に広げるらしいが戦争はしていないらしい。

戦争をしてても困ってしまう。

日本は平和だったし、徴兵なんてものがあって連れてかれたとしても、無駄死にするだけだ。

異国から人間1人の人格と記憶を召喚する魔法が使える国の戦争なんて想像するだけでも恐ろしい。


「今の段階であなたが国のためにできそうなことはなんだと思いますか?動画を投稿するお仕事とやらが活かせそうなことはありそうですか?」

「いや分かるわけないでしょ。もし、この世界に何か動画を投稿する場所があるのなら、その舞台で活躍出来るかもしれない。無いのなら知識を活かしてその動画サイトを1から作れるかもな。」

「そんなものはありませんから、それを作ることがあなたの目的では?」


俺が呼ばれたということは、動画で他人を楽しませることのはずだ。

舞台が無いなら作る?

でも……作るべき"理由"は?

それに俺は作り方なんて知らない。

俺はすでに完成したものを"最大限利用する側"だったんだから。


「俺からも質問いい?この国で今起きている問題って何?ほかの召喚者は何をしたの?」

「大きな"問題"があるのですが、あなたのお仕事が活かせるとは全く思えないんですよね。……もう面倒くさいので外に出ましょう。国の様子とあなたより前に召喚された者が作った物を見に行きましょう。」

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