矛盾とは

Y

最強の矛と盾

昔々、ある武器商人が最強の矛と盾を売っていて、客にどちらの方が強いんだい?と言われて困惑した「矛盾」という話がある。


そしてこの街でも、とある武器商人が最強の武器売りますというキャッチコピーで販売を行なっていた。




「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!

こちらどんな物でも撃ち破る拳銃でございます

対してこちら、どんな弾丸でも弾き返す防弾チョッキでございます」




威勢の良い声で武器商人は最強の武器なる物を周りの客たちにアピールしていた。


すると東の国から来たという男と西の国から来たという男がそれはもうハモるというか同時のタイミングで




「「それなら、その防弾チョッキを着た人間をその拳銃で撃ったら一体どうなるんだい?」」




と、至極当然の疑問を二人は投げかけた。

武器商人は大変困惑した。まさに一番タブーである矛盾が生じているではないか。


もちろん、ここで話は終わらない。ここで終わればただ「矛盾」を現代版にしただけである。文章力が乏しい私であっても流石にそこまで手を抜いた作品は投稿しない。


しばらくして疑問を投げかけた二人に向かって、他の客がこう言ったのだ。




「それならお前ら二人がそれを身につけて決着をつければ良いんじゃないか」




周りで聞いていた客たちはその素晴らしい案に歓声を上げた。武器商人も自分への疑いの目がが分散され、ホッとひと安心といったところだ。




「これで本当の最強の武器が決まる訳だ!」


「こりゃええもんが見れますなぁ」


「歴史的立会人になるかもしれんぞ!」




まるで見世物でも見るかのように周りの客たちは二人に視線を送った。

二人は投げかけた疑問の解決、そして周りの客たちの期待に応えるため決着をつけることにした。


相談により、東の国の男は防弾チョッキを着て、西の国の男は拳銃を手に取った。西の国の男は拳銃を東の国の男へと向けた。そして客たちが静かに見守るなか、、、。




バン!!!




ものすごい音が鳴った。そして西の国の男、周りの客たち、武器商人の視線は自然に防弾チョッキを着た東の国の男へと注がれた。

果たして、無事なのか、、、、、、、?!






なんということだ

防弾チョッキが破れて腹から大量に血が流れている。老若男女誰がどう見ても東の国の男は死んでいることが確認できた。周りからは歓声と悲鳴でどんちゃん騒ぎであった。




「きゃあああああああぁぁぁ!」


「だ、誰か救急車を!」


「クソ!弾き返すと思ってたのによ」


「最強はやはり拳銃だったか、ほら防弾チョッキに賭けたやつ金をよこせ」




そして当の本人である西の国の男は膝がガクガクと震え、あまりの恐怖から武器商人に拳銃を渡して西の方へと逃げ出していった。


人を一人殺してしまったのだ、殺人という恐怖の重圧に押し潰されるのは当然であろう。


しかし武器商人はあまりうろたえてはいなかった、自分の売った武器で何人と人が殺されているのを見てきているのだ。トニースタークほどのカリスマ性はないが、この商売だけで生活できるほどの稼ぎはある。


すると騒ぎを聞きつけたのか、子どもと思われる少年をひとり連れた女性が武器商人に向かってものすごい形相をしながらやってきた。その顔の迫力によって武器商人は流石少しうろたえた。子どもは小学五、六年生ぐらいだろうか。




「あなたが夫を撃ち殺した武器を売ったのかしら?」




この時点で武器商人はこの女が誰なのかもう察しが付いていた。




「ああ、もしかしてあんたは東の国の男の奥さんかい?」


「そうよ、で、その拳銃はおいくら?」




女の顔は憎悪と悲しみで鬼のような顔だったが冷静だった。武器商人は金銭を受け取り拳銃を渡した。すると女は続いてこんな話をしはじめた。




「私は夫のかたき討ちのため、西の国へ行きます。ただ自分の子どもに手を汚すところを見られたくないの。だからこの子を預かってくれないかしら」




武器商人は面倒ごとが嫌いだった。この女はかたき討ちをしたあと、必ず帰ってくるとは限らない。そうなれば一生このガキの面倒を見なければならない。正直なところ預かりたくはなかった。






しかし預かる以外選択肢がなかった。もし断ろうものなら一発撃ち込まれてもおかしくない状況であった。




「このような事態になったのは矛盾を生じさせた私の責任でもあるしな、お前さんの息子は私が預かろう。ただ子どもの泣くところは子どもが嫌いな私でも気分の良いものではない、必ず戻ってきてほしい」







「ありがとう」




女は一言言い残して西へ向かっていった。











数日後、西の国で拳銃による殺人が起き、犯人である女に終身刑が言い渡されるという一連の事柄が新聞に載っているのを武器商人は見つけた。


まずは息子に話すべきなのだろうが、やはり数日間一緒に過ごしてみると、いやでもほんの少しの愛情が湧いてしまうもので実の母親が終身刑を言い渡されたなどとは言い出せないのであった。

その日の夜、武器商人は息子に話そうと決心をした。






そう決心した日の昼はなぜかものすごく短く感じる。もう少し長くてもいいのにという武器商人の願いを完全に無視するように、すぐさま夜はやってきたのだった。




「おい、少年。実はお前の母親は今西の国の刑務所にいる、終身刑を言い渡されているんだ」




息子はその日のことを覚えていた、そして泣き出した。心がとてつもなく痛くなった。だが武器商人は話を続けた。




「お前は母親を救いたいか」




息子は静かにうなずいた。




「何年かかっても、母親を救いたいか。」




息子はまた無言でうなずく。




「その気持ちがこの先消えないのなら、私はお前に最強の武器を売ってやろう」


「でも最強の武器は母が使って、今は西の国に押収されているはずだろう?それに僕はまだ子どもだ。武器を買うお金なんてないよ」




息子はポケットからこれっぽっちと言わんばかりに200円を出してきた。




「十分だ」




武器商人は200円を受け取り

















「無限の可能性を秘める最強の矛と盾だ」




そう言って一本の鉛筆と一冊のノートを手渡したのだった。

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