ギャル令嬢が婚約破棄されたなら

譚織 蚕

第1話

「公爵令嬢ランタッタ、お前との婚約を破棄する!!」


「りょ!!!」




 パーティに2人の怒号が響き渡る。


 その1人である王子っぽい人間は、この国の王子。


 そしてつけまが映える濃いめの化粧にピンクのエクステを付け全体的にキラキラした女性は彼の婚約者である……




 失礼。




 婚約者であった公爵令嬢のランタッタである。




「え、マジ承諾?」


「うん、ガチ承諾」




 彼ら2人は最近不仲が噂されていた。




 だが実際には王子はランタッタが大大大好き。


 最近会話が減った婚約者の気を引こうと婚約破棄ごっこを思い付き、今回実行に移したのである。




 しかし。


 恋人の気を引こうとして衆人環視の中で婚約を破棄する人間が普段からまともな筈はない。


 次第に王子のヤバげな所を感じ取り始めたランタッタは、王子から心が離れ始めていた。




 そこに至っての婚約破棄。


 ランタッタは我先にと飛び付いた。




「え、いや…… じょ、冗談だよ!!」


「うん? 王子とかいう責任じゅーだいなアンタがみんなの前で言ったこと取り下げるん?」


「いや、でも私まだランちゃんのこと好きだし……」


「うーん。そんなこと言われても私はもうアンタのこと好きじゃないし…… てか別れ話使ってドッキリしようなんて彼ピとして最悪じゃね? そんなの私のピッピじゃないんだけど」


「いや、待ってくれ…… ラーちゃ、待ってラー……」




 貴族が見守る中で、彼らは2人だけの世界に入っていく。周りの貴族たちは彼らの言っていることの半分も理解できていなかったが、ただランタッタが王子を責め立てていることだけは解った。




 だがそれはまずい。将来の国家の安定の為に公爵家と王家の結びつきは必要不可欠。




「ちょっと待てランタッタ! 家の、国家の繁栄の為だ。王子様もこう言っておられる。……どうか、婚約を続けてくれんか?」




 1人の貴族が代表して飛び出した。彼はランタッタの父親であるハグノート公爵。




「王の後宮に入ればアクセサリーも、食べ物も、だいたいは思い通りになるんだぞ!」


「ちょっ、パパ…… 大勢の前で話し掛けないで欲しいし! ウチがファザコンだと思われるじゃん……」




 しかし願いは届かない。ランタッタは強情に首を横に振る。




「つか私に好きに生きろって言ったのはパパじゃん。それが今更私の的になるワケ? クソジジイすぎて笑うんですけど笑 親ガチャ失敗ですわ」




 届かない。強烈な罵倒がランタッタの口から漏れ、意味すら分からない言葉に公爵は打ちのめされた。




「いや、だが…… その……」


「うちもうやりたいこと決まってんの」


「やりたいこと!? それは王妃になることよりも大事なの事なのか!?」




 その場にいた全員が息をのみ、彼女の答えを待つ。


 たとえ伴侶となる王がどんなに凡愚でも、王妃になることに勝る職などこの世には存在していない筈なのだから。




 ふと周りをぐるっと見つめた後、ランタッタはそっと息を吸い込んで言葉を紡ぎ出す。




「うん。大事だよ」




 静寂を破り薄紫のリップを通して呟かれた声に、周囲の動きがハッと止まる。




 全員から注意を向けられる令嬢ギャルは、堂々と覚悟を称えた瞳で父を、元婚約者を睨みつけた。




 されど、父はそれで引くことなど出来ないのだ。答えを聞かぬうちは引けんのだ。




「……なんなんだそれは!!」




 狼狽えながらも、先程より苛烈に問いを投げかける。




「……くモ」


「ん? ラーちゃん、今何て?」




 小さく囁かれた言葉に、堪らず王子が聞き返す。それに対して返ってきたのは……




「王子うっざ!! 読モって言ってるでしょ!!」




 噴火のような勢いの言葉だった。




「ど、読モ?」




 しかしそんな事はどうでもいい。


 王子は聞きなれない単語にオウム返しする。




「うん、うちらギャルの憧れ」


「その読モ……? とやらはそんなに凄いものなのか? 私との婚約を切ってまで取るほどの!?」


「は? たりめーじゃん。読モっつーのは神だし! それと比べたらお前との婚約に価値なんてwww」




 パーティの会場に嘲笑が響き渡る。




「なっ、なっ…… 私の元に来ればなんだって自由なんだぞ!? わ、わかった。読モでもいい。読モをして、暇な時に王妃をしてもいいから……」


「ヤダよ。お前キショいもん」


「!? ら、ラーちゃん!?」


「うっせ。その呼び方もいちいちキショいんだよ。私が王子呼びしてた意味察しろよ。おっさんかよ」




 言葉の刃が王子を突き刺し、おじさんという言葉をディスに使われたことで周りの貴族達も次々に切り裂かれていく。




「あー、もうウチ帰る!」




 死体のようになった貴族たちを尻目にルーズソックスを履いた足は1歩ずつ前へと歩みを進め、遂にパーティ会場からギャルはいなくなった。






 ☆☆☆☆☆☆




 超エレガント!? 婚約破棄を乗り越え貴族出身最強読モ誕生!!




「マジ頑張るし! 可愛い先輩達に勝って目指すはトップオブギャル!」




 3週間後。王都の本屋にひっそりと1000冊の本が入荷された。


 それは開店直後に殺到した個性的なファッションの女性達によって即座に売り切れ。


 各地の本屋では品切れが相次ぎ、重版に次ぐ重版が掛けられ、隣国への輸出もなされた。


 結局、この回は国の総人口500万に対し全世界で200万部の売上を記録し伝説となった。




インタビューを求められた立役者は、ただ一言。




「マジギャルは最強っしょ!!」






 ??????




「あぁ、私のランタッタ…… 可愛いよラーちゃん…… 帰ってきたねぇ…… いっぱい帰ってきた……」




 城の一室には1人の男と180万部の雑誌がどさり。




布教用、保存用、楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用楽しむ用………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ギャル令嬢が婚約破棄されたなら 譚織 蚕 @nununukitaroo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ