第3話 祖母の家

「『萩の月』、ちゃんと渡すのよ」

「分かってるってば」

「五時半までには帰ってくるのよ」

「はぁい」

「車に気をつけてね」


 自分の親はよそと比べて心配しすぎだ。

 あさみは友達の家に行くたびにそう思った。

 この電車だって、三年生になって初めて一人で乗った。友達はもっと早くから乗って、となり町のショッピングモールに行っていたのに。


 あさみはそんなことを考えながら、電車の窓の外を眺めた。

 電車からは、線路沿いの竹やぶが見える。風に揺れて、しなやかにゆれている。

 この竹やぶ沿いのカーブを電車は曲がって、トンネルに入る。このトンネルを出ると、景色は一変し、緑一面の田んぼや畑が広がる。

 となり町だ。この町は古くから、畜産や果樹栽培が盛んである。


 綾子の家は駅から一本道だ。

 人がまばらな駅を抜け、シャッターの目立つ商店街を通るともう見えてくる。

 ガリガリした石なのか、コンクリートなのかよく分からない素材の壁に囲まれて、その中にこんもりした植木とたくさんの盆栽の鉢植えが見える。

 グレーの瓦に白い壁の、古いけれど大きな家だ。


 今日は教室がないから、おうちのほうのチャイムを鳴らすのよと、玄関先で陽子が念を押していたのをあさみは思い出す。

 精一杯、つま先立ちをして、あさみはチャイムを押した。

 ちりんるりん、と軽やかな音が鳴る。


 しばらくして、玄関の引き戸が開いた。

 あさみの大好きな人の姿が見えた。


「まぁ、あさちゃん、よく来たね」

 綾子は門の扉を開けた。


「こんにちは。これ、おみやげ。『萩の月』だよ。チョコ味もあるんだ」

「まぁまぁ、ありがとう。おばあちゃん、このお菓子が大好きよ。さあさ、上がって」


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