第4話 自爆まで15min


 今そばにジョンがいるのは幸運だとユウは思った。彼のマジカルヒーローズでの担当は治癒のはず。これまで機会がなくてその活躍を見た事はなかったが、少年は期待の眼差しで美少女のような青年を見上げた。

 しかしジョンはユウの心情を知りながらも、哀し気に目を逸らす。腕の中のハニーが、溜息をつきながらユウに事実を突き付ける。


「私達の力は評議会の人間にしか作用しない。仲間の治療は出来ても敵の治癒は出来ないんだ」

「それも宇宙法?」

「いや、評議会での取り決めだよ。敵に塩を送る必要はないだろうし、変な情でうっかり治癒しないようにロックがかかってる」


 ポイラッテがふよふよと周囲を飛び回りながら、当然の話だと言わんばかりにふてぶてしく言い放つ。叩き落したい。


「父さんは敵じゃない!」

「ワタシも治してあげたいデス」

「でもこればっかりは……」


 ハニーが力なく、垂れている耳を更に垂らす。

 対してポイラッテは、ふふんと鼻を鳴らして言い放つ。


「敵じゃなければ何故、敵のアジトにいるんだ」

「それは……」


 しばし悔し気に唇を噛んだユウだったが、ある事に思いついた。


「父さんはきっと地球の秘密機関に依頼されて、敵の裏をかくべく潜入していたに違いない! 今まで地球人が手をこまねいていたとは思えない。ようバグが直接倒せないなら、操っている側をどうにかしようと考えるはずだ」


 無茶な論法である自覚はある。しかし幼き頃から父が語ってくれた多田家が忍者の末裔であるという話がほら話ではなく真実であれば、実際にそのような任務についていてもおかしくないではないか。


「観察していたけど地球人側にそのような動きは見られなかった。残念ながらこの人は自身の意思でここに来ているのは間違いない」

「じゃあ、父さんをここで死なせるという事なの!?」

「このまま自爆装置が起動すれば、どのみち助からないんだ。諦めてメロリーナを探すべきだ」


 非情とも思える口調でポイラッテは言う。邪悪なハムスターもどきとしても、目の前で家族を見殺しにしろと発言するのは苦渋の決断でもあるが、自爆されては元も子もないのだ。


「メロリーナ?」

「結社の女幹部の名前だよ」


 おっぱいの大きさを形作りながらユウがジョンに伝えると、彼は顎に手を持っていき、考える素振りをした。名前、そしてその胸のサイズ。ジョンも同じ仕草で大きさを再確認したかったが、腕の中にハニーがいるので出来なかった。代わりにぎゅっとウサギの体を抱きしめる。


「姉さんのミドルネームだ……姉さんが敵の幹部……そんなまさか」


 この発言にポイラッテとハニーは顔を見合わせた。本人たちは知らぬ事だったとはいえ、ヒーローの家族が敵側にいたとすると。これまでの情報が筒抜けだったのも頷ける。

 ジョンのシスコンっぷりはハニーもよく知るところであったし、ユウも父親には相当な深い愛情を持っている様子。このままでは二人共、ヒーローズとしての力が発揮できないだろう。

 どうすればいいのか。せめてユウの父の治癒が出来れば! 彼の口から真実を聞く事も出来るし、ユウを縛るものが無くなる。

 今の状態でメロリーナと邂逅してジョンもポンコツになるのは避けなければならない。だがどうするか。ここにヒーローズの頭脳であるセルジオと笹山がいてくれれば、良いアイデアがあったかもしれないのに。

 痛恨な面持ちで顔を上げたハニーの目に映ったのは、滅茶苦茶勝ち誇ったようなポイラッテの顔。

 メルヘンな面持ちの癖して性悪で図々しく、悪知恵に長けたやたらと存在感のあるハムスター。正直結社より邪悪な事も平気でやるところ、ハニーとしては好ましい相手ではなかったが、ここはそのクレバーな脳みそと大胆不敵さに賭けたい。


「ユウのお父さんを助ける方法がある」

「ポイラッテ!? その方法は!?」

「忘れたのかい、ユウ。僕らの婚約の事を」


 ポイラッテ以外の全員が滅茶苦茶嫌な顔をした。


「それが何……?」

「ユウを評議会側の人間とするのに、他のメンバーと異なり婚約を結んだ事がここで活かされるとは」


 ハニーの耳がピンと跳ね上がった。


「そうか! ユウがポイラッテの婚約者と言う事は、彼はポイラッテにとって義理の父となる人。つまり評議会側の人間にカウントできる。さすがだポイラッテ、こうなる可能性を見込んでの婚約だったのか。たまたま見つけた好みの男子を無理矢理自分の伴侶にするためじゃなかったんだね!」


 好意的に取ったハニーの純真無垢な視線を受けて、闇属性のポイラッテはその光をまっすぐ見られないように目を逸らした。そう、こいつは好みの美少年を手に入れるための自己中な行動の結果での婚約であり、今回は偶然である。

 偶然ではあるが、それがユウの父を救う唯一の手立てとなったのだ。


 しかし問題はある。ジョンがワナワナと震える。


「認めないデス、ポイラッテがユウの婚約者だなんテ!」

「ジョン、それを認めないと彼を治癒する事が出来ないんだ」


 諭すように腕の中のウサギが言うが、金髪を揺らして青年は首を振る。


「それでも、ユウをこんな奴に渡したくないデス!」

「ジョン……お願いだ……父さんを助けて欲しい」


 絞り出すような声を発しながら、黒い瞳がジョンを見上げた。潤んだ瞳が訴えかけて来る。


「ぐぬぬ」

「ジョン、彼を助ける事を優先しよう。どうせポイラッテの事、悪役令息として衆人環視の中今までの悪行を晒されて断罪+婚約破棄をされるはずだ。今は耐えよう」


 再度のハニーの言葉に、ジョンは決意をした。しかしジョンも心で血の涙を流した。そして燃え上がるようなポイラッテに対する嫉妬。その心は彼らの力を最大限に引き上げる。


「立った! ハニーの耳が立った!」


 ロップイヤーであるはずのスイートハニーの耳がピンと立ち上がり、見た目が思いっきり普通のウサギになると同時に、死者すらも蘇らせるハイパワー治癒力がユウ父に反映された。神々しい黄金の輝きに思わず全員が目を閉じるしかない。


「うっ……?」


 うめき声と共に父の目が開く。他のメンバーもその声に目を開けて彼を見た


「父さん!」

「お義父さん! 息子さんをボクに下さい!」

「パパと呼んでいいですカ!?」

「ポイラッテ、ジョン、それ今言う事じゃないと思う!」


 的確なハニーのツッコミの後に、背後からどこかで聞いた事のある声が聞こえて来た。


「多田博士……? それにジョン、何故あなたがこんなところに……えっブラックアイパッチ様……え?? それに評議会のブタ」


 大塚が茫然と集団を見つめている。

 しれっとブタ呼ばわりされたポイラッテは激怒した。


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