第6話 はじめての召喚獣!

 

 結局その日、私達はレミアさんにダークエルフの戦い方についてみっちり教わった。

 極論、彼女が私達に言いたいことはただ一つ。


 私達のプレイで他のダークエルフ達が同じ括りで見られてしまうので十分注意しろとのことだった。

 ゼットンちゃんはブーたれていたが、キリキリマイくんは意外にも頷いていた。

 私はこの先パーティー組む予定はないので保留としておく。


 因みに私がダメ出しを食らった原因はダークエルフらしくないと言う一点だけで、他は合格だった。

 ダークエルフらしいって何だろう?

 決して一緒に採点してもらった二人の様な人たちのことではないんだよね? うーん、こっちも保留かな?


 そんなこんなでレミアさんからのありがたいお話の押し売りは数分で終わった。


「あ、そうそう。レミアさんが扱ってたオーブってどこにいけば買えるんですか?」


 ダークエルフらしい戦いの参考にと手本を見せてくれた時、彼女はオーブを使っていた。

 オーブから小さいワンちゃんを取り出して一緒に戦っていたのだ。

 そこで私は唐突に思い出し、入手場所を訪ねていた。


「へぇ、マールさんは召喚に興味があるのね?」


 レミアさんの瞳の奥がキラリと光った。

 ようやく問題児が一人、自分の話を真に受けてくれたかとうんうん頷いている。


「え、ええまあ」


「ならば私の行きつけのショップを教えてあげるわ。Fランクでも買えるお値段だし、任せて!」


 私、とっくにEランクですけど?

 これも言わない方がいいのかな?

 折角の善意を無碍に断るのも悪いしね。

 レミアさんに引っ張られて歩くこと5分。

 町の外れにある怪しい小屋の前に連れてかれる。

 え、こんなところに?

 不信感を抱く私に途端にレミアさんが弁明する。


「ごめんねー、その子腕はいいけど人嫌いで。こんな街の隅っこで商売してるのよー」


「はぁ、そうなんですか」


「チャーシュー、居るー? お客様よー?」


「奇抜な名前ですね」


「なんかダークエルフって奇抜な名前の子が多いのよね。エルフは普通なのに。そう言うところも含めて変人が集まりやすいのかもしれないわ」


「あー、レミアちゃんかー。うん聞こえてたけど面倒くさいからスルーしてた。なに?」


 薄汚い小屋から現れたのは見目麗しいダークエルフの少女……なんだけど豚の耳のヘアバンドに、首から下は豚の着ぐるみに身を包んでいた。大丈夫かな? 今から不安で仕方ない。


「折角あんたにお客さん連れてきたのに相変わらずやる気ないわねー。ごめんなさいね、この子基本的にいつもこんななの。何度も言うけど腕だけはいいの。本当よ?」


「あの、後日でも構いませんよ?」


 逃げの姿勢で後退っている私の袖をレミアさんはとっさに掴んだ。

 どうやら買うまで帰してもらえないらしい。

 悪い人ではないんだろうけど、とことん押しは強かった。

 お父さんほどでは無いので、まだ平気だけど。


「んで、どんなオーブが欲しいのー?」


 チャーシューさんが眠気まなこを擦りながら私に問うてくる。


「初心者用だから通常モンスタータイプで平気だと思う。一応Fランクの子だからお値段もそれくらいで見積もってあげて?」


「分かったー」


 何やらトントン拍子に話が進むけど、通常モンスタータイプって何?

 まずそこから話を聞いてみる。


「オーブって物によって封じ込められるモンスターが変わるんですか?」


「ええ、そうよ。召喚契約を結んだモンスターの専用のお家がオーブなの。そのモンスターのサイズに見合った空間を見極めてあげなきゃ勝手に出て行っちゃうのよ。そういうケアもあって、オーブはピンキリなのよ。でもマールさんは召喚初心者だし、最初は小型モンスターから契約していけばいいと思うわ」


「うーん……実は私、大型のモンスターと契約する約束を取り付けてまして。出来れば小型よりも大型の方が良いのですが」


「えっ、この辺に大型モンスターなんて居たかしら? チャーシュー、知ってる?」


「レミアちゃんが知らない情報を私が知ってると思うー?」


「そうよね。でもマールさんは大型だと言う。でも大型のオーブってそれ相応のお値段よ。払える?」


「手持ちが6,800あるのでそれ以内であれば」


「うん、普通に足りるわね。どうもマールさんから強者のオーラを感じると思うわけだわ。聞いてなかったけど、今ランクいくつあるの?」


「Eですね」


「わお、普通に強いじゃない。なんで私に声かけてきたのよ」


「いえ、ちょっと食後の休憩にちょうど良いかなーと。それに他のダークエルフプレイヤーがどの様に戦っているかが知りたかったのもありますし、結果的にこういう出会いもありましたし行って良かったと思ってますけど?」


「そう言って貰えたら募集した甲斐があったわ。普通は聞くだけ聞いて何も感じ取れずに解散よ。今回も眼鏡君は聞いてくれてた風だけど、ちびっこは聞く耳持たずって感じだったじゃない?」


「あー……あの子はきっとご両親に甘やかされて育ったのでしょう。なので自分を中心に世界が回ってると思ってしまうんじゃないですか?」


「大人な考えね。もしかしてマールさんて年上?」


「やだなー、まだ高校生ですよ」


「えっ」


「えっ」


 私は変なことを言っただろうか? 二人ともびっくりしながら顔を突き合わせて固まっちゃってる。

 確かに身長は伸び悩んで150に届かないくらい。

 でもクラスには私よりちっちゃい子もいるし、気のせいだよね? うん、平均平均。


「それよりも大型サイズのオーブを購入したいのですが……」


「ああ、うん。ごめんなさいね、チャーシュー、お会計」


「はーい。本当は6,000Gピッタリのところ、レミアちゃんからのご紹介って事で二割引でいいよ。4,800Gねー」


「わっ、ありがとうございます!」


「それにしてもその大型モンスターが気になるわね。一緒に行ってもいいかしら?」


「どうぞどうぞ。ご本人も喜ぶと思いますよ」


「???、ご本人?」


 レミアさんは頭の上に疑問符を並べ、私達はチャーシューさんのお店を後にする。


「あ、その前にジャイアントボアの納品依頼も受けているんでした。少し寄って行ってもいいですか?」


「構わないけど。手伝いいる?」


「大丈夫です! 受付のお姉さんから直々に頼まれた以来なので」


「じゃあパーティー組んで置こうか」


「どうしてです?」


「パーティーを組んでおくと倒した人以外にもドロップ品が渡るんだ。それをマールさんに渡せば手伝ったことになるでしょ?」


「だからレミアさんはドロップを優先的に出す様に仕向けていたんですね」


「そうなの。でもあの通りゼットンさんは周囲一帯をまるこげにしてしまうでしょう? この時点で毛皮とお肉は全滅。レベルだけ上げるんならいいけど、ドロップを目的とした集まりなら居場所がなくなっちゃう。それを危惧して注意喚起をしてるのよ」


 あ、ボア素材の中で牙の売値だけやたら安かった理由ってそういう……


「そうだったんですね。でもキリキリマイくんは?」


「あの子毒殺させたでしょ? あの時点でお肉はみんなで食べられなくなっちゃってる。そして毛皮も変色しちゃうし発酵して色味も悪くて誰も買ってくれない。その前に腐り落ちちゃうからドロップもしないんだ」


「要は仕留め方ですか?」


「そこなのよー。マールさんの場合は手段はともかく、手際はすごく良かった。本当はちゃんとダークエルフらしく魔法使って欲しかったけど、どうもマールさんはその形で完成されちゃってるぽいから強く言わないことにしたわ」


「ありがとうございます」


「だけど世間様はそうは思ってくれないの。ダークエルフってすごく特徴的な外見してるじゃない? 銀髪に褐色肌。イコールで魔法使いって認識で見られちゃうのよ。でもマールさんは力でなんとかしちゃえるのよね?」


「筋力に100ポイント振りました!」


「流石! 逆に尊敬するわ」


 レミアさんと雑談をしながら歩いていると、モフウサギが飛びかかってくる。今日は何時もより多い。パーティを組んでるからかな?

 まるで親の仇の様な血走った目で私に飛びかかってくる彼らだが、私は一歩も身動きすることなく迎え撃つ。


 |モフウサギA、B、C、D、E、Fが現れた!

 |マールの先制攻撃!

 |気合の咆哮!

 |モフウサギA、B、C、D、E、Fは萎縮した!

 |マールの回し蹴り!

 |モフウサギA、B、C、D、E、Fに36ポイントのダメージ!

 |モフウサギ達をやっつけた!


「こんな感じです。ってあれ、レミアさん? どうしたんですか、尻餅ついちゃって」


「急に大声出すからびっくりしちゃって腰が抜けちゃった」


「もー、しっかりしてくださいよー」


「ごめんなさいね。手伝う以前の問題だったわ。マールさんの役に立てるとか思い上がってた私がバカみたい」


「あ、もしお肉が落ちたら私に回して貰えますか?」


「いいけど、どうして?」


「ビッグボアをおびき出すのにとても有効的なんですよ!」


 いい笑顔で笑う私に、レミアさんはどこか一歩引いた距離で私にお肉を手渡してくれた。パーティーって回数こなさなくていいから便利かも。そのままズンズン進んでいって、ちぎっては投げ、ちぎっては投げてようやくボアの生息地に。

 さっき手に入れたお肉をそこら辺に並べて、餌にかぶりついたミニボアに覆いかぶさる。


「よーしよしよしよしよし……」


 ミニボアを餌付けして全力でモフる私をどこか気の毒そうな表情で見守るレミアさん。


「ノンアクティブとはいえ一応モンスターよ、その子達?」


「分かってますよ。でもこうした方が私も嬉しいし、ビッグボアの攻撃もワンパターンになって一石二鳥なんです。さて、来ましたね!」


 |ビッグボアが現れた!

 |ビッグボアは興奮している

 |ビッグボアの突進攻撃!

 |マールのジャストカウンター!

 |ビッグボアは浮き上がり、仰向けに寝転がった!

 |マールの正拳突き!

 |痛恨の一撃!

 |ビッグボアに50ポイントのダメージ!

 |ビッグボアをやっつけた!

 |ビッグボアの毛皮を手に入れた!

 |ビッグボアのお肉を手に入れた!


「見事なものね。それとお肉の品質の高さが凄まじいわ。流石にここまでとなると私でも見たことないかも」


「はい。だから私の方に依頼が来たんだと思います。どうもあの街で近々パレードをするらしくて……レミアさんは知ってました?」


「聞いたことないわね。このゲーム自体が一週間前に公式サービス始めたばかりのものだし」


「あー、じゃあ他のイベントで似た様なクエスト受けてるプレイヤーさんがいるかもしれませんね」


「そうかもしれないわ。それで、お肉はいくついるの?」


「あと15個なんです」


「分かったわ。集まるまで付き合ってあげる。本当は手伝いたいんだけどね、こっちが何かする前に終わっちゃうからもどかしいのよ」


「あはは、ずっとこのやり方でやってきたのでごめんなさい」


「いいのよ、マールさんは悪くないわ。本来ステータスの割り振りなんてもっと自由な筈だったのに、いつからか種族で差別するようになってしまったの」


「それは悲しいですね」


 思わずモフる手から力が抜けてしまいそうになる。

 見た目だけで相手を勝手にそうだと思い込む輩に散々辛酸を舐めさせられてきた私は、その手の手合いが大嫌いだ。


「本当にね。そろそろかしら?」


 流れ作業になってきたボア討伐を複数回こなしていたあたりで数が揃ってきたかしらと申告を貰う。


「はい。気持ち多く手に入りましたので、そちらは違う餌付けに使いたいと思います」


「???」


 レミアさんはまだ分からない様子。

 私は森の奥にある湖まで行くと、ヌシ様を呼びつけた。


「おーい、ヌシ様ー。また遊びに来たよー」


 そういうなりザバァッと水面を突き破って現れたのは森のヌシと呼ばれる大きな蛇さんだ。


「──グレータースネイクッ! こんな序盤で!?」


『知らぬ顔があるようだが?』


「退屈してるって言ってたから連れてきたんだー。お肉も持ってきたよ。手前に並べるね」


『おぉ、おぉ、すまぬのう。ちょうど腹が減っていたところじゃ』


 ヌシ様がガツガツとビッグボアのお肉に食らいつく。

 その様子を見て、レミアさんはようやく警戒心を取り払ってくれた。


「これがマールさんの言っていた大型モンスターなのね」


「うん、受付のお姉さんにダークエルフ用にと見繕ってもらったクエストにあったんだよ。正気に戻したら契約しようって言ってくれたの」


「ギルドの受付にそんなカラクリが!?」


「どうしたの、レミアさんお顔真っ青だよ?」


「ああ、いやなんでもないわ。でも実際相手にしてどうだった?」


「すごく強かった! でも、助言をくれるお兄さん達がいてね、その人に守られて私はやり遂げたの」


「そうだったのね。だからグレータースネイクの信頼を勝ち取れたんだ。私はβ組だけど大型サイズを召喚してるプレイヤーは見たことがなかったわね。きっとマールさんはこれからも名を馳せていくことになると思うわ」


「別に名声に興味は無いんですけどね」


「マールさんにその気がなくても周りが放って置かないわよ。今日数時間付き合っていただけで私の世界は塗り替えられた気分だもの」


「なんかよく分からないけどありがとうございます」


 どこか興奮気味にレミアさんが思いを語り。

 でも目立つのは極力避けたいところなんだよね。

 普通にプレイして、読書に時間を当てたいの。

 力とか名声とか現実だけでお腹いっぱいだよ。


 そのあとヌシ様と契約した。

 名前はヌシ様にした。呼ばれ慣れてる方が良いかなっていうのと、お爺ちゃん口調がそれっぽかったから。


 ギルドに戻って納品をすると、一つ50Gのお肉が100Gで買い取って貰えた。併せて30個で3000Gになった。

 チャーシューさんに割引してもらったとはいえ、半分以上減っちゃったからね。お金も増えて、そろそろ現実に帰ろうと思ったところでログアウトボタンがグレーになってるのに気がついた。


 あれ? 街の中じゃログアウト出来ない?


「何を呆けてるの、マールさん」


「あ、レミアさん! 実は、ログアウトしようとしたらボタンが押せなくて!」


「ああ、本当に新規組だったんだ。どうも行動が落ち着いてるから私と同期かと思ってたわ」


「えー」


「ふふふ。笑ってごめんね、でも大丈夫。ギルドの前に宿屋さんがあるでしょう?」


「はい! お昼ご飯はそこでいただきました。とても美味しかったです」


「そこでチェックインすればログアウト扱いになるの」


「えっ? お金は?」


「最初の街だからかな? 不思議と発生しないのよ。お得よね」


「じゃあ再ログイン時は?」


「チェックアウトという扱いで部屋から出てくるのよ。こうしてプレイヤー達はこの世界に馴染んでいるの」


「ふぇー、そんな仕掛けが!」


「私も丁度ログアウトするところだったし、一緒にどう?」


「では、お供します!」


 私はレミアさんに手を引かれて、一緒にログアウトするのだった。


 ──────────────────

 プレイヤーネーム:マール

 種族:ダークエルフ

 種族適性:魔法攻撃力+10%、水泳補正+10%


 冒険者ランク:E

 LV:15/20

 依頼達成回数:4回

 称号:『蛮族』

 資金:2020G


 生命:150/150

 魔力:150/150[+50]

 

 筋力:100

 耐久:0+[+15]

 知力:3+[+1]

 精神:0+[+31]

 器用:0

 敏捷:0

 幸運:0

 割り振り可能ステータスポイント:28


 武器1:初心者の本★[知力、精神+1]

 武器2:太陽のオーブ★★[精神+20、魔力+50]

 体上:タランチュラベスト[耐久+15、精神+10]

 体下:初心者のスカート

 頭部:なし

 装飾:なし

 装飾:なし


 ◼️戦闘スタイル【ダークエルフ】

 <物理:素手>苦手:威力20%ダウン

 気合の咆哮

 ジャストカウンター

 飛び蹴り

 正拳突き

 羽交い締め

 超直感

 朧車

 集気法


 <魔法:杖>得意:威力10%アップ

 なし


 <補助:本>

 なし


 <召喚:オーブ>

 Eヌシ様/グレータースネイク【150】

 ──────────────────

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