第13話 幼馴染に誕生日を祝ってもらう

 誕生日。できるだけ家の中を触らないように気をつけながら、俺は学校に来た。もし棚からプレゼントとか落ちてきたりしてみろ。考えただけで申し訳ない。


「おっはー。誕生日おめでと」

「おぅ。ありがと……覚えててくれたんだ」

「いや普通に覚えてるし。お前も俺の誕生日覚えてるじゃん」

「まぁ、そうだけど……普段誕生日の話とかしないし、去年だけかなって」

「俺そんな薄情な奴じゃないんですけどー! 羽澄ってたまにエグいくらい自虐的なときあるよな」

「そう?」

「うん」


 教室に辿り着いてそうそう、如月が声をかけてくれた。席に荷物を置くと、隣から不満の声が上がる。

 そうか。自覚なかったけど、たしかにさっきの発言はかなり自虐的だった。


「そういや小梅ちゃんとの生活はどうなのよ」

「うーん。なんか、慣れた?」

「えぇー! いいなぁ、あんな可愛い女の子との生活に慣れるなんて。俺もゆずと同棲できたらなぁ」

「でも、ただの幼馴染だし」

「なんかあるだろなんか! なかったらおかし……くはないけど、かりにも男子高校生だぞ!」

「いや……なにも……?」


 事故はあったけど。あれは事故だから、"なにか"にはカウントされないだろう。むしろ、するのが小梅に申し訳ない。


「まぁいいさ。俺にはゆずがいるからな。同棲しなくとも、毎日会えてるし」


 如月はあの一件以来、毎日茜さんと会っていた。学校が近いからなせる技だ。


「如月、すっかりリア充だな」

「今までさんざん恨んできたけど、ようやくああいう人種のこと分かった気がするわ。世の中がバラ色に見える」

「そうか。バラ色には……見えてたな」


 朝起きたらまず初めに槇宮のことを考えて。1日の終わりにも考えて。


 考えるだけで恥ずかしくなって1人で百面相していた。あのときの自分を思い出すのが辛い。こんなにこっぴどくフラれるなんて思いもしてなかったから。


「まぁまぁ、新しい恋探そうぜ。えげつねぇ美少女と同居もしてるわけだしさ」

「うーん。そうだな」


 小梅は本当に幼馴染だし、何より、小梅にはもっとふさわしい人たちがいっぱいいると思う。


 俺だって1年前みたいに、なにかに縋らないと生きていけないほど追い詰められているわけではないのだ。自己防衛……というか、自分に縋るすべを覚えたというか。


……なにより、こんなこと言ったらアレだけど、槇宮への想いはまだ断ち切れていない。


 また付き合いたいとかそんなんじゃなくて。


「そういやさ、見た? またあのゲームの新作でるらしいじゃん」

「そうなの? ……あっ、言われてみれば、ニュースでやってた気もする」

「えぇー昨日バズってたぞ。ツイッターで」

「マジか……SNS見ないからな」

「メールもあんまり見ないよな」

「たしかに見ない、なぁ……」


 だから小梅が来ることも知らなかったわけだし。

 呟いた瞬間、じゃあ朝礼始めるぞ〜、と教師が入ってきた。

 如月がぶつくさ言いつつ席に戻っていく。


 今日の晩ご飯なにかなぁ、

 ……なんて、幸せすぎる楽しみだな。







 今から帰る、と連絡して、OK、と返ってきたから、たぶん大丈夫だろう。


 プレゼントとか用意してくれてるのかな。たぶん予定聞いてきたってことはしてくれてるんだろうけど……なんだろう、用意されてる前提? でドアを開けるのって、めちゃめちゃドキドキする。

 よし。1、2、3でいこう。1、2、3……


「誕生日、おめでとう〜!!」

「……へっ!?」


 パン、とクラッカーが弾ける音にびっくりした。

 制服のまま、小梅が笑う。


 家に入って、まず目についたのは、リビングの派手な装飾。それから、机の上に乗った豪華な料理たち。


 デミグラスソースのかかったハンバーグに、サーモンののったサラダに、オニオンスープに。


「すげぇ……!」

「御影くん1番好きなんトンカツやろ? だから、そうしようかなって思ってんけど……この前食べたし……洋食には合わないかもだし……明日にしようかなって」

「いや俺ハンバーグも好きだし! ありがとう!!」


 思ってた以上……というか。

 少し恥ずかしいけど、嬉しくてしょうがない。自分が生まれたことを祝ってもらえるって、想像以上に感動する。


「でもいいの……? こんなに……俺なんかのために……」


 学校が終わってからここまで用意するのも大変だっただろう。夜中、いつもより遅く起きていたような気もする。

 

 自分のためにこれほどまでしてもらっていいのか……という疑問がどうしても拭えない。


「いいに決まってるやん! 誕生日は感謝する日なんやから」

「そうなの……?」

「うーん……人によっては違うかもしらんけど、ウチはずっと、生まれてきてくれてありがとうっていう日やって思ってるよ。なんていうんやろ……1年でも生きるって大変やん? だからこう……大変な中無事に過ごしてくれてありがとう、みたいな? 自分にもねぎらって感謝して。御影くんはただそれにありがとうって返すだけでいいっていうか……」


 なんか恥ずかしいわ! とじゃっかんキレながらスプーンとかを置いていく。


「手洗ってきて。はよ食べな冷めんで。あとケーキも作ったんやから」

「えっ、ケーキも!? ありがとう」


 急いで手を洗って、椅子に座る。

 そういえば、と小梅が何か取り出した。


「誕生日おめでとう。一応やけど……プレゼント」


 包まれたそれを開く。

 中に入ってるのは……名前入りのシャープペンシルと、お弁当箱?


「御影くんのやつ、ちょっとちっちゃかったやろ? だから、と思って……それに木製やとおいしいし。いっぱいご飯つくるから……」


 たしかに俺のお弁当箱は、レイちゃんがそこら辺で買ってきたやつだから、小さかった。かつ、プラスチックでなぜか蓋に小さいヒビが入っている。

 

 誕プレにお弁当箱は、小梅らしい。


「ありがとう」


 これからしばらく、お世話になるだろうそれを眺める。素直にありがたいな、と思って、ほっとした様子の小梅に少し口角をあげた。



 正直今まであんまり好きじゃなかったけど。

 たしかに、いい日だ。

 自分1年お疲れ様、と言うのも、たしかに今日が1番かもしれない。




【あとがき】

しばらく更新できず申し訳ありません!!

実は、今後の展開について少し迷っていまして……

次回は、波乱の展開になるかも……?

これからも頑張って更新していくつもりなので、2人の行く末を応援していただけると嬉しいです!!

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