第14話 ジャルデは無視します

 視界が回復し目を開けると、そこには恐らく結界であろう白色の線が覆った空間があった。


「出来たのー、これー?」


 そこにエンペルがピョンピョンと跳ねながら結界の中に入ろうとすると…。


「ぶへぇー!」


 エンペルはその白色の空間には入れず、そこに壁があるかの様に押し潰れて、跳ね返る。


 あ、先に言っておくべきだった。

 この結界に入れるのは俺が許可した者のみだと言う事。


「えっと…許可は…」


 ブゥン


 俺の目の前にボードが出現する。そこには許可をする者の名前が表示される。


(ダンジョンは生物なんじゃないかと疑いたくなるな…)


 俺はダンジョンに一抹の疑問を覚えながら、自分の名前と皆んなの名前の所を触り、ドンドン許可をしていく。


 ワームの名前はまだ未設定だったので、ワームという種族名の後に???と表示されていた。


(後でワームの名前も決めてやるか…いつまでもワームってのも可愛そうだし、最近では結構皆んなにも従順になって来たしな)


 そんな事を思っていると、ある名前を見て俺は動きを止める。


 *****


 ジャルデ 許可しますか?


 *****


「…ん?」

「どうしたのー?」


 1番近くに居たエンペルが何かあったのかと近づく。


 どうやら目がおかしくなったのかもしれない。それかダンジョンの故障かもしれない。


 俺は1度目を擦った後、もう一度ボードに目を向ける。


 *****


 ジャルデ 許可しますか?


 *****


 やはり間違いでは無いのか…そう思って周りを見渡す。


『何でアンタが結界を…』


 居ない…よな…。


『結界を張る事なんて高度な魔法をこんな獣風情が…』


 …。


「…ジャルデ?」

『はぁ? 何か言っ…あっ! …ん"ん、獣風情が私の名前を呼び捨てにするとは何のつもりだ?』


 赤髪のレイスは、少し焦った様子で此方に迫る。


「…残念な人、か」

『な!?』


 そう呟くと、自分の髪と同様赤くし目尻が吊り上がる。


 なんか…無理矢理威張っている感じがあるよな。だから残念な人と思わず言ってしまった訳だが…ジャルデって霊王ジャルデの事なのか?


 赤髪のジャルデと言う者の方を見て、少しオドオドしているとルイエが近づいて来る。


「アノム、どうかした?」

「ん? えーっとだな…」

「あー! 凄い入れるよー!!」

「これが結界…どう言う原理で…」


 皆んなにどう伝えるか迷っていると、ルイエの後ろでは結界に夢中な2人の姿があった。


 ルイエは結界に飽きて、2人は結界に夢中…。


「……いや、ただ、レイスが鬱陶しいなって思ってただけだ」

『な!? 何を言ってるのよ!? 何で私の事を鬱陶しいなんて思う訳!? 私だってねーー』


 大声、早口で捲し立てるジャルデを無視して、ルイエは言う。


「そう、アノムもそう思うのね。なら耳栓頂戴」

『冷静過ぎない!?』

「おう」


 俺は1 Pで耳栓を出し、ルイエに渡す。


「よし、じゃあ結界には入れない様にしてと…」


 ボードを操作して、ジャルデは結界の中に入らない様にする。


「なぁ、コイツをこの洞窟、もといダンジョンから出す事は出来ないのか?」

『この獣風情は…もしかして私の事を追い出そうとしているのか? 私を追い出すなんて出来る訳無かろう』


 ふんっと鼻で笑うジャルデを横目に、ダンジョンへと問いかける。


【出来ます。しかし、洞窟を出た瞬間ジャルデは消滅してしまう可能性があります。宜し】


「やってくれ」


【ダンジョン主からの命令を受託。ジャルデをダンジョン内への侵入を禁止します】


 俺は食い気味でダンジョンからの返事を返す。


 すると。


『ちっぽけな獣風情が私にどう干渉するのか楽しみ…キャーッ!!?』


 ジャルデは強風に吹かれた様にぶっ飛んで行った。


 彼女の髪はぐしゃぐしゃに、そして鼻水が大量に出ている。


 この人が霊王ジャルデな訳無いよな、流石にこれだったら幻滅する。


 俺はジャルデと言う名のレイスをダンジョンから追い出した。

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