第4話 父の沈黙

 夕食の席で、清彦は父の顔を上目遣いに見た。

 黙々と箸を運ぶ父。

 何も言わないつもりなのか。


「父さん、さっきの人と何を話してたんだ?」

「新しい飼料のことだ」

 父は箸を止めない。ほうれん草のごま和えを食べている。


「嘘ついてるね」

「嘘もなにも、本当のことだ」

「俺、聞いてたんだよ。牛を売るって」

 アジの皮をはがす父の箸が止まった。


「牛、全部売っちゃうんだろ、そうだろ」

「まだどうなるか、分からない」

「そんなの、嘘だろ。なんで売るんだよ?」

「肉牛を売って手に入る金よりも、飼料代の方が高くつく。うちはずっと赤字だ」

 知らなかった。


「でも何も、全部売らなくたっていいじゃないか」

「違う、貸すんだ」


 これは嘘だ。

 父は牛を担保に借金を返済するつもりなのだろう。

 そのくらい清彦にも分かる。

 そして、十中八九、貸した牛は返ってこない。


「でも父さん、チェルシーは別だよな。あいつは俺の牛なんだから」


 父は黙っていた。

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