第21話 少女が起きました

「うっ…くぅ〜」


 早朝、俺は大きく背伸びして起き上がる。


 耳栓をしていた事もあって、特に何もなく快適に過ごす事が出来た。


「あれ? そう言えば…」


 あの子が居ない事に気が付く。


 昨日、俺はあの子に寄り添う様に寝ていたが、近くにはあの子の姿が見当たらない。


 それにルイエとジャルデも見当たらない。ルイエとガギル、それにワームはまだそこで寝ているが…何処に行ったんだ?


 俺はまだ見ていない、洞窟の入り口の方へと進む。


「あははっ!」

「次はサーナがおにー!」

「待て〜!」

『随分つまらない遊びをしている…』


 そこでは人で言う10歳ぐらいの活発な明るい茶髪の女の子と、エンペルがピョンピョンと追いかけっこをしている姿があった。


「あ、アノムだー! おはよー!」

「あぁ。おはよう」

「あ! お、おはようございます!」


 少女が深く頭を下げる。


 随分忌避感がないんだなと思いながら、俺はなるべく優しく対応する。


「おはよう。具合はどうだ?」

「は、はい! とても元気になりました! あ、あの、昨日私を助けてくれたのはアノムさんだって聞きました! ありがとうございます!」


 アノムさん…良い響きだ。最弱魔物パーティーの俺たちからしたら、一生ない敬称だ。


「気にするな。実質助けたのはそこに浮かんでいるジャルデだ」


 そう言うと、ジャルデが急ぎ胸を張る。


 調子の良い奴め。


「は、はい! それもお聞きしました! ですけど種族の違う者を助けるなんて…相当な決断だったと思いますから…」


 少女が目を伏せながら話す。それからは哀愁が何処となく漂っている気がする。


 随分と魔物である俺に礼儀が正しいな…普通なら目覚めた瞬間、発狂してもおかしくない。

 ジャルデが色々話してくれたのか?


「そんな事はないよ。改めて、俺はアノムだ。よろしく」


 ま、それを今聞くのは後でいいか。


「あ、私サーナって言います!」

「私はエンペルだよー! よろしくねー!」

「よ、よろしくお願いします!」


 って、エンペルも自己紹介まだだったのか。それでよく遊べてたな…。


 それに少し呆れながら頭を掻く。


「アノムもあそぼー!」

「お、おい!」


 俺はエンペルに引っ張られ洞窟の入り口近くまで行く。


「今度はアノムがおにねー!」

「うわー!」


 2人が俺から離れ、逃げ惑う。


 はぁ、まぁこの子は病み上がりだ。早く捕まえて、ゆっくりさせる様言うか。


 俺はウルフである自分の矜持とプライドを持って、少し本気を出して足に力を入れる。


 バキバキッ


 すると視界が少し下がり、足下から何か豪快な音が鳴る。


 タン タン


「は、速い…」

「何でー!? 速すぎるよー!!」


 2人から驚きの声が上がる。


 だが、これは俺にも驚いていた。最速でも、10秒は掛かるとは思っいたのだ。


 熟睡したからか? よく身体が動く。

 少し自分の身体に疑問を持つが、別に不利益はない。


「ま、まぁ、これで終わりだ。一先ず病み上がりなんだからまだ安静にしていた方が良い」

「えー」

「…はい。分かりました」


 俺は2人を中に入れる様に指示するのだった。




「は、はじめまして! サーナと言います! よろしくお願いします!!」

「お、おぅ。ガギルだ」

「ん…ルイエ」

「ギッ」


 それから数十分後。ガギルとルイエ、ワームが起き、サーナと自己紹介を行っていた。


 ガギルは魔物なのに何故そんな丁寧なのか戸惑い、ルイエはいつも通り表情に出さず対応している様だ。


「ちょっと聞きたい事があるのだが」


 ガギルがそこで手を上げる。


「おい、ガギル」


 俺はあまり深く質問するなと、視線で訴える。恐らくこの子の魔物による丁寧な対応は、昔に魔物と何かあった様に感じる。だが、まだ初対面だ。

 こういうのはもう少し後でで良いだろう。


「…安心しろ。俺もバカじゃない」


 ガギルが、首を横に振る。


「俺が聞きたいのは麓とは言え、何故アルベック山脈と言われる此処に倒れていたのかだ」

「あ…」


 サーナの表情に悲壮に浮かぶ。


 あー…それももう少し後の方が良かったかも。


 そう思ったが、それはもう遅かった。

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