第4話 戦うために
何故、人間は虫を忌避するのか?
毒があったり、噛まれたり刺されたり。中には病原菌や寄生虫を媒介するものもいるから、これまでの進化の過程で人類は虫にひどい目にあわされた事もあったのだろう。
虫の存在をなるべく避けたいというのは、本能に刷り込まれているのかもしれない。だから無防備になりがちな室内に出られた日にはもう。屋外では平気な蝉やトンボも、室内に飛び込まれたら大抵阿鼻叫喚になる。
教室や電車の中に入ってこられてパニックが起きた経験はないだろうか。これが蜂だったり明らかに危ないという知識がある虫だと、更に大惨事だ。でもなぜか三十人ぐらい揃うと冷静で平気な人が一人か二人はいて、上手く追い払える彼らはその時、光り輝く英雄となる。
田舎生まれの田舎育ちであれば、成長の過程である程度は「この虫は危なくない」「こう対応すれば大丈夫」という知識を得て、触れる虫がいたりするのだが、この知識が無かったりすると、「虫すべて=怖い」本能のままになるらしい。
つまり、都会生まれの都会っ子ほど、虫嫌いが多くなるようだ。
ただでさえそんな状況にあって、更に不衛生なイメージが強く定着している黒くて平べったい虫に対し、都会っ子で構成されているマジカルヒーロー達が嫌悪感MAXも致し方ない事だろう。
と言う訳だから、目元だけを隠されても困る。味方にも黒い目線が入って、犯罪者揃い踏みと言った感じになっているし。こちとら腐っても正義の味方であるから、大変よろしくない。
「ポイラッテ、これじゃだめだ。もっと隠せないのか」
「広い範囲のもあるけど……」
「それで頼む!」
ふよふよ浮いたハムスターは戸惑いながらも頷くと、再びクルクルとまわりはじめた。
「プニポヨムチムチ、ポイラッテーン!」
降り注ぐ粉は今度は銀色で、同じように目元が熱くなり、一度全員が目を閉じた。再び瞼を上げてみると、今度は全体的にぼかしがかかる。
「うっ、視力が極端に落ちたみたいで気持ち悪い。もっとこうなんとかできないのか」
「もう、贅沢だなあ。これでどうだ、パニムッチョクミュクミュ、ポテポテプニーン!」
再び回転するハムスターから虹色の粉が降る。虹色が駆け巡り、一瞬気持ち悪くなって全員が目を閉じた。再び開くと……。
「これだ! これで行こう!」
まわりの風景はそのままに、
「これならオレも戦える!」
拳を振り上げた
* * *
「何をやってるんだ」
双眼鏡を手に、黒いピチピチの全身タイツスーツに身を包んだヒョロガリの男が鉄塔の上でぼやくと、背の低いゴリマッチョも双眼鏡を覗き込む。
「ヒョーガ兄貴、あいつらなんか揉めてるみたいですぜ」
「ゴーマが見ても、揉めてるように見えるか」
「押し付け合ってる、って感じすね」
「ふふふ、流石の評議会も、アレには手出しできないか」
「でも早く倒してもらわないとヤバイんすよね」
「う、うむ……」
実は、意図して作った
続けざまに巨大化させたムカデを倒され、もしもの時のために作っておいたメカムカデも倒されてしまい、急遽次のムカデを培養していたのだが、培養液の中に例のアレが飛び込んでしまった事に、二人は気づかなかった。培養液は、アレが好む腐りかけの玉ねぎのような匂いがする。
栄養満点の培養液の中でスクスク育ち、オギャーと飛び出した時には、ちょっとした乗用車サイズ。たまたま妖バグ製造工場の視察に来ていたメロリーナが轢かれた。彼女はぶつかったダメージと、相手が何だったのかを知ってそのまま気絶し、一時的に精神が異世界転生をして悪役令嬢として活躍しつつ、断罪&学園追放をして来たヒロインと王子をざまぁし、チート能力を駆使して魔王を倒して逆ハーレムを構築した後、領地経営スローライフをはじめるのだが、それはまた別の話なのでここでは割愛する。もしもトラックサイズまで育っていたら、精神だけじゃなく魂丸ごと異世界転生していたところだったので危なかった。
とはいえ女幹部メロリーナは、大のアレ嫌いである。アレを培養をしてしまった事、そして事故とはいえ轢いた事がバレてしまえば部下であるヒョーガとゴーマのクビが危ない。背伸びをして買った頭金なしで買えるというマンションの住宅ローンが終わっていないため、無職になりたくない二人は、新生妖バグを連れて地上に出て、マジカルヒーロー達に倒してもらい、この失敗を無かった事にしたいところ。
彼女が目覚めるまでには倒して欲しいのだが、あの揉め具合ではなかなか時間がかかるかもしれない。領地経営スローライフがだらだら続いてくれることを今は祈る。なお現在のメロリーナは、衆人環視の元で婚約破棄と断罪をされている所だ。ヒロインへの虐めがバレたらしい。
お互いにとっての新たな戦いは、まだ始まったばかりなのである。
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