第2話 主になりました*

 追放された翌日。


 魔王城のある一室では、魔王と四天王が集まっていた。そこでは食事が行われており、皆々が好きな料理を頬張っていた。


 その中でも魔王はランランと食事を進めていた。


「魔王様。今日はご機嫌が良さそうですが、どうかなさいましたか?」


 灰色の毛色をした獣人の四天王が、魔王へと話しかける。


「うむ、昨日無能な魔物を追放してな」

「追放、ですか?」


 獣人は珍しいとでも言いたげに、目を見開く。


「へぇ、大将が追放なんて何があったんですかい? いつもぶっ殺してるのに!」


 緑色の肌をした大男が酒を呷りながら言う。


「その者達が人間を助けるなんて馬鹿げた事をする奴らでな、どうせなら人間に殺されてしまった方が面白かろう?」

「へぇ……そりゃあ良い!」

「だろ?」


 魔王と緑色の肌をした大男は高笑いをする。


「魔王様〜…」


 今度は水が女体の身体をしている様な者が、魔王の肩に枝垂れかかる。


「私にもその話教えてよ〜」

「う、うむ、いいだろう」


 魔王は鼻の下を伸ばしながら、頬を赤らめる。


「アイツらは敵の前から逃げるなんて当たり前、雑用も出来ない、意思疎通は最弱の魔物なりに出来ていたが…我が直々に追放してやったのだ」

「へぇ〜…雑用も出来ない、最弱の魔物……相当使えなかったんですね〜」


 女は笑って答える。


 それを見ていた母性溢れる垂れ目の女性が、口を開く。


「その方達の名前は何と言うのですか?」

「む、お前も気になるのか」

「はい」

「確か…ウルフのアノムと言う奴が居たパーティーだ」

「アノム、ですか」

「アノム、なぁ」

「へぇ〜…アノム、ですか〜」

「なるほど…アノム、と言う者ですか」


 食事は終始全員笑顔で進んだのだった。




 *


【ダンジョン主に選ばれました】


 俺はそんな半透明の板をジッと見つめる。


 そんな板の周りをグルグルと回るが、いつまで経ってもそれは消える気配がない。


「ダンジョン、か…」


 ダンジョン。


 それはこの世界に数多に存在し、魔物が自然と湧き上がる場所の事を言う。


 赤ん坊で産まれて来た俺達とは違い、ダンジョンの魔物は基本成体で生まれ、知能を持たず、人間、ダンジョンに侵入して来る魔物等、種族関係なしに攻撃して来る。


 人間、魔物からも、忌み嫌われている場所の事だ。


 本来ならすぐ様、俺達も此処から出たい所だが…。


「ダンジョン主…」


 ダンジョン主と言うからには、危害を加えられる事はないだろうと予想がついた。実際俺達が一晩過ごしても何もなかったし。


 俺は恐る恐る半透明のボードに鼻を近づける。


 トンッ


 鼻は通り過ぎる事なく、そのボードに触れる。


 すると。


【主の接触を確認。情報を開示しますか?】


 それに俺は一度唾を飲み込み、答えた。


「はい」


 言った瞬間、俺の視界の空中に大きく半透明のボードが現れる。


 **********


 名  ダンジョン 

 位階 0

 主  アノム

 領域 洞窟内

 月日 3日


 モンスター数 0

 罠数     0

 施設数    0


 侵入者 3


 Dスキル 移動


 DP 33P


 **********


「ふむ…」


 これを見る限り分かるのは、このダンジョンの主は自分だと言う事。恐らく洞窟内だけがダンジョンだと言う事だろうか。


 位階、モンスター? 数やらは置いといてだ…。


「このDPってのは…?」


 俺が頭を悩ませると、またパッと空中に半透明のボードが現れる。


【DP…ダンジョンを発展する際に必要なポイント。例…建設物、食料、モンスター召喚等】


 おー…便利だ。少しモンスター召喚等意味は分からないが、まさか疑問に答えてくれるとは。なら、もっと…。


 俺は次々と疑問をボードに向かってぶつける。



【位階…ダンジョンのレベルを示す。高ければ高い程ダンジョンの完成度が高く、高位のモンスターが自然出没する様になる(0の場合モンスターは出現しない)。そのモンスターの種類は環境によって変化する】


【モンスター…人間、魔物とは違う生き物。基本知能を持たず、生き物ならなりふり構わず攻撃する。高位のモンスターでは知能を持っている可能性あり】


【月日…ダンジョンが生まれてからの日数】


【Dスキル…ダンジョンが持つ特有の能力。ダンジョンによってそれは変わり、ピンからキリまである】



 なるほど…これで分かったな。

 このダンジョンはまだまだ赤ん坊で、偶々俺がダンジョンの主に選ばれだって事…だよな?ダンジョン主になった理由がある筈だけど…今は置いておこう。


 横をチラリと見ると、丸くて青い物体が此方に近づいて来ている。


「うーん、お腹減ったー…」


 エンペルがポトポトと、眠そうな動きを見せる。


「エンペル、此処に何か見えるか?」

「うーん? アノムー? どうしたのー? もしかしてまだ寝ぼけてるー?」


 少しバカにした様にエンペルが弾む。


 この反応は見えてない、か。

 じゃあ取り敢えず…森に行って食料の確保に行くか。


「朝なら野良の魔物は寝る時間だ。2人も起こしてさっさと食料見つけに行くか」

「おー」


 俺とエンペルは、ガギルとルイエを起こすと森へと食料を探しに行くのだった。

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