第3章 『聖王』×『星王』編
31. 『聖王』と『星王』
それは夢とは思えない程穏やかで、鮮明で、
透き通る青空、暖かな陽光、心地良いそよ風。
初めて見るはずの情景だが、何処か懐かしくて胸がキュッと締め付けられる。
俺は男であるはずだが、今この場においては女性であり、自身でもそのことを疑わず認知していた。
そして
景色とは対象的で、瞳では朧げにしか捉える事が出来ない。
ただ温かく優しげな表情で笑いかけてくれたように感じ、
彼は
そしてもう一人、小さな女の子がいた。
この少女は誰だろう?
俺は知らないが、私は知っている。
……
すると、それを皮切りに
世界を滅びへと導く最悪の敵——"邪神皇"と永く続いた戦い。
やっとの思いで奇跡的に討伐を果たし、ついに世界には真の平和が訪れていた。
その平和を満喫すべく、
だが——この後すぐだった。
訪れたはずの平和が、ただのかりそめにすぎなかったのだと知ることなるのは……。
周囲の情景が瞬時に変化する。
崩壊した街。
今にも崩れ出しそうな建物と瓦礫の山々。
茜色の夕焼け以上に存在感を放つ、真紅の炎。
そして聖剣を握り、血を流す夫が必死に声を荒げる姿。
「逃げろ——ッ! ルミエルを連れて!! その子を……頼ん、だ……」
悍ましいほど深き闇に満ちた漆黒の剣が、天より無数に降り注ぎ夫の体を容赦なく貫く。
彼はそのまま動かぬ
反射的に上げた声は、俺のものではなく
——その後、娘のルミエルを守り抜くため勇猛果敢に戦った。
だが、結果的に閉じ込められ命を落とす事になる。
安全だと信じた、ダンジョンの一室で……。
愛しい
"あなた、ルミエル……ごめんなさい……"
夢の外側から激しい振動が加わり、俺はゆっくりと現実世界へと引き戻される。
その時、瞳から一筋の涙がスゥーッと顎まで伝うのを感じた。
◇
「ねぇ、星歌……大丈夫? 悪い夢でも見たの?」
ゆっくりと瞳を開くと、目の前で銀髪に碧色の瞳を持つ女性が心配そうに見つめている。
華奢な身体付きであるが、出る所はしっかりと出ている。
その豊満なおっぱいは、男女問わず街行く人の目を引き寄せ、釘付けにするに違いない。
とても二十一歳とは思えないオーラが放たれている。
そう……彼女こそ米国の代表プレイヤーであり、【聖王】の異名を持つアメリア・ワシントンだ。
ここは彼女のプライベートジェット機の機内。
アメリカまで招待してくれた上に、俺をもてなすために飛行観光をしてくれたのだ。
ただ、S級ゲート騒動により休む間もなかったためか、疲労もあり迂闊にも居眠りをしてしまっていたらしい。
「ごめん、アメリア。ちょっとウトウトしていたみたいだ」
「ううん、大丈夫よ。少しでも楽しんでもらえれば嬉しいって思ってたから」
悟られないように平然を装うが、リアルすぎる夢が脳裏に焼き付いて離れない。
あの夢の中で、俺は『希望の魔王』になっていた。
夢の最後に映し出されたダンジョンは、俺が彼女の亡骸を見つけた——つまり【魔王スキル】を【ダウンロード】した場所と同じだ。
『希望の魔王』には伴侶がいて、更には娘までいたのか。
娘の名前は、ルミエル……だったな。
あの後、一人で残されたルミエルはどうなったんだ?
いや、それより何故今になってこんな夢を……?
考え出すとキリが無い。
眉間に皺が寄っていたのだろうか。
深刻そうな表情をしているであろう俺の顔を、アメリアはジッと見つめて来る。
「顔色も良くないし、一度地上に戻りましょう」
「……すまない。ちょっと疲れてるのかな」
「うーん。最近ダンジョンに行けてないのかしら?」
言われてみれば、あのS級ダンジョン攻略以降、忙しくて一度もダンジョンに足を踏み入れていない。
身体が鈍らない程度に運動はしていたが、実戦は皆無だった。
「やっぱりね!」
俺の表情から読み取ったのか、アメリアは得意げにそう話す。
「ねぇ、提案なんだけど……。私と一緒にペアを組んでこれに出場しない?」
続けてアメリアは、鞄からタブレットを取り出してとあるページを見せながらそう呟く。
———————————————————————
【第五十回 全米ツーマンセルプレイヤー記念杯——通称:『ジェミニ杯』について】———————————————————————
記事の見出しにはそう書かれていた。
「『ジェミニ杯』……?」
「そうよ。アメリカではプレイヤー間の実戦が重視されていて、生命活動を停止させなければ何でもありの超過酷な大会がいくつか開催されているの。その内二人ペアで挑めるのが『ジェミニ杯』よ!」
既にワクワクした様子でアメリアはそう語る。
何でもありの超危険とも言える実戦形式の大会。
なるほど……。
だからこそ、米国のプレイヤーは男女問わず屈強な戦士たちが多いのか。
一度アメリアと手合わせをしてみたいとは思っていたが、ペアを組んで戦うのも得られるものが多そうだ。
それに【
無論、【ダウンロード】すらも自動で行える。
つまり……今まさにアメリアが使えるスキルの全てが、俺の瞳に映し出されており、同時に俺自身のスキルとして扱えるのだ。
より強いプレイヤーと対する事で、俺の使用できるスキルの幅も広がるのであれば『ジェミニ杯』に参加しない手はない。
「参加するよ。アメリアとペアで!」
「決まりね。ちなみに優勝商品は『白金のスキル書』よ」
「まじかよ……! 俄然やる気が出てきたよ」
どんなスキルでも望む形で手に入れる事が出来る、超貴重アイテム『白金のスキル書』。
現時点で欲しいスキルは思い付かないが、持っていれば必ず使いどきがくるはずだ。
「よろしく頼むよ、アメリア」
「ふふっ、私の方こそよろしくね。星歌!」
互いにはにかみながら、握手で契りを交わす。
『聖王』×『星王』——『ジェミニ杯』を攻略すべく、最強タッグが誕生した瞬間であった。
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