第13話 管理者の声

 初めてのダンジョン探索から4日が過ぎた。

 あれからの日々は、魔法の訓練とダンジョンでのレベル上げが中心でなかなかに充実したダンジョンライフを送っていた。


 ここで、山田さんから教えてもらった魔法の基礎を思い出していこう。


 魔法には、基本となる火、水、風、土の4つの属性魔法と回復や付与などの特殊魔法の2種類が存在する。属性魔法は基本的に1人1属性である。しかし、特殊魔法はその限りではなく選ばれた者のみがで使うことができる。


 魔法は、使用者の理解と経験によって上達する。どちらか1つでは、上達しないんだそうだ。つまり、知識あっても意味ないし、繰り返し練習だけしても意味がないのだそうだ。


 ただ、俺たちはまだ魔力が体に馴染んでいないから繰り返し魔力操作の練習をする必要があるらしい。それからの俺と優希は、暇があれば常に魔力操作の練習をした。


 訓練の甲斐もあって、俺は属性魔法こそ使えなかったが身体強化の魔法と生活魔法の2つの特殊魔法が使えるようになった。意外とこれらの魔法は便利で、身体強化の魔法は使用中自身の能力が1.2倍に増加した。生活魔法の方は、着火や水生成、服の汚れを落とすなど色々な効果があり、日常生活で重宝する魔法だ。


 まぁ、生活魔法がいくら便利といえど地上に魔力がないから使用できないのだが。ただダンジョンから出るときにとても便利だった。汚れた服を綺麗にするのが楽になった。前回の探索では、どうやら山田さんが使うのを忘れていたらしかった。


 一方、優希の方は全ての属性魔法に適正があるのだそうだ。今は火属性と風属性の魔法の上達に力を入れている。まずは、順番に覚えていくのだそうだ。


 そして、俺と優希はこれらの魔法を使ってダンジョンの攻略を行った。

 ここまでがこの4日間に起きたことのまとめである。



--ダンジョンができたから7日目の朝----


 俺はいつもの日課のランニングをしていた。

 前に地震にあったときに立っていた辺りに差し掛かったそのとき。


 《やあ、この星に住む全ての人類よ。私は、管理者。この星を管理する者だ。》


 急にどこからか声が聞こえてきた。どこから聞こえるんだ。それに管理者?管理者って言えば、俺にステータスやスキルを与えた存在か⁉︎そいつが一体どうして。


 この声は、世界中の全ての人に聞こえている。最初は、誰かの悪戯が幻聴だろうと思っていた人も周りの様子を見て本当だと気づいて騒めき始めた。


 《さて私は、君たちが言うところの1週間前、地上に魔物とダンジョンを召喚した。君たちに対する試練としてね。だが、どうやらダンジョンに入る者は少ないようだ。これでは試練の意味がない。よって私は君たちに試練を受けるメリットとデメリットを用意した。》


 メリットとデメリット?何を用意したんだ?


 《メリットは、今後できる上級ダンジョンを攻略した者には私が好きな願いを1つ叶えてあげよう。お金であろうが強さだろうが、永遠の命だろうが構わない。好きな願いを叶えてあげる。ちなみに今、君たちが探索しているダンジョンは初級だよ。今後、中級と上級を追加するから楽しみにしててね。》


 《さらに攻略者の保護も追加してあげよう。君たちは、自らの願いのために他者を平気で殺すことができる生物だ。しかし、それではダンジョンを攻略する者がいつまで経っても現れないかもしれない。そこで、ダンジョン内での攻略者同士の戦闘は禁止させてもらう。もちろん君たちがMPKと呼ぶ魔物を他者になすりつける行為もね。細かい判断はダンジョンで得られるステータスを通じて確認して欲しい。》


 これでますますダンジョンを攻略しないといけなくなったな。なぜ試練を与えるのか直接会って聞いてやる。


 《次にデメリットを発表しよう。それは、ダンジョン内から魔物が溢れる大氾濫が周期的に起こるようにした。起きるまでの日数は、ダンジョン前に設置される石板から判断してほしい。さて、私の試練に挑む冒険者たちよ。君たちが私の前に来るそのときを楽しみにしているよ。》


 そう言うと管理者の声は聞こえなくなった。この後、世界は混乱に見まわれた。すぐさま、現在分かっているダンジョンの大氾濫までの日数の確認と発見されていないダンジョンの捜索が開始された。


 このとき、使われていないダンジョンが大氾濫を迎えるまでの日数はあと30日。

 こうして、人類はあと30日以内に大氾濫に対する具体的な対策を考えなくてはいけなくなった。


 一方、そんなことを知らない俺は家にダッシュで帰っていた。家に着くとじいちゃんと山田さんが庭のダンジョンの前にいた。


 「どうしたの!何かあった!?」


 「いや、異変が起きるやもしれんと警戒しておったのじゃよ。」


 「まぁ、特に何ともなかったけどね。」


 「そうなんだ!良かったぁ。」


 ほっと一息ついていると、俺は大事ことを思い出した。


 「そういえば、このダンジョンの大氾濫までの日数は?」


 「50日だよ。まぁ、僕たち2人だけで間引いているからこんなものだと思うよ。それにダンジョンの大氾濫は、実力さえあれば良い修行になるからね。向こうの世界でもわざと小さなダンジョンを大氾濫させることもあったくらいだから。」


 「へぇ〜。そうなんだ。」


 「まぁ、それでも失敗して街が消えた例も少なくないがな。」


 「大氾濫はユニークな魔物が出てくると同時にアイテムを落としやすくなるからね。多少のリスクは黙認されるんだよ。この世界でどうなるかは知らないけど。」


 「じゃあ。このダンジョンもいずれ手離さないといけなくなるの?」


 「いや、大丈夫だと思うよ。大氾濫で出現する魔物の数は、ダンジョン内の魔物を間引きすることで減らすことができるんだ。また、大氾濫までの日数はダンジョンを1度攻略するごとに初級なら2日、中級なら7日、上級なら20日の猶予が延びることがわかっている。このダンジョンは、僕たちがこの1週間で暇なときに10周できるくらいの難易度だから、このダンジョンは氾濫しないと思うよ。」


 「むしろ、見つかっているダンジョンの心配をするより見つかってないダンジョンの心配をした方が良いと思うよ。」


 「確かに。」


 確かに山田さんの言う通りだ。すでに見つかっているダンジョンは頑張れば小規模な氾濫にできるかもしれない。しかし、見つかっていないダンジョンはどんどん魔物を溜め込んで大規模な大氾濫を引き起こすだろう。


 「ダンジョンを見つける方法とかないの?」


 「うーん。周囲の魔力を感じれる人には見つけられるかもしれないけど、距離が近くないと分からないだよね。向こう世界では、星読みの巫女と呼ばれる人がダンジョンが出現する位置を当てていたらしいよ。本当かどうか知らないけど。」


 「じゃあ、この世界にも。」


 「あらわれる可能性はあるね。星読みの巫女が。あの管理者の話しぶりからして別に人を殺したい訳じゃないみたいだし。何らかの手助けはしてくれそうだよね。」


 全くありえない話しではないだろう。何となく俺も管理者は手助けをしてくれるのではと感じていた。


 こうして世界が大きく動き出し、人々が不安に包まれた。

 それでも時間は止まらない。

 数日後、俺と優希は晴れて高校生になった。

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