恋の自由時間

「勝手に恋のステージを変えたけど、僕は二人で話してみたい。すいません。挨拶が遅れましたね。溝端賢士、怜奈に素敵な女性を紹介すると言われて、マリアさんに逢いにきました」


 賢士は東急プラザへの連絡通路で立ち止まり、マリアに頭を下げて謝罪し、マリアは未来で自己紹介した時を思い出し、「マリアと呼んでください。私が見えて良かったです」と笑顔で応え、賢士は変な言い回しであるが、魅力的で興味深い女性だと思った。


[回想シーン。マリアは自転車店の薄暗い玄関口から一歩踏み出し、ウインドーから差す淡い光りを浴びて、少し俯き加減でエプロンのうさぎのイラストの上で腕を組んで小声で「マリアと言います。私が見えるのですね?」と言うと、賢士は

「ええ、ウインドーの薄明かりに魅惑的に輝いて見えますよ」と応えている。]



 怜奈は改札口を出て通路の分かれ道で迷ったが、四角い革鞄を持った天使が壁の案内看板の前で東急プラザ方面を指差し、怜奈は首を傾げながらも『そっち』と閃き、スマホを手にして貴子へ連絡を入れる。


「貴子さん。ケンジとマリアは東急プラザへ向かったようです。私は二階から、上階を調べてみます」


「了解した。今駅へ向かっているので、すぐに東急プラザに着く。私たちは一階から二人を追い詰めるわよ」


 サングラスを掛け直した怜奈が小さくガッツポーズをし、天使が『可愛いな~』と呟いて一緒に通路を走り出す。


 天使は賢士がマリアを連れて逃げ出したのは、怜奈がホームに立つ不自然な女性を注視し、賢士は簡単にマリアだと見破ったと捉え、賢士に天使を見る能力があるとは思っていない。


『恋の自由時間を楽しみたいんだろ?』


 四角い革鞄を振って怜奈を追い越し、両手を広げて横走りして怜奈の横顔を見て笑っているが、女性グループが賢士とマリアを見つけたら、監視を続行するつもりだった。


 賢士は連絡通路の窓から大通りを見下ろし、貴子が女性メンバーを引き連れて早足で迫るのを見て、二階の出入り口から東急プラザに入ってファションショップを探す。


「ショッピングを楽しんでから、カフェでお茶しませんか?」

「いいけど、大丈夫かしら?」

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