24. 集う、S級プレイヤー!
プレイヤー協会、最上階会議室。
扉を隔ている状態でも、内側からは重苦しい空気が伝わって来る。
この中に、かつて憧れの的だった最強のプレイヤーたちが……。
S級プレイヤーが一堂に会する場面などそうそうない。
ドアノブに手を掛けるも思わず緊張のあまり静止し、一度深呼吸する。
——すぅー……よしっ!
半数以上は初対面のメンバーであるため、第一印象を悪くする訳にもいかない。
手汗で滑らないように、一気に扉を押し開ける。
視界に飛び込んで来たのは、円形の白い机に、前方のスクリーンに映し出される数々の写真。
椅子に座っていたS級プレイヤーたちの視線が一斉に俺の元に集まる。
どうやら俺以外は既に全員揃っているようだ。
「すみません、遅くなりました……」
「おぉ、待っていたよ。来てくれてありがとう星歌くん! 空いている席に掛けてくれたまえ」
獅子王会長の表情はいつになく強張っていたが、俺の登場を目にして心なしか和らいだように感じる。
「さて、これで全員が揃った。直接会うのは初めての者もいるだろうし、簡単にでいいから自己紹介をしようか。まずは私からだ——」
こうして獅子王会長から順番に、挨拶が始まる。
俺自身も自己紹介を聞きながら、今一度全員の名前と分かる範囲の情報を整理しておくことにする。
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【日本プレイヤー協会公認S級一覧】
■プレイヤー協会会長 / 獅子王 雄司
⇒『戦場の狩人』とも呼ばれる"最強のバランサー"
⇒メインスキルは【百獣の王】。
■プレイヤー協会会長秘書 / 鳳山 唄
⇒『救世の歌姫』とも呼ばれる"最強のバッファー"
⇒メインスキルは【バードソング】。
■黒ノ聖剣ギルドマスター / 黒山 凌
⇒『近接系最強』と呼ばれる"二刀流使い"
⇒世界に三本しか存在しない『魔剣』を、二本所持している。
⇒約三ヶ月間俺の師匠だった人だ。
■騎士ノ誓いギルド副マスター / 岸野 ナイト
⇒茶髪に青眼のハーフ。大柄で普段は白金と黄金の装飾が少し施された重鎧を装備し、盾と剣を構え最前線で敵を食い止める役割を担う。
⇒難易度の高いダンジョンでも死者を出したことはなく、"絶対守護者"と呼ばれている。
■すにゃいぱーずギルドマスター /
⇒黒髪ショートカットに猫耳カチューシャを着けている。
⇒"最強の超遠距離アタッカー"と呼ばれ、百発百中の魔法弓の名手。炎・氷・雷・光の四属性の矢を創り出せる。
■ギルド無所属 /
⇒唯一孤高のS級プレイヤーであり、ボブカットに綺麗に揃えられたぱっつん前髪。大人でありながら小学生に間違われるほど低身長かつ童顔、そして巨乳というスペックを持つ。
⇒"最強の魔法系"と呼ばれ、スキル【水態掌握】により水の液体・固体・気体に関する全てを扱える。
■影ノ千手ギルドマスター /
⇒漆黒のフードに身を包み性別も不明。声はボイスチェンジャーが使われている様子。
⇒"最強のトラッパー"と呼ばれ、スキル【地形操作】を柱にいくつもの魔道具を駆使する。———————————————————————
ちなみに残りのS級二人は既に亡くなっている七瀬 咲花さんと収監中の豪炎寺 紅だ。
そのため上記のメンバーに俺を加えた、計八人が今の日本における最強のプレイヤーということになる。
全員の自己紹介がそそくさと終わると、待ち兼ねたように獅子王会長が話を進める。
「さて、そろそろ本題に入ろうか……。実は数時間ほど前に渋谷のスクランブル交差点の真ん中で"S級ゲート"が出現した。半径約五百メートル。前例がなく、化け物と呼ばれるには十分すぎるほどの規格外な大きさだ」
額に汗をかきながら、懸命に言葉を絞り出す。
ここまでは俺も含めて、全員が事前に話を聞いているため激しい動揺は見られない。
だが——。
「——重ねて全国の約五十二箇所でA級ゲートが出現した……まさしく絶望的な状況に立たされている」
A級ゲート……すなわち、A級ダンジョンはS級プレイヤーが最低一人はいなければ攻略が難しいと言われる。
もちろんその他のプレイヤーもA級で固めなければ、死者が出てしまう可能性が高い。
S級プレイヤーが八人しかいない状況での、A級ダンジョン五十二箇所に、史上最大規模のS級ダンジョン。
誰がどう見ても日本滅亡の危機であり、集まったS級プレイヤー全員が絶句し言葉を失ってしまうのも無理はなかった。
「会長、ちなみに海外への支援要請はもちろんしたんですよね?」
刹那の沈黙を破るように、質問を投げかけたのは凌師匠。
獅子王会長は小さく頷き『あぁ……。だが……』という反応を示す。
それらから推測するに、その先の言葉を聞くまでもない。
——海外からの支援は来ない。
つまり、日本国内の戦力のみで戦うしかないということだ。
「正直S級ダンジョンにどれほど凶悪なモンスターが潜んでいるか分からない以上、フルメンバーで挑むべきだと考えている。ただ、そうすると残された五十二箇所のA級ダンジョン攻略に被害が出てしまう。最悪の場合数十箇所単位での"ダンジョンブレイク"も考えられる……」
……そしてそれは逆も然り。
A級ダンジョン攻略にも時間はある程度かかるだろう。戦力を分散すれば、S級ゲートの攻略すら怪しくなる。結果としてそれはS級での"ダンジョンブレイク"が起こりかねないということになるのだ。
「……だからこそ何か名案があれば、意見して欲しい。日本の危機に我々全員が力を合わせる必要がある」
獅子王会長は心苦しそうに、ため息を吐きながら話し終える。
この絶望的な状況に活路を見出す意見など、上げれる者は誰もいない。
皆が口を尖らせ、頭を抱える。
・・・・・・
・・・
そんな中、俺は静かにかつ真っ直ぐと右腕を天へと伸ばす。
期待の眼差しを向ける獅子王会長と唄さん。
何を言い出すつもりかと少し訝しむ様子の師匠。
そして残りのメンバーから向けられた視線は、新人が調子に乗り始めた……といったような冷たい視線だった。
「星歌くん。何か意見はあるかい?」
獅子王会長の問いかけに短く『はい』と答える。
そして間を置き——俺は堂々たる態度で提案を持ちかける。
「俺以外、七人のS級の皆さんでパーティーを組むと、かなりバランスが良いのではないかと考えています。最前衛で味方を護る岸野 ナイトさん。近距離攻撃特化の凌師匠に、攻撃と陽動を熟す獅子王会長。中・遠距離で戦える海原 真凛さんに、遠距離からの非の打ち所のない攻撃繰り出すのは美空 真弓さん。そして攻めのサポートとして完全無欠と言える九重 千影さんに、護りのサポートは唄さん。どうでしょう、この上なく完璧に近いパーティーと思いません?」
俺の話を聞き、各々が頭に考えを浮かべる。
今のところ批判や否定は起こっていない。
むしろ大体が肯定を示すように頷いている。
俺は皆の反応を確認し終え、話を続ける。
「……なので、俺以外の七人で"S級ゲート"を攻略してください」
次の俺の言葉には、全員が不可解な表情を浮かべた。
『は? A級ダンジョンは見捨てるのか?!』と言わんばかりに全員の眉が釣り上がっている。
だが、もちろんその答えも用意している。
誰かに突っ込まれる前に、更に続けて意見する。
「五十二箇所のA級ダンジョンは、俺が一人で攻略します。もちろん、全て"ダンジョンブレイク"させる前に潰してみせますよ」
いくらS級といえど、A級ダンジョンを一人で攻略するのは不可能ではないが難易度はかなり高い。
それが五十二箇所ともなれば、世界中を探してもなし得た者はいないだろう。
さすがに机上の空論を述べたと思われたらしく、岸野プレイヤーから激しく非難を受ける。
「てめぇ、今回のは洒落で済まねぇって分かんねぇのか?! S級ゲートは俺たちでいいとして、五十二箇所ものA級ダンジョンを一人で攻略できる訳ないだろ!」
「——いや、岸野くん。もはやこれしかないだろう」
岸野プレイヤーを制したのは獅子王会長。
彼の眼差しも、また完全に信用しているといった訳ではなさそうだ。
それでも望みを託すかのような、切実な想いが込められているように感じられた。
「本来であれば笑うべきところかもしれない。だけど、彼はS級プレイヤーとしてこの公の場で責任を持って発言をしたんだ。それに実力は折り紙付きだしな。私は、彼の意見を採用しようと思う」
「……私も、会長と同じ意見です。星歌さんの強さを知る者として賛成します」
獅子王会長に続けて、唄さんも声を上げてくれる。
それに続けて口を開いたのは、凌師匠だった。
「……ったくしょうがないな。師匠として弟子には怪我をさせたくはないってのに……。俺だって星歌の強さは良く知ってる。なんたって俺の弟子だしな。難しくても必ずやり遂げてくれるって信じてるよ」
この凌師匠の言葉を皮切りに、残りのS級プレイヤーたちも受け入れる状況へと変化する。
さすがに心の底から納得出来た者は少ないようだが……。
こうして、会議はつつがなく終了し、S級ダンジョン攻略には七人のS級プレイヤーで挑むことが世間にも公表された。
彼らは万全の準備とコンディションを整えるために、五日後に潜るとのこと。
その間にもA級ダンジョン攻略は進めておくべきなので、準備を済ませて今夜からソロで篭ることにする。
しばらく留美奈とは会えなくなるので、それだけが心苦しい。
ただ、損な役回りだと思える状況でもあるが、俺にとって今回の話は願ってもないことだった。
得られる戦闘経験値の多いA級ダンジョンを五十二箇所も独占出来るのだから、全てを成し得た後のレベルアップは計り知れない。
それにS級ダンジョンもイレギュラーがなければ、戦略的には先輩方だけで十分すぎるくらいだろう。
——計画通りだッ!
時計を確認するともうすぐ十八時になるところ。
ダンジョン出発前に、獅子王会長から直接話したいことがあると呼び出されていたため、俺は会長室へと急いで向かうことにした。
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