第27話 私がどうしても認められなかったこと

「ねぇ、ローゼ。君の心を教えて?」


 婚約者様は時々私の名前を短く呼称しますが、以前何故その都度変えられるのかと聞きましたところ、特に意味はないのだと返ってきました。

 と、問われたことに関係ないことを考えて、重ねての問い掛けにも答えずに私が黙っておりましたら、さっと旋毛に触れていた手を取られてしまいました。


「本当はあの場を君が仕切りたかった?」


「いいえ、それはありません」


 この問いの答えには、迷いがありませんでした。


 議長様であったこの御方が動かなければ、確かに私は元公爵様を含め、あの場にいた皆様の立場を追い込む発言を重ねていたように思います。

 けれどもそれは、あの場に誰もこの国を想う方がいない場合の最終手段と考えていたのです。


 他に発言してくださる方がいるならば、私は口を噤んでいた方がいいですからね。


「優しいねぇ、君は」


「優しさなどでは──」


 私の言葉は遮られてしまいました。


「だから、愚妹の行いは許せなかった?」


 責めるようではなく優しく問われたことで、少しだけ胸が痛んでしまいました。


 それで答えられずにいれば、取られていた手をきゅっと握り締められます。

 人の手に伝わる熱は、不思議と心まで温めるものなのですね。


「私もきっと同じ気持ちにあるよ、ローゼ。だから言っていい」


 婚約者様は、ここで急に考えを変えられました。

 何か心の内で自問自答されていて、その答えが出たようです。


「うん、そうだな。私から先に言おうか。すまないが、しばし私の愚痴を聞いてくれるか?」


 手を握り締める力にきゅっきゅっと強弱を付けながら、婚約者様は私の返答を待たずに語り始めました。


「王族として、あいつもちゃんと学んできたはずなんだ。私たちの言動の重みをね。それがどうしてこうなったか──」


 その疑問には心から同意致しますよ、新しい婚約者様。


「あれでも実の妹であるはずなんだが、未だに理解出来ないことばかりでね。君の事情も知っていたし、帝国について何も知らなかったはずはないんだ。あいつがどこに嫁ぐにしても関わりある話だからね。真っ先に叩き込まれたはずだったのに、一体どうして──」



 私の事情をご理解いただくために、しばし私の身の上話にお付き合いいただけますでしょうか。

 すべては私の母が父に一目惚れをしたときから始まっています。




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