いいところ

「あーそうそう! 右! もう少し右! おっとストップ!」

「これでお尻が持ち上がるはず……あとは運」

「ここのアームは弱いからな。上手く持ち上がってくれることを願う!!」


 俺たちは3階にあるアミューズメント施設に来ていた。その一角にあるUFOキャッチャーに挑戦している。最近流行りのゲーム、ウマ娘の人気により競馬の需要が高い。そして今挑戦しているのは、サラブレッドコレクションBIG。活躍した馬たちのぬいぐるみだ。


「お! 持ち上がった!」

「あー、おっけいおっけい。ちゃんとお尻がアクリルから出た。あとは頭の方を持ち上げて落とすだけ……」


 2本爪のアームでなんとか頑張り、無事3回でゲット。それからもコインゲームだったりとアミューズメント施設満喫した。


「俺ちょっとトイレ」

「ん、じゃあここらへんで待っとく」

  

 そう言い、俺たちは一旦別れた。




(依子side)


「友達の頃とやる事は変わらないけど……これが落ち着くんだよねぇ」


 自動販売機で飲み物を買って一息。ついでに透矢の分も買った。


 トイレならそれほど時間が掛からないだろう。次は何をしようか……


「うぇぇぇん!! お母さんどこぉ!!」

「!?」


 急に子供の泣き声が聞こえてきたかと思えば、視線の先には小さな女の子。見た感じだと、4、5歳くらいだろう。


 聞こえてきた言葉を察するに、お母さんとはぐれてしまったようだ。

 

 幼い子供が泣いている、一瞬で迷子と分かる状況にも関わらず、通行人たちは、スマホを見たり、見てみぬふりをしていた。

 

 ……迷子かぁ。こういうのはアタシより透矢の方が向いている。だってアイツなら……


『ほらほら、お兄ちゃんを見て〜。ベロベロばぁ!』


 変顔だたったり、面白い話だったり……この子が泣き止む手立てをいくらでも思いつきそう。


 アタシは学校で誰とも話さず、1人で過ごしているタイプ。そんな奴がいくら幼い子供とはいえ、泣き止ませて事を穏便に済ませる……などできない。


 でも……アイツらと同じで見てみぬふりをするのは嫌だ。


 だから……


「あ、その……お母さんと離れてしまったのかな?」


 アタシが近づくと、女の子が泣き止んだ。いや、知らない人に話しかけられてびっくりしているんだ。


 怯えなせないよう、優しく声を掛ける。


「お姉さんとお話してくれるかな?」


 コクリ


 頷いてくれた。よし……


「お母さんと離れちゃったのかな?」

「ぐすん……うん……」

「そっか……。お母さんの特徴とか分かる?」

「ぐすっ、お母さんはお母さん……わぁあああああん! お母さんどこ〜!」

 

 また泣き出してしまった。

 お母さんと離れ離れということに不安を抱いているのかな。でも、お母さんの特徴を聞きださないと探しようがない。


 とりあえず泣き止ませないと、アタシが泣かせたみたいになる……。





「ふぅー、スッキリした……おや?」

  

 トイレを済ませて、依子と別れた場所にいくと、何やら幼い少女と一緒にいる。


「ほら〜お菓子。お菓子あげるよ〜」

「ひぐっ、ひっぐっ……」

「あ、これダメなんだ。飴玉あげれば泣き止むイメージあった。えーと、えーと……」


 見たところ、迷子になっている女の子を依子がどうにか泣き止ませて話を聞こうとしている。


 依子はコミニュケーションが苦手。俺に対しては慣れているが、他はあまり会話を続けることができないらしい。


 苦手なことは極力やりたくない。誰しもが思う事だ。


 でも彼女は……


「そうだ。スマホで……え、でも幼い子ってどんな動画なら興味持ってくれるんだろ。可愛い系? それとも幼児向け番組……」


 苦手でも頑張っている。

 幼いだけに言葉が上手く通じてない、普通の人よりコミニュケーションが取りにくい子供相手になんとかしようも一生懸命。


 それが依子のいいところだ。


「うわぁぁぁあん!!」

「ああ、また泣き出しちゃった……どうしよう……。もういっそ透矢に……」


 おっと、お呼ばれされたので駆けつけよう。


「依子〜!」

「あ、透矢いいところに! そのさっ」

「状況は分かった。ほら、お嬢ちゃん。この携帯見てよ。可愛い子猫が映ってるだろ?」

「ふぇ? ぐすん……ねこちゃん……」

「そうだ。ネコちゃんだ。モフモフふわふわと可愛い子猫……ほらほら、猫じゃらしで遊んでるよ〜」

 

 女の子は動画に釘付けになった。

 しばらくすると落ち着いてくれて、俺たちとも話してくれるようになった。

  

 その後、無事迷子センターに連れていき、母親と再会。帰る頃には「バイバイお兄ちゃんお姉ちゃん」と上機嫌に手を振っていた。


「ねぇ」

「ん?」

「……もう少し早くきてくれても良かったんじゃない?」

「いや、すまん。思いの外トイレが混んでてさ」

「違う。アタシがあの子を泣き止ませようと悪戦苦闘してるとこ……ちょっと眺めてたでしょ」

「え、気づいてたのか?」

「あ、本当なんだ。勘で言ったんだけどなぁ」

「え、あ……ま、まぁ結果的に助けに行ったんだからさ。良いってことで」

「ふーん、なかったことにするんだ」

「ごめんってば……あ、そうだ。もうすぐ昼時だし、なんか一品奢るよ」

「それは名案。早くいこっ」


 親友やってきているので、機嫌の取り方も慣れるものだ。


 フードコートに向けて歩き出した時だった。


「やめてくださいっ!!」


 聞き覚えのある声が耳に入った。

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