30. 国家代表プレイヤー

 ——やった、のか……?


 全ての力を出し切り、目の前に存在していた災厄の闇が祓われたことを確認する。

 全身から放出されていた虹色の輝きは、その役目を終えゆっくりと宙へ霧散していく。


 ぐったりと横になり、眠ってしまいたい衝動に駆られながらも、ドローンへと目線を向ける。

 勝利を宣言するためにも、疲れ切った右腕をプルプルと小刻みに震わせながら、天へと掲げた。

 黒い刀身が喜びを表すように一瞬、キラリと光を帯びたように見える。


 この時ドローンのカメラ越しには、国民たちの熱狂的な雄叫びが行き交っていた。

 その声は決して聴こえるはずもないが、みんなが悦び、安堵する心は俺の元にも届いていた。


 しばらくして、今にも消滅しそうなS級ゲートからは、勇敢にも前線で戦った六人のS級プレイヤーたちが姿を現す。

 揃ってかなり重傷に見えるが、唄さんの治療が効力を発揮したのかみんな無事のようだ。


 ただし獅子王会長だけは抱えられている。

 その表情はまるで安らかに夢でも見ているかのようで、閉じられた瞳が開く事はなかった。


「パパ……パパァァァァァァァァァァ——ッ!!」


 美月さんに連れられて、近くまで来ていた愛ちゃんが喉の奥から絞り出すように叫ぶ。

 慌ててよろめきつまずきそうになりながらも、獅子王会長の元へと走りだした。


 俺がもっと強ければ、素早くA級ダンジョンをクリア出来ていれば……。

 そうすれば、獅子王会長を死なせる事なく、S級ダンジョンを攻略出来ていたのかもしれない。


 自分の力が足りなかったことを悔しく感じる。

 想定外の敵がいても、圧倒出来るくらいの力を手にしなければ……。

 大切な人を……この国を、守り抜くために。


 愛ちゃんが小さな背中を震わせ、悲しみに暮れる姿を見つめ……俺は更に強くなることを決意した。



 ◇



 数日後、獅子王会長の葬儀は盛大に行われた。

 これまで日本のプレイヤーたちを引っ張り、最前線で守り続けてくれた人。

 その人を見送ろうと、プレイヤーだけでなく全国から人々が集まっていた。


 それだけ尊敬される人を死なせてしまった……。

 ギルドをたたみ、これからはプレイヤー協会を引っ張っていこう。

 ——そこまで考えていたが、唄さんは全てをお見通しだったようだ。


「星歌さ……いえ、星歌くんは心配しないでくださいね。協会の会長には、私が立候補します。あの御方の意志は私が繋いでいきたいのです。あと愛ちゃんの親権も良ければ私が……。星歌くんにはが届いているでしょうから、そちらに集中してくださいね」


 彼女は秘書という立場だったが、S級プレイヤーであり取りまとめる力も持っている。

 愛ちゃんとも一緒にご飯を食べたりと、交流が多かったようだ。

 そのため、新会長になることも新しい母親になることも安心して任せられると感じた。


「ありがとうございます。これからのプレイヤー協会は、かつてのように最前線で引っ張っていくような存在にはならないでしょうけど……」

「えぇ。より多くのプレイヤーたちを支援する、そんな団体にしてみせます。だから、最前線のことはよろしくお願いしますね——日本代表プレイヤー総大将として」


 今回のS級ゲートは世界においても、前例のない初めての出来事。

 確実に災害規模で死傷者が出るだろうとまで予測されていた。

 だが結果、被害・損害は予想を遥かに上回り、俺の戦いを見た国民たち、そして海外のプレイヤーは『真の英雄』と評価してくれた。


 更にはS級ダンジョンを単独クリアしたことで、他のS級プレイヤーたちよりも実力が明らかに高いと見なされる。

『世界プレイヤー統括理事会』の決定により、アメリカ、中国に次いで世界で三人目の『国家代表プレイヤー』に任命された。

 これで俺の世界プレイヤーランキングは三位ということになる。


 つい先日まで『無能』と呼ばれた俺の名前が、世界に轟くまでになったのだ。



 ◇


 ——葬儀の日より、一ヶ月後。


 ギルド『スター・ルミナス』では、二つの準備で大忙しだった。

 一つは、もうすぐ正式なプレイヤー年齢に到達する美夜ちゃんの事前研修。


 本来であれば、プレイヤー協会が準備を整えて国内のダンジョンで実施されるのが通例だ。

 だが、今の協会は再編の時。

 トップが代わって間もないため準備をすることが難しく、同盟国であるアメリカのダンジョンを使用させてもらうことになったのだ。


 一応ギルドの責任者が付き添うことになっているが、この日俺は一緒に行く事が出来ないため留美奈に任せる事にした。


「私、すーっごくアメリカに行ってみたかったんだよね。何しようかなぁ。デカ盛りパフェ食べたいなぁ」

「美夜! 楽しみなのは分かるけど、留美奈ちゃんのこと困らせちゃダメだからね」

「分かってるよ、お姉ちゃん。私だってもう子供じゃないんだしちゃんとできるもん!」


 ……なんて姉妹の会話が聞こえて来る。

 本当は美月さんが付き添いたいだろうが、彼女には俺と留美奈が留守中の『スター・ルミナス』を任せなければならない。


 ——そう。

 俺も別件でアメリカに行く事になっているのだ。

 世界プレイヤーランキング第一位『アメリア・ワシントン』。

 彼女から、国家代表プレイヤー就任祝いと称したパーティーへの招待状を貰ったのだ。

 これが慌ただしくしている二つ目の出来事だった。


 アメリアを讃える声は、日本にも届いている。


 "神話の世界からやって来たとしか思えない"

 "力と容姿、そして優しさを兼ね備えた女神"

 "聖なる力の全てを扱う絶対的存在"


 ……等々。

 聞くだけで、その能力が普通ではない事が伺える。

 俺が更なる力を手にするための、きっかけをくれそうだ。


「ほんっと、ワクワクするな……。待ってろよ、アメリア・ワシントン」


 昂る気持ちを抑えきれず、俺はその名前を口にした。



 第2章『日本防衛レイド戦編』【完】



 ———————————————————————


 次なる舞台はアメリカへ!!

 第3章『31. 聖王と星王』へ続く!



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