第13話 ダンジョンアタック!

 ゼットンちゃんねるでは、いつのまにか私の存在が大きくなっていた。


 私がいないだけでリスナーさん達が騒ぎ立て、居る時といない時ではスパチャの入り具合も違う。

 助けると思って来てくれると嬉しいと彼女から長文のメールが送られる事もしばしば。


 だからと言ってあの子とずっと付き合って行くかと言われたら答えはNOと言える。


 友達としてたまに遊ぶくらいなら全然大丈夫なのになぁ。


 そんなゲームのことを考えながらご飯を食べていると、お父さんが味噌汁を啜りながら一言。


「何か悩み事?」

「んー? 悩みってほどでもないけど。最近ゲーム内で妹分が出来たの」

「ほう?」

「懐いてくれるのは嬉しいんだけど、常に一緒ってわけにもいかなくてさ。どうしたものかな、と」


 嘘は言ってない。本当のことも言ってないけど。


 特にお父さんは色んなところに文字通り顔が利く人だからこの場で余計なことを言おうものなら迅速に処置すべきと動き出すこと間違いない。


 溺愛されている自覚はあるので、お父さんに事実を述べるわけにも言えないのだ。もしあの子の家があの子で生活費を稼いでいるとしたら、家の場所を勝手に調べて現金をプレゼントするくらいやりかねない。


 それで築き上げた友好を何度台無しにされて来たことやら。

 沈黙は肯定と取られるけど、ここで大した悩みではないと一蹴してやれる気持ちでいれば如何にお父さんと言えど口出ししてこないのは今までのやりとりで熟知している。


「ごちそうさま」

「お父さんに手伝えることがあれば言いなさい」

「ん、その時は私の口から言うから。それまでは私の中でケジメをつけさせて」

「そうか」

「じゃ、学校行ってくるね」

「お父さんの車で送って行こうか?」

「やめて」


 無碍もなく一蹴してやる。好意は嬉しいけど、その結果嫌でも目立つことになるから。黒塗りのベンツなんて嫌でも目立つのに、そう言うの全然気にしないんだもん。


 学校での授業はそんな家族の事情を有耶無耶にするのにうってつけ。それに没頭できる時間が私の憩い。お昼休みの図書室の時間はプライスレス。

 今日も一日学業を無理なく過ごして家のあれこれを済ませ、ログイン。


 そして唸りをあげるメールが1005件。

 1005件!?


 送り主は現状一人。

 そう、ゼットンちゃんである。


「やっと来た」

「ごめんて」


【ゼットンちゃん一人で待ちぼうけしてたもんね)

【一人で待てて偉いね】

【もはやこのちゃんねるの看板は幼女ちゃんになりつつある】

【それはゼットンちゃんがあまりにも可哀想】

【ゼットンちゃんがんばえー】


 今日も今日とても彼女のチャンネルでは好き勝手な言葉が流れていく。

 もし私が同じ境遇を得ていたとしても、こんな責め苦を受けたらお父さんに泣きついてしまうかもしれない。

 そういう意味では彼女の面の皮の厚さは見習うところがあるかな?


「今日はどこ行くの?」

「今日はダンジョンアタックする! そのための枠」


【既に開始してから2時間経過】

【それまでは雑談枠だった件】

【幼女ちゃん来てからの接続数がおかしい】

【幼女ちゃんがこのチャンネルの看板だから仕方ない】

【ゼットンちゃんは泣いていい】

【支援スパチャ ¥1000】


「応援ありがと」


【ゼットン、この時意外に素直】

【誰だこいつ?】

【デレるだけでこの言われようである】

【金に汚い女、ゼットン】

【本家ゼットンへの風評被害がマッハ】


「それで、行くのはこの前のゴーレムいたところ?」

「違う。フィールドとダンジョンは別」

「へぇ。私そういうの疎いから教えてくれる?」

「任せて」


 道中、モンスター達を肉弾戦で投げ飛ばし、ダンジョンのあるエリアに到着する。


「あ、ここからはパーティ組まなきゃ離れ離れになるから」


 同時にパーティ申請が飛んできて、それを受理。

 一緒にゲートを潜るとさっきまでいた場所とは明らかに違う場所に飛ばされた。


「うーん別世界」

「これがダンジョンの特徴。くるよ」

「あいあい」


 周囲を見渡しながら歩くこと数分。

 彼女が杖を前に構え、新しく買った魔法で先制攻撃。


「炎よ渦巻け! プロミネンス!」


 ちなみにこれは攻撃型の補助魔法。

 ポイズン同様に状態異常を引き起こし、スリップダメージを与えるものだ。

 対象は結構広く、弱点属性は火だから効率は良い。


「からの、ブリザード!」


 火傷を負っても前進する姿勢を崩さないのは虫型モンスターの特徴か。触るのも嫌なので回し蹴りの格好からブリザードを発動させる。今の私は指輪をはめてのマジシャンスタイル。

 火力も十分だ。


「ナイス連携! でも火傷状態のモンスターに氷結ダメージの効果が2倍ってよく知ってたね?」


 きゃいきゃいとゼットンちゃんが予想外のことを宣う。

 もちろん、知らなかった。

 動いてるのを見るのも嫌。

 燃やしても近づいてくる。

 なら凍らしちゃえという消去法での選択である。


「ま、まぁね」


【あ、これ知らなかった顔】

【幼女ちゃんのドヤ顔頂きました】

【切り抜き不可避】

【ゼットンちゃんは許可とってあるけど、幼女ちゃんは許可ないから勝手に貼るなよ?)

【そうだった】


「切り抜きってなんですか?」


【ほら、知らないじゃん】

【そう言えばこのチャンネルゼットンちゃんのものだったわ】

【切り抜きとはそのチャンネルのお家芸を文字通り切り抜いて作るまとめの事。宣伝にもなるし、風評被害にもなる。顔出しNGの場合は拒否権があるで。ゼットンちゃんはスパチャ解除と同時に許可が下りてる】

【悪意ある切り抜きもあるから特に注意しないと】

【今までは厚顔不遜な女王様系幼女が看板だった】

【ここに来て幼女ちゃんが加われば向かうところ敵なし】


「うわ、絶対NGで」

「えーお姉ちゃん可愛いのに」

「可愛いとかじゃなく、目立ちたくないの!」


【草www】

【草に草を生やすな】

【今更遅いやろ】

【非公式掲示板が既にあるんだよなぁ】


「消して、今すぐ消して」


【有志が魚拓とってるから何度でも復活するで】


「お姉ちゃんが嫌がるならここでチャンネル切ろうか?」

「そうして」


【草】

【共演者からNGを出されてそのまま終了宣言】

【新しいな】

【俺ら<幼女ちゃんなら仕方ない】

【そうだな俺だって同じ立場なら同じことする】

【それ以前にこの女、配信許可取らずに配信してるで】

【それな】


 煩わしい話は一旦置いといて、ゼットンちゃんが謝り倒してくる。自分は耐えられるけど、巻き込んだ私の事をきちんと考えてくれるいい子だ。


「今日は本当にごめんなさい。あいつら好き勝手言うから気分悪いよね? あたしは慣れてるからいいけど、お姉ちゃんには辛かったよね」

「いいよぉ、ゼットンちゃんに付き合うのは私が決めた事だもん。それに、切り抜き? はゼットンちゃんが指示した物じゃないでしょ」

「うん」

「だからもしされてもゼットンちゃんを嫌いにならないよ」

「ほんと?」

「うん。だって私が目立つとお父さんが動くもん。お父さんはちょっと裏の世界で大物だったりするから、そういった不届き者に重ーい制裁が加わっちゃうの。なるべくそうならないために配慮しては居たんだけど、向こうから勝手に制裁されにいくんだったら仕方ないかな?」

「ぴぇ!」


 ゼットンちゃんは今の話で震え上がってしまった。

 私は普通に語って居ただけなのに、この怖がりよう。

 ちょっと素が出ちゃったかな?

 いけないいけない。こっちでは読書に勤しむって決めたのに。


「大丈夫だよー。ゼットンちゃんは私が守るから」

「お姉ちゃん! 好き!」

「私も大好き」


 一瞬これって百合? と思いつつも頭の中でこれは姉妹愛だと自分に言い聞かせた。

 もちろん恋愛感情なんてない。

 この子はきっとずっと一人ぼっちで生きてきたから、私と一緒だ。だからきっと誘われた時に見捨てられなかったんだと思う。


「じゃ、じゃあ配信再開しても大丈夫?」

「いいよ。ゼットンちゃんはそれでお小遣いを稼いでいるんだもんね? それくらい協力するよ」

「うん、ありがとう」


 照れながらお礼を口にする彼女はめっちゃ可愛いかった。

 やはり時代は強面の兄貴より可愛い妹ですよ。

 でも自分が可愛いと言われるのはNGだ。

 特に私を幼女扱いした人、名前覚えたからね!

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ダークエルフさんは読書をご所望です 双葉鳴🐟 @mei-futaba

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