第10話 幼馴染に東京で初めての友達ができる。
なんとなく様子がおかしい……というか、気まずそうな2人。小梅と顔を見合わせる。
「どしたの?」
「ゆずちゃん?」
声をかけると、2人そろって振り向いた。
「羽澄……?」
「小梅ちゃん……?」
そして残されたのはただただ状況が理解できず戸惑っている4人。
「ごめん、なんも分かってないんだけど、とりあえず場所移そっか……?」
生徒たちの視線もそろそろ辛い。
ただでさえ可愛い小梅に、見た目が派手な"ゆずちゃん"とやら。分かるよ。カオスってるし、可愛い女子2人いるし、気になるよな。よく分からん男子もついでに2人いるしな。
俺の提案に、全員頷いた。
「つまりは、年上だと思ってた彼女が年下だったと……」
学校の近くで話を聞くこと数分。
ようやく、理解できてきた。
どうやらインスタで繋がった彼女――ゆずちゃん改め
星蘭は今日が入学式だから、バレたわけだ。
「1個聞きたいのは、どうしてそういう嘘ついたんだ?」
「だって……」
「だって?」
「……だって
なんだろう、この空気。
痴話喧嘩に見えるのに、甘い。甘すぎる。
ブラックコーヒー頼みたいくらいだ。メロンソーダ飲みながらちょっと後悔。料理もナポリタンだし。もっと辛いのか苦いのにすれば……
「えっと……2人は前から知り合いやったん?」
「うん。ネットだけだけどな。まぁ、それでなんとなく1回会ってみる? ってなって、実際オフ会して一目惚れしたっていうか。予想以上に可愛かったし。性格もいいし」
「そもそも私がインスタで年上だって偽ってたのが悪かったのよね。最初は身バレ防止のためだったけど……本当に、ごめんなさい。ちゃんと言うつもりだったんだけど、かっこいい達也くんにフラれるかもって思ったら怖くて」
軽いノロケを見てる気分。
ていうか如月、リア充撲滅運動に参加してたけど、しっかり青春してたんじゃん。
向かいに座っている小梅も真顔になってるのか……と思ったら、目をキラキラさせていた。
「へぇ、でも運命的やな!」
「そう?」
「うん! ほら、ネットとかやとさ、分からへんやん、どんな人か。だからぴったり性格も合うってすごいなって」
へへっと照れる2人。
その照れを隠すように、茜さんはグラタンを口に運んだ。
「ゆずもなんだかんだ年下って言ってもさ、実質年上みたいなもんだし」
「じゃあ、安心してもいい?」
「おぅ。安心して」
確かに茜さんは高校生には見えない。
老けてるとかそんなんじゃなくて、たぶん雰囲気の問題だろう。少し赤っぽいゆるく巻いた髪に、メイク。たぶん校則ギリギリを攻めている……というか、校則ギリギリアウトというか。ギャルに近いような気もする。
あとスタイルがいい。小梅は着痩せするタイプみたいでそこまで目立たないけど、茜さんのは制服を押し上げている。
「どんな感じやったん? 最初は」
「最初……私、野球が好きなのよ。それで色々投稿してたら、達也くんからリプが来て」
「そのときゆず、顔は載せてなかったんだけどさ、可愛いな〜と思って」
「で、気が合って、DMやり取りしたり、通話したりしてるうちにオフ会しようってなって、付き合おうって」
「へぇ〜顔も知らないのに好きになるってロマンチックやな」
「でしょ?」
さっきまでの殺伐とした空気からは一転、ほのぼのしている。ズズッとアイスティーを啜って、如月があっ、と声を上げた。
「そいえばさ、ずっと気になってたんだけど、この小梅ちゃん……? って子と羽澄、どういう繋がりなの?」
「あ? あぁ、そっか、話してなかったな。幼馴染なんだ」
「花園 小梅です」
同じくナポリタンを頬張っている小梅が小さく手を上げる。
俺らはとりあえずファミレスに避難してきたから、まだ自己紹介もしていなかった。つまり小梅と如月、茜さんと俺はそれぞれ初対面だ。
自分でもびっくりするくらい馴染んでたから、忘れてたけど。
「ほーん幼馴染。お前ズルいなぁ。彼女はあんなに美人なのに、こんな可愛い幼馴染までいて。こりゃ槇宮さんも嫉妬しますねぇ」
「槇宮さん……? 彼女……?」
やっぱそうなるよなぁ。
キョトンとして首を傾げるゆずちゃんと小梅。
ゆずちゃんもってことは、なにか聞いてるのかな。
「あれ、お前話してなかったの?」
「それ……ウチと暮らして大丈夫なん?」
「えっ、えっ、同棲? てか浮気? おまっ……それはダメだろ」
「最低よそれは」
非難轟々の視線×3が突き刺さる。今のはけっこうだったぞ。オーバーキルだ。
「違ぇよ。さすがにそんなことしてない! 槇宮さんにはその……フラれた」
「えぇっ、マジで!?」
「まぁ、色々あったんだよ色々」
「そっかそっか、まぁ元気出せよ。話したくなったらいつでも奢ってやるから」
「うん。ありがとう」
慌てて弁明すると、スっと視線は溶けた。良かった。マジで氷みたいな目だった。
にしても、やっぱさすがに罰ゲームだとは言えないな。腹は立つけどっ! 腹は立つけどさぁ……別に彼女の株を下げたいわけでもないし。俺の中で完結させなきゃ。
いつか如月に聞いてもらうことがあったら、そのときに話そう。
「それで一緒に暮らしてるっていうのはどういうことなの?」
「うめちゃんが東京に進学することになって、俺の住んでる家の部屋が余ってたから、そこに住まないかって」
ほぇ〜とさも感心したかのような声を出すと、如月はニヤリと小梅に笑いかけた。
「小梅ちゃん、こいつちゃんと生活できてる?」
「来たとき冷蔵庫の中にミネラルウォーターしか入ってへんかった」
「マジか。思った以上だわ」
「一応生きてたんだからいいじゃん」
「生活レベルが生きるか死ぬかってお前、そうとうだぞ」
はぁ、と隣から呆れたような視線。
確かに如月は俺の生活習慣がいかに酷いかを骨の髄まで知っている。
うちに来ては、ここほんとに誰も住んでねぇみたいだな、と言っていた。
「でも今はうめちゃんがやってくれてるからほんとにありがたいよ」
「それもうお嫁さんじゃん」
「およっ……た、ただの幼馴染、です!」
「耳真っ赤じゃん。可愛い〜〜」
「おわっ」
ゆずちゃんが小梅に抱きついた。
「うわ〜いい匂い〜柔らかい〜可愛い〜」
「ゆずちゃんやめてや〜」
「…………眼福、とか言っていいのか、これ」
「いいん、じゃないか?」
たぶん……大丈夫だろう。
「じゃあ、帰るか」
「だな。俺らは一応明日もあるし」
全員が昼食を食べ終わった。明日からはいよいよ授業が始まる。小梅と茜さんは休みだけど。
最寄りまで一緒に歩いて、手を振る。茜さんと如月、俺と小梅の家はちょうど反対方向だから。
「またね〜」
「ばいばい……あっ、そうだ」
茜さんが駆け寄ってくる。
「うめちゃん連絡先交換しよう? それでできればさ、明日も遊びたいなぁ、なんて」
「い、いいの……?」
小梅が茜さんを見上げて聞く。茜さんは身長も高めで、たぶん160は超えているだろう。
「うん!」
「じゃ、じゃあQRコードはこれ……」
「うんうん。ありがとう。読み取るね……よしっ」
「あ、遊ぼうね」
「うん。じゃ、またね」
「ま、またね」
携帯を見つめて嬉しそうな顔をしている。
「良かったな」
「……うんっ!」
顔を上げた小梅は、とびきりの笑顔で頷いた。
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