第55話 不器用な私達の彼の助け方

黒戸くろと しろは教師・田中たなか 里利りりへの相談を終え生活指導室からクラスの教室に向かう途中、ちょうど生徒の登校時間になっていたのか、あっちこっちで「おはよう」と友達同士で交わす挨拶が聞こえてくる。


(まぁ僕なんかに挨拶をしてくれる知り合いも友達もいないし、学校を辞めても誰も僕がいなくなったことにも気づかないで……でも田中先生は悲しんでくれるのかも、相談したらあんなに心配して引き止めて怒って、それは少し心残りではあるな……)

白は今朝けさの先生との相談した事を考え自分のクラスの目の前まで来ると、教室から何やらざわざわと嫌な笑い声や、聞いていて気分の悪くなるような言葉が聞こえてきて。


「おら! 小便女、臭いから教室入ってくんなよ」

教室では数人の男子が骨川 グループだった黒髪ロングの目の吊り上がった青木あおき 稲穂いなほと言う女生徒をからかっていた。


「稲穂は今日は下着にオムツを着けてるのかな? キャハハハ」

数人の女子も青木 稲穂のスカートをめくりちょっかいを出す。


「や、やめてよ! 何すんのよ触らないで!!」

稲穂は周りの男子や女子に揶揄からかわれながらも抵抗をする。


「あん! なんだよお前、今まで骨川の下で散々俺らの事を馬鹿にしておいて、俺らが馬鹿にしたら辞めてだ? ふざけんじゃねーよ」

男子生徒は稲穂の足を蹴り、髪を引っ張っり床に倒し、女子は女子で稲穂のスカートに手を突っ込みパンツを下ろし「あれ? オムツじゃないよ、ダメだよ稲穂ちゃんまたお漏らししちゃうよ」と馬鹿にして笑う。


白はそんな胸糞悪い空気の教室のドアを開けると一瞬クラスの生徒は静まり返り、白の方を注目するが白は普通に自分の席に向かい鞄を置いて席に着く。


「なぁ青木? 明日からはちゃんとオムツして学校来いよ! だからこのパンツは没収だ」

男子生徒は稲穂のパンツを手に取るとクラスに見せるように振り回し「うわぁ小便臭い」と叫びながらクラスの笑いを集める。


「や、やめてよ!? か……か、返してよ……」

稲穂は目に涙を浮かべ男子からパンツを取り返そうとするが。


「うるせーな! 興醒めするだろうがよ、少しは空気読めや!」

パンツを振り回す男子生徒は稲穂の膝を蹴り床に倒れると唾を吐きかけ。


「痛い……」

稲穂は悔しそうな表情で俯き泣き出す。


「チッ、泣くなら小便くらいしろよ、つまんね奴だな」

「本当につまんなーい、明日はもう少し私達を楽しませてね稲穂ちゃん」

男子も女子も興醒めしたのか、今度は男子の席に大勢集まり、大声で稲穂を馬鹿にする話で盛り上がる。


白は稲穂の姿を遠目から眺め、なぜか美希や紅の姿が稲穂と重なり、胸が締め付けられる様なとても息苦しい感覚を覚え。


(僕がいなかったら、関わらなかったら、あそこで今虐められてる青木さんは虐められなかったかもしれない……ううん違う、青木さんが虐められているのは自業自得で当然の報いなんだ……そう、これは仕方ない事なんだ……)

白は席を立ち上がると、さっき稲穂を虐めていた男子生徒や女子生徒が集まる席に向かい。


「んっ!? なんだよ黒戸? お前も一緒にアイツらをらしめようぜ、お前も骨川一派に散々やられてたろ?」

男子生徒は白が近づくと、ニヤニヤと白に話し掛け話がさらに盛り上がりみんな白になにか期待の眼差しを向け。


「それ、貸して」

白は手を出し、男子生徒が手にした稲穂のパンツを指さす。


「えっ? あっ!? コレか? パンツか? 別にいいけど……なになに、なんか面白い事でも思いついたのかよ黒戸」

男子生徒はパンツを白に渡すと楽しそうに笑い、白の行動に期待を寄せ注目する。


白はパンツを渡され教室の黒板近くで床に泣き崩れる稲穂の元に向かい目の前に立つ。


稲穂は白の姿に気づくとさっきより更に震え怯えた顔で白を見つめ、この前の骨川の時の光景がまだ目に焼き付いているのだろう。


「ご、ごめん……わ、私ね本当に今までの事は悪いと思ってるから、もう許して……蹴ったりしないで」

稲穂は更に大量の涙を目に浮かべ、震えて脅える様に白に謝る。


「はい、青木さんこれ……」

白はパンツを稲穂の目の前に出し渡し。


「えっ……!? く、黒戸……君? こ、これ……」

稲穂は白の手からパンツを受け取ると呆気に取られ、白を見つめた。


「立てる? 保健室に連れて行こう」

白は手を差し伸べ、稲穂は白の手を取り立ち上がる。


「あ、ありがとう……く、黒戸君……」

稲穂は顔を赤くしてもじもじと白にお礼を言うと、恥ずかしそうに返して貰ったパンツを履き直し


「おい!? 黒戸テメーは何してんだコラァ!! 舐めてんのか?」

男子生徒は白の一連の行動を見て頭に血が昇り、白の肩を掴み怒鳴り散らす。


「何って……見ての通りだよ? 青木さんにパンツを返したんだ」

白は男子生徒の質問に素直にそのまま答える。


「何勝手に返してんだよって言ってんだろうが! ふざけんなよ黒戸……良い子ちゃんぶってんじゃねーぞコラァ!! テメーも虐められてーのか?」

男子生徒は白の襟元を掴み威嚇する。


「……あぁそうしてくれ、その方が色々と考えなくて楽だ、よし! 今日から僕を虐めろよ? 決まりだ……その代わり僕以外には手を出すなよ……いいよな?」

白は襟元を掴まれながらその男子生徒を睨み言う。


「虐めろだ? ふざけてんじゃねーぞコラァ!」

男子生徒は白を吹っ飛ばすと机をなぎ倒し白は倒れ、男子生徒は倒れた白を追い打ちを掛ける様に白に蹴りを入れ、他の男子生徒もそれに追随する様に白は袋叩きに合わせる、そんな中さっきまで虐められていた稲穂が白を襲う男子生徒の一人の腰に掴みかかり。


「や、やめて! 」

稲穂は白を助けようと間に入る。


「んだコラァ! テメーはすっこんでろブス」

男子生徒は制止に入ってきた稲穂を振りほどき、体勢を崩した稲穂のおなか目掛けて思いっきり蹴りを入れ吹っ飛ばす。


「お……おい!? な、何してんだ……」

白はうつむき低い声で稲穂を蹴った男子生徒に言葉を発する。


「あん! 何してんだだぁ? 見て分かんねーのか俺らの邪魔する奴にちゃんと教育したんだよ、バカなのかお前は?」

男子生徒はニヤニヤした口調で黒戸を見下すようにヘラヘラと答え。


「だから……だからさ……さっき言ったよな? 僕が虐められてるやるから他には手を出すなって……」

白は稲穂が蹴られ吹き飛んだのを見るや、白に蹴りを入れていた奴らを振り払い稲穂の元に向かう。


「だ、大丈夫!? 青木さん……?」


「ご、ごめんなさい、私の事はいいから……自業自得だって分かってる……だから、だから私の事はもうほっといて……お願い黒戸君……」

稲穂は白の手を振り払い拒絶する。


「あ、青木さん……? ほ……ほっとけるわけないだろ! ほっといたらいけないんだ……今の青木さんを助けなかったら僕はあの……あの時と同じなんだよ……僕は確かに青木さんに恨みはある、でももし今の青木さんを助けなかったら僕はまた同じ事を繰り返し後悔するんだ」

白はそう稲穂に告げると。


男子生徒に立ち向かい、稲穂のお腹を蹴った男子の腹を蹴り、膝を蹴った男子の膝を蹴る、残った男子生徒はその光景を見て脅え震え教室を出て行く。


さっきまで稲穂を虐めていた女子達も笑っていた顔を引きつらせ、白と目が合うと。


「ご、ごめんなさい……つ、つい前に彼女達に私達はからかわれていて……散々虐められてたからつい仕返ししたくなって」

彼女達は震え弁明をする。


「別に君達が青木さん達に恨みあるのは分かてるよ、だからとがめたりはしない……ただ僕は君達に青木さん達の様になって欲しくはないとも思う……ごめん怖がらせて」

白は寂しそうに俯き、彼女達とは目を合わせず話かけ。


「う、うん……わ、私達こそ……ごめんなさい……気をつけるよ……」

彼女達は白に怯えながらも白の忠告に素直に応え、一言謝罪をすると教室から立ち去った。


白は彼女達が立ち去った後、倒れる稲穂の方に向き直ると歩み寄り。


「ほら手を出して……保健室行こう?」

白が稲穂に手を差し伸べる。


「いいって……ほっといて! もう……もうこれ以上は黒戸君に迷惑かけられないしかけたくない……それに、わ、私の事は嫌いでしょ……? 嫌いな奴の事はほっといてよ……」

稲穂は白の差し伸べた手を跳ね除け、顔をそらして少し寂しそうにつぶやき。


「僕は青木さんの事を嫌いなんて一度も言ってないよ……それにさっき僕の事を助けようとしてくれてたでしょ? だったら僕の事を嫌いな青木さんだってほっとけば良かったでしょ?」


「わ、わ、私は別に黒戸君の事を嫌ってなんか……」

白の言葉に稲穂は慌てたように否定し、顔を真っ赤にしてうつむきぶつぶつ独り言を言い出し、そんな様子を見た白は稲穂の頭と膝のあたりに腕を通しお姫様抱っこの様な形で抱え。


「えっ!? バ、バカ離せよ恥ずかしいだろうが……わ、私に関わるな! 私に関わったら黒戸君も……黒戸君も虐められちゃうから……」

稲穂は顔を赤くし恥ずかしそうに抱えられながらバタバタと暴れる。


「虐められるのは僕だって嫌だよ、だからって虐める側はもっと嫌だ、確かに青木さんには美希や緑山さん……紅の事で恨みはあるし彼女達も許さないかもしれない、でも今の青木さんを僕が何もしないでほっといたらあの時に彼女達を虐めていた連中や傍観者と同じになっちゃうんだ」

白は稲穂をお姫様抱っこで廊下を歩き話す。


「ご、ごめん……わ、私のせいで……許してもらえないと思うけど、必ず……必ず美希や雫……紅ちゃんには必ず謝るから……」

稲穂が話してくれている間に白は保健室がある一階フロアまで辿り着いたが、そこで白は一階に着いた時にある違和感に気づいた、それはそこのなぜか大勢の女性がざわざわと集まり学校中を埋め尽くしていたのだ。


「な、なんだこりゃ!? 今日ってなんかあったけ? 青木さんはなんか聞いてる?」

「い、いや……普通の平日だと思うけど? 特に学校行事とかなかったと思う……」

白と稲穂は呆気に取られ立ち止まっていると、大勢の女性の中を掻き分けて二人人の少女が飛び出して来た。


「あら? お兄ちゃんこんな所で会うなんて偶然ですね、それもまたどこぞの女を抱き込んで……」

薄紫のボブカットに三白眼の目をした可愛らしい美少女、白の実の妹、黒戸 紅が松葉杖を抱え緑山 雫の肩を借りて目の前に現れ、あざとく偶然居合わせた様な口ぶりで話し始め。


「く、紅!? な、なんでこんな所に……体の方は大丈夫なのか? 安静にしてなきゃ……」

白はこの前の骨川との戦いでボロボロになった紅を心配し。


「何が安静にですか! 退学ってどう言う事ですか? そんな大事な事を私になんの相談もなく黙って勝手に決めて……そんな事を知ってのうのうと病院のベッドで寝ていられるわけないじゃないですか……」

紅は白に対して涙を流し怒り叫ぶ。


「な、なんでその事を!? だ、黙っていた事は謝るよ……ただ分かってくれ紅、僕がみんなの周りにいたらまた悲しい思いをさせてしまうんだ……現に今だって紅はそんな大怪我をして、緑山さんに美希も礼子さんも、姫野さんだって危うく怪我をする所だった……それに紅の友達の凛ちゃんや薫ちゃん……京子さんまでも僕に関わったせいで傷ついていた……もう大切な人が傷つくのは嫌なんだ……」

白が退学をしようとする理由を話しかけてると、埋め尽くされた人混みの中を掻き分け、茶色のポニーテールを揺らして白の目の前に美希が現れ。


「白のバカ! な、なんでやっと……やっと何年もかかって仲直り出来たのに……なんでそんな事を言うの? なんで、なんで……」

美希は大粒の涙を目に浮かべ白の前に立ち尽くす。


すると稲穂は白の耳元で「黒戸君……ちょっと降ろしてくれる」とささやき、白は稲穂をお姫様抱っこした状態から地面に降ろす。


稲穂は痛めた膝でなんとか立ち上がり、美希の前に足を引きあゆみ寄り。


「み、美希……今まで酷いことしてごめんなさい、許して欲しいとかそんなんじゃないけど、恨まれても仕方ないことして来たし……紅ちゃんも、緑山さんも、本当にごめんなさい……」

稲穂は美希や紅、雫にそれぞれ深く頭を下げて謝り、白の方を振り向く。


「黒戸君? もしも……もしもんなが傷つき黒戸君の大切な人が悲しい思いをしたと言うならそれは私のせいでしょ? それに傷ついたって言うけど少なくとも私は黒戸君に助けられた……」

稲穂は顔を赤くして話を続け。


「黒戸君は自分がいなければ皆んなしあわせだった言い方するけど、本当にそうかしら? いなかったらもっと悲しい想いをしていたんじゃない? 糞夫と喧嘩してる時だって黒戸君はなんだかんだで私を見逃してくれた、本当に黒戸君に関わってる人達が不幸になり傷つくのならば私は今頃糞夫の様にボロボロにされていた」

稲穂はうつむき、自分が今までしてきた事を反省する様に悲しい顔をし。


「私は白がいたから頑張れた……白がいなかったら私だって紅ちゃんの様に不登校になっていたかもしれないよ! だから……だから勝手に私達が傷ついてつらい思いをしたなんて思わないでほしい、そんな風に思われてる事の方が私は辛いよ」

美希は白の胸に飛び込み顔をうずめ「バカ!」と一言呟いた。


「美希……」

白はそんな美希の頭を優しく撫でる、すると周りに集まる女子からは物凄い黒い負の感情オーラがヒシヒシと美希の元に注がれ肌で感じられるくらいなんとも言えない雰囲気が数分間しばらく続き、イライラが頂天に達したのか一人の少女が突然その雰囲気をぶち壊す声で横槍を入れてきた。


「お兄ちゃん、私はねその新顔のちょろそうな女で『昔は悪い事してましたが、今は更生しました』的な女と、そこのブリッ子幼馴染の様なお涙頂戴の感動路線に持って行って説得する様な甘い女じゃないわ!」

紅はさっきまでの良い雰囲気をぶち壊す様に稲穂と美希を揶揄やゆし、雫が横から眼鏡を光らせて紅に拡声器を渡す。


「えー、あーあー、皆な聞こえますか?」

「「聞こえまーす!」」

紅が拡声器のチェックをすると、集まっていた周りの女性達に向かって問いかけ、女性達もがそれに反応して大声を張り上げ、その声はこの校舎を振動させるほどの大きさで、この周辺に何人の女性達で埋め尽くされているか想像するだけで怖かった。


「まぁ手短に話させて頂きますと、私こと紅はお兄ちゃん……いえ、黒戸 白の退学を認めません……以上!」

某プロレスラーの様にとても簡略で分かりやすい発言を紅は行い、それを聞いた周りの女性の大衆からは拍手と歓声が巻き起こり、学校全体に「く・れ・な・い! く・れ・な・い!」とコールが響き渡ると、紅はそのコールに応えながら一歩ずつ白に近づき美希を白から引きがし美希と同じ様に白に抱きつき。


「お兄ちゃん、やだよ退学なんかしたら寂しいよ……来年は私達だって入学するんだよ……雫ちゃんだって悲しんじゃうよ、ずーとお兄ちゃんと同じ学校に行ける事楽しみにしていたのに、それに火野さんも私用が済んだらまた学校来るって言ってたよ、お兄ちゃんさっき言ったよね? 傷つき悲しい想いをさせたくないって……私はお兄ちゃんが退学したら傷ついて悲しいよ」

紅は白の匂いを嗅ぐように顔を埋め、わざとらしい口調で語りかけ。


「私も嫌です……白君が学校を退学するのは……ずーとずーと白君の事を『白先輩』って呼ぶ事を楽しみにしていたのに……」

雫は白の手をつまむように恥ずかしそうにつかみ、もじもじと照れながら寂しそうな上目づかいで白に訴えかけ。


「ちょっと雫、邪魔しないでくれる、今は私とお兄ちゃんの二人の時間なの、空気ぐらい少しは読みなさいよ!」

紅が雫を睨みつ威嚇いかくし。


「はぁ!? はぁ? はぁ〜? 何か言いましたか紅、あんたこそ病人なんだからさっさと病室のベッドに戻って寝てなさいよ!  後の白君の事は私がお世話しますから」

対峙する雫と紅の二人の間に火花が散らされ、お互い犬も食わない様なののしいを始め。


「あっ白! なんだよこの人集ひとだかりは!? 邪魔くさい……それよりも変な噂聞いたんだけどさ白が退学するって本当? だったら私も一緒に辞めるから一緒に別の学校に転校しようよ」

礼子が大勢の女子を掻き分け白の所に来ると、白の腕に組付き、周囲の女子に冷酷な眼差しを向け話しかけ。


「はぁ? 何言ってんのよ女狐めぎつね! 辞めたきゃ 勝手にあんた一人だけ辞めなさいよ」

雫と言い争っていた紅が今度は礼子に噛み付き。


「あん! なんだよパープルデビル? 暴力女なあんたが来年この学校に来ようとしてるから白は逃げたいんじゃないの? あんたこそ別のお猿の学校にでも行きなさいよ、野蛮人」

礼子も紅の発言にキレて言い返す。


「私も白さんが退学しちゃうのは嫌です……まだ二年先の話ですが、白さんと一緒の学校にずーと通いたかったから……辞めないで下さい!」

紅の後輩の渋谷しぶや りんが白の手を取り寂しそうな眼差しで白に訴えかけ。


「凛ちゃん……」

白はその瞳を見つめると凛は目に涙を浮かべていた。


「あーずるい凛!? 私も、私も白様の手を握りたい! エヘッ♡ 白様の手って大きいそれにとても優しい手、私も嫌ですよ白様……いつも凛と白様と一緒の学校に行ける事を楽しみにしてたんですから、なのに辞められたら私達は辛く、悲しいです……それに私達だけじゃありませんよ、今ここに集まって居る桜野中のんなは白様が目当てでこの東桜台高校受験するつもりなんですから、白様がそんな事をしたら皆んなが傷つきますよ」

紅のもう一人の後輩、小林こばやし かおるが凛と一緒に白の手を握り。


「ちょ、ちょっと!? ちょと何この騒ぎは? もう通してよ!」

姫野 咲が人混みを掻き分け白の方に向かってくる。


「姫野さんまで何してるの……」

白は咲に声をかけると。


「何をしてるじゃないわよ! たく……なんで学校辞めるなんて言うの? せっかく仲良くなれたのに……何か悩みがあるなら相談ぐらいしてよね! 寂しいじゃない……もし悩みがあるならコレ貸してあげる……」

咲は白を見つめて怒り、鞄から一冊の本を白に突き出し。


「こ、これは!?」

白はその本を見て驚いた、咲が白に突き出した本は、クロシロ著書『今を生きる』、そう白の本だったのだ。


「この本はね私の大切な宝物でね、私もこの一冊しか持ってないからあまり人に貸したくはないけど……黒戸君ならいいよだからこの本を読んでもう一度よく考え直してほしい、それでも学校を辞めるって言っても……私は、私は黒戸君が学校を辞めるのは嫌、これから一緒にもっと黒戸君と……」

咲は白の制服をちょこんと掴み恥ずかしそうに照れてもじもじと俯き、白に学校を辞めてほしくない事を伝え。


「ほらほら、他校の学生が勝手に校舎に入っちゃダメでしょ! んな自分の学校戻れ、こんな沢山の人で埋め尽くしたら迷惑だろうが!」

大勢の女生徒がガヤガヤと騒ぎ出すと、今度はさらに奥の方から校舎こうしゃに集まる集団に『帰るよう』うながし人混みを掻き分け、赤い髪に東桜台高校の制服を着た火野 京子がこちらに向かって近づき、かたわらには田中 里利りり先生が怪我をしてる京子を支え付き添っていた。


「京子さん……な、なんて格好してんですか!? 流石に実年齢知った後だと違和感半端ないです」

白は京子の格好を見て恥ずかしそうに言葉を漏らす。


「ちょ、ちょっと待て白くん!? わ、私だってここの一応生徒なんだよ……この格好ってそんなに似合ってないかな?」

京子は制服のスカートの裾を掴みながらもじもじして、恥ずかしそうに白に問い掛け。


「あっ、いえ、似合ってないとかじゃなくて、とても綺麗だと思いますが、京子さんは大人雰囲気の綺麗さがあるから、制服姿がとても……」

白は寂しそうに見つめる京子の誤解を解こうと気恥ずかしそうに説明する。


「き、綺麗……ほ、本当!? 嬉しい! ありがとう白くん」

京子は満面の笑みを浮かべ喜ひ。


「里利先生なんですかこの騒ぎは? あの話はまだ里利先生にしか話してないはずなんですが……」

白は京子の傍にいた里利に話しかけ。


「ごめんなさい! ほら私って友達とかいないからつい高校時代の知り合いの京子に相談しちゃって……そしたら一瞬で話が広まったらしく……大事な話だったのに本当にごめんなさい!」

里利は深々と白に謝り申し訳なさそうに青ざめた顔を浮かべ。


「別に謝らなくてもいいですよ……どうせいつかは誰かに話す事でしたから……」

白は里利の目をそらし俯き呟き。


「でね白くん! 私が田中に相談されて色々思いここに来たのはね……退学届は却下! なにがなんでも私が許さないわ」

京子は里利が持つ退学届を奪い取ると、ビリビリに破き捨てる。


「白くん……もう一度冷静に周りの女の子の顔見て? ここに集まってる子がんな辛く悲しく傷ついた顔してるかしら? 私には白くんに会えてとても幸せで、嬉しくて、明るい表情をした子ばかりがいると思うんだけど……」

京子は白の肩に手をかけ語りかけ。


「……」

白は何も答えられず沈黙する。


「ならもし白くんが居なくなったらどう思う? この子達はきっと悲しく辛くなると思う……いや辛くなるね……だって私は辛いもん、白くんが居なくなったら嫌」

京子は白に抱きつき優しく白を包み込むように抱きつく。


「気づいているんでしょ白くん? この子達の姿を見て自分が選ばなきゃいけない道を……」

京子は白を見つめ、指先で白の唇をいじりながら問う。


「僕は……僕は今この場にいる大切な人の明るい笑顔を守りたい……」

白は今思う事を口にした。


「そうだよ白くん、過去は過去……その過去があるから私達はこうして白くんに出会い、んな幸せな気持ちになってるんだから、私達の過去を否定しないで受け入れて欲しい……黒戸 白くんと出会った私達の事を」

京子はそう白を見つめ顔を赤くして話すと、目を瞑り白に顔を近づけて唇を重ねた。


「えっ……!?」

白は驚き硬直する。


「あっ!?」

「あー!」

「あぁぁぁ!!」

周りにいた女子達も皆んなも唐突な京子の行動に大声をあげ騒ぎ出し。


「ちょっとあんた離れなさいよ火野」

紅は京子を白から離し。


「白!? だったら私ともう一回しよ?」

礼子が割り込み白に唇を近づけて来ると。


「ちょ、ちょっと礼子あんたまで何してんのよ、離れなさいよ!」

美希は必死に礼子を押さ離す。


「し、白様……わ、私達も良いですか?」

「わ、私も……初めてですがお願いします」

凛と薫も周りの雰囲気に飲まれ唇を突き出し白に迫り。


「コラコラ!? 何してんのよ二人とも……わ、私だってまだだって言うのに十年早い!」

雫が凛と薫の襟元を掴み白から引き離し。


「だったら私のファーストキスあげる」

色々ゴタゴタしてる時に突然白の唇に誰かの唇が重なった。


「大好きだよ黒戸君」

姫野 咲が白にキスをし告白し。


「えっ!? す、好き……」

白は今までなぜか聞こえなかった、聞き取りずらかった言葉が普通に聞こえた。


「コラァ咲! 抜け駆けしない」

美希が叫び。


白はそんなんなの馬鹿騒ぎを見つめ微笑み、その白の姿を遠く寂しそうに稲穂は見つめ。


そんな稲穂の姿に紅も気づいたのか、松葉杖を突き一生懸命に稲穂のいる所まで歩み寄り。


「私はあなたの事が嫌いよ! でも勘違いしないでね、恨みとかそんなのはこれポッチもないし雫も同じ……だからいつまでもそんなショボくれた顔してんじゃないわよ! あなたも好きになったんでしょ? お兄ちゃん……ううん白の事? だったら過去の事を忘れなさい、あなたも私のライバルなんだから、ライバルらしい事をしなさい」

紅は耳打ちするように稲穂に話し掛け、稲穂は顔を赤くして白の方を見つめ直すと紅に頷き、稲穂は白の方に近づき恥ずかしそうに照れ。


「が、学校……学校辞めないでよ……」

稲穂は顔を赤くしてうつむき加減に言葉を放つと、しばらく沈黙し。


「か、勘違いしないでよね、私はただ、ただ黒戸君に学校辞めてほしくないだけだから……」

稲穂は不器用にそう言うと、白に唇を重ねた。


「さ、さっき助けてくれたお礼……ありがとう」

稲穂はもじもじと顔を赤くしてサバサバした態度でお礼を言い。


「雫ちゃん? あの子も白愛会入れちゃいなさい」

紅は悪そうな顔をして稲穂の行動を見つめ。


「もう……普通に勧誘すれば良いでしょ……なんでわざわざキスを……だったら私も白君とキスしてこよう!」

雫は白の方に笑顔で近付こうとすると、紅に襟元を掴まれ首を絞められた形になりき込む。


(なんだかんだで皆んな楽しそうだ、そうだよな……いま僕がするべき事はこの皆んなの笑顔を守る事なんだよ)


白は落ちていた拡声器を拾いスイッチをオンにすると。


「みんなありがとう! 僕もみんなの事が好きだよ……」

白はその場にいる皆んなに向かって笑顔で叫び深々と頭を下げると、それを見た彼女達はその言葉にザワザワと騒ぎ始め自分に向かって言葉を投げかけられたと言い争いを始め。


「どう? 気持ちは変わったかしら」

里利がそっと白の横に立ち問い掛け。


「まだなんとも言えません……ただ僕は何か勘違いしていたんだと、彼女達の笑顔を見ていたらそう思えています」

白は騒がしい彼女達を見回し、恥ずかしそうに里利に答え。


「そうね、答えなんか出さなくてもいいわ、ただあなたが彼女にした事が今のこの彼女達の結果だって事は忘れないであげて、白くんは彼女を助けていたと思っているけど彼女達だって君を……」

里利も目の前で騒ぐ彼女達を見つめ白に話しかけると。


「はい! 分かってます、これが不器用な僕の彼女達の助け方なんだって……」

白はハニカんだ笑顔を向けた。


ーー完ーー

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不器用な僕の彼女達の助け方 アツシルック @atsushilook

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