第7話 調教します

「アノム! 何かしたのか!?」

「うわーっ! また光ってるー!」

「…眩しい」


 3人が背後で此方を見て、眩しそうにしている。


 俺はそんな皆んなの事を尻目に、前をワクワクとしながら向く。


 光が収まり、そこに居たのは…。


「「「虫?」」」

「あぁ。ワームだ」


 その円形の中心には、茶色の芋虫が居た。


【ワーム…飲食を続ける程、飲食した物に影響してほぼ無限に成長する。その成長性は一国の国を陥れる程。しかし、飲食に特化するばかりにダンジョン自体を食べてしまう事もしばしば。1日5時間程飲食を続けなければいけない。口の中にある無数の歯で相手を攻撃する。DP 15 P】


 この説明文を見た俺は、すぐさまこのモンスターだと思った。何という可能性を秘めたモンスターだろうかと。


 飲食と言うのなら考えてあるし、ほぼ無限に成長するというのは魅力がある。


 結構なコストでDPが45 Pまで下がったが、中々良い使い方だったのではないかと思う。


「アノム、それは何だ?」

「えー! ちょっと可愛いかもー!」

「この弱そうなのは何?」


 3人がうにょうにょと動いているワームへと興味津々といった様子で近づく。


「あぁ、それはワーム。飲食を続ける限り成長し続けるって言うモンスターだ。DPを消費して召喚した」

「「「へー…」」」


 俺達はワームを周りから囲む様に見る。


 ワームは俺達の事をキョロキョロと見回すと、エンペルの方へと近づく。


「わーっ! おいでおいでー!」


 エンペルがワームを向かい入れる様に横に広がる。


「ギイィィィィィッ!!」

「ひゃぁーっ!!?」


 ワームは突然エンペルの体に飛び付き、エンペルの体を食い破った。


「エンペルッ!!」

「だ、大丈夫ー…ちょっと食い破られただけだからー…」


 エンペルの身体から、少し水の様な液体が流れ落ちる。


 俺はすぐさまエンペルを咥えて捕まえ、ワームから距離を取る。


 エンペルの種族名はスライム。身体が粘体で、どんな形にも変形出来るのが特徴的な種族だ。


 真ん中にある核を攻撃されなければ再生出来るが…痛覚が無い訳ではない。


「ギャギャギャギャギャッ!!」


 ワームは此方を威嚇するかの様に、口の中の歯を大きく鳴らす。


 こいつはモンスター。知能を持たず、生き物なら構わずに攻撃する。


 しかも俺に向かって威嚇して来たと言う事は、俺の言う事は聞かないという事を表している。


「お、おい…アノムどうする…」

「うーん…」

「…良くないわね」


 皆が非難の声を上げる。


 しかし、コイツには俺達3人分の食事分のDPを注ぎ込んだ。それなりに役に立たせるべきだ。


「…皆んな、俺について来てくれ」


 俺は皆んなを連れて、洞窟の外へと出た瞬間走り出した。

 ワームはそれを追って此方を追い掛ける。折角の獲物だ、見逃す訳がないだろう。


 だが…。


「ギッ…イ?」


 ワームの動きが急激に遅くなる。


 この寒さには耐えられないだろう。


 今、ワームは俺の半径2メートル以内に居ない。つまり、この暴風雪のこの環境をまともに受けている。


 寒さで体が動かないだろう。息をするのも喉が焼ける様に痛いだろう。手足の先の感覚が段々と無くなってきただろう。


「ギィ………ッ!」


 ワームは此方に視線を向ける様に、顔を上げていた様に感じた。


 俺はそれを見計らい、皆んなと一緒にワームへと近づいた。


 近くでワームの姿を見ると、体の節々が凍傷になりかけているのか、体が所々変色していた。


 そんなワームに俺は声をかける。


「今のお前は俺に生かされてる状態なのを理解したか?」

「ッ!」


 声は出ていない。しかし、此方を威嚇しているのを感じた俺は、もう1度ワームから離れ、暴風雪を味わわせる。


「どうだ? またやりたいか?」

「…ッ!」


 俺はワームの態度が軟化するまで、近づいては遠のき、近づいては遠のきを繰り返した。


 そして。


「俺につい来れば飲食させてやる。生かしてやる…だから、俺の言う事を聞け」


 DPに似合わず、力が弱く、知能がなく、プライドが高い奴だったが…。


「……………ギィ」


 生きる為なら言う事を聞かずにはいられないだろう。


 ワームは自分の立場を理解したのか、頭をたれる。



「アノムって怒らせたら1番怖いよな」

「でもー、私達の為に怒ってくれるから好きー」

「…うん」

「お前ら、昔からアノムの事好きだよな」



 少し後ろから何か聞こえるが、周りの暴風雪の所為か、小さく、よく聞こえない。


 しかし。


 それよりも俺は、初めてモンスターを手なづけた事による達成感と、仲間を助けた安心感で、胸がいっぱいだった。

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