奇跡の代償

 セレモニーホールの通路を歩く金髪の天使に鞄を抱えた悠太が駆け寄り、祭壇の裏で言われた『復活の試練』について質問した。


「これから二人に何が待ち受けているのですか?」

「一つだけ言える事は、男も命を懸ける必要がある」


 天使の答えに悠太が驚愕の表情で「奇跡の代償は死?」と足を止めたが、めぐり逢った二人の時計の針は動き出し、背中に翼を付けた者に委ねられている。


「勘違いしてないか?運良く過去へ戻れたとしても、マリアの死の運命は変わらない。復活が成功しても、ルールを破ったら審判の判断で終了のホイッスルを鳴らすぜ」

「ゲームオーバー?」

「天使ってのは時を見守り、時空が歪んでないか人間を監査し、死の運命を早める事だってある」


 悠太はフロアの隅で輝が携帯電話で賢士を呼び出し、その横で腕を組んで怒っている妙子を振り返り、早足で玄関口へ向かう天使を追いかけた。


「じゃー偵察してくるから、ここで待ってろ」

「僕は地上から行きます」

「たから、無理なんだって」


 天使はドアをすり抜けて通りへ出ると、背中の翼を広げて夕暮れの空へ飛び上がり、悠太は歩道を走って追いかけたが、4、5m進んだだけで背中にゴム紐があるようにビューンっと引き戻され、玄関前を直角に曲がって逆走りし、セレモニーホールのフロアに後ろから倒れ込んだ。


 その時、天使に渡された四角い革鞄の蓋が開いて、タブレット、ヘアワックス、歯ブラシ、筆記用具などが床にばら撒かれ、悠太はそれを拾い集めて、天使が自分には無理だと言い、マリアは『体から離れさせてやったぜ』と言った事を思い起こす。


『霊体は肉体とコードで繋がれ、切れたらこの世界から消えるのか?』と、四角い革鞄を前に置いて床に座り込む。


『まだ何かできる事がある筈だ。天使が時の審判ならば、ジーケンは神の手でゴールする力を持っている……』


 悠太は金髪の天使の話を聞き、人間が刷り込まれている『天使』のイメージとは違い、運命を遵守する為なら死期を早めるダークな存在だと知り、二人の手助けになる具体的な方法を模索した。

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