魔王から不要と言われ、魔王城から追放された最弱魔物パーティーの俺。辺境でダンジョン主になったので、皆んなと悠々自適な毎日を過ごしてみる。

ゆうらしあ

第1章 追放、そして始まり

第1話 出て行きます

「アノム…と言ったか? はもうこの魔王城に必要ない」


 まだ日も明けない早朝の魔王城、謁見の間。そこには数多な凶悪で凶暴そうな魔物達と、玉座へと座している猛々しい者、そしてその目の前に1匹の獣が跪いていた。


 その言葉は、最弱の魔物の一角であるウルフの俺に言い渡された。


 言うなれば解雇、つまり追放だった。


「な、何

「何故等という、ふざけた問答など我はする気がないぞ」


 俺が聞き返そうとしたのを予測したかの様に、魔王様が答える。


 続けて指を折り曲げ話し始める。


「雑用はまともに出来ない、敵前逃亡はする、魔物として、いや、生きている者として何も出来ないと言うのは恥ずかしくないのか?」


 魔王様のこめかみがピクピクと動いているのが分かった。相当お怒りだ。


 俺の種族であるウルフは、手先が器用ではなく、主に戦闘の1番前に立たせられる事が多い種族の内の1つだ。そんな最弱種族の俺達の仕事は、俺達魔物よりも下等種族とされている人間に対し、奇襲を行う事だ。


 しかし、奇襲すると言ってもほぼ全てが失敗に終わる。

 何故ならば、どの町、村にも強者という者が存在し、最弱種族の俺達が奇襲しても簡単に対処されてしまうのだ。


 言わば無駄死にである。


 その所為で、自分の同胞、同僚、同い年パーティーが、強大な力でどれだけ倒されたのか分からない。

 そんな中、俺みたいな魔物の中でも最弱の魔物が飛びかかっても、葬られるのが目に見えている。増してや、俺達のパーティーはその中でも最弱の最弱。逃げたくもなる。


「で、でスが、敵前、逃亡なラ、他の奴、モやっテいル筈、でス…」


 俺は生意気にもそう言い放った。


 しかし。


「ふん、そんだけならムチ打ち500発で許してやったが…お前ら、人間の子を助けたらしいな?」


 その言葉に思わず心臓がドキリと跳ね上がり、口を閉じる。


「戦闘中にも関わらず人間の子を助け…その子を拷問する訳でもなく逃したそうではないか!!」


 そう。


 俺はこの前、戦闘中にも関わらず人の子を助けた。極力戦闘には参加しない様にしていた俺は、木の影で啜り泣く人の子に気づいた。

 それを俺達のパーティーは、その子を周りのパーティーにバレない様に助けたのだ。


「そレは…」

「何か申し開きはあるか?」


 魔王様の眉間に深く皺が寄る。


 世界は今、どこもかしこも魔物と人間との抗争、戦争が行われている。魔物と人間は一生相入れる事はないとも言われ、相手を助ける事なんて普通はない。

 魔物として非常識な事…魔王様からしたらそれは当然だ。


 だけど、人間が必ずしも悪い者という訳ではない…。


「…いエ、ありマせん」


 しかし、そんなことも言えず、俺はただただ顔を伏いた。

 そんな俺を見た、周りにいる魔王軍の面々は呆れた様に肩をすくめた。


「ふん…本来なら此処で殺すのだが、お前らが普通の人間に殺されるのもまた一興だろう、早く去れ」

「…はっ」


 魔王様に言われ、俺は頭を下げて扉から出た。そして、トボトボとが寝ているであろう自分の部屋へと向かった。




「お前らー、起きろー」


 俺は先程とは違う流暢な言葉を使いながら、扉を開ける。

 部屋には2段ベットが2つ両端に置いてあり、それ以外は何も無いただの寝るだけの部屋。

 その4つのベットの内、3つが膨らんでいる。


 何も返事がない…いつまで寝てるんだ。


 俺はカーテンを開け、布団を捲る。


「うっ…アノム…か? どうした…?」

「アノムー…さむいよぉー…」

「zzz…」


 緑色の肌をした、何処か真面目そうに見える、ゴブリンの"ガギル"が目をこすりながら起き上がる。

 その後、青いツヤツヤとした姿をしている、スライムの"エンペル"が布団の上でプルプルと震える。

 真っ白の毛皮をフサフサモフモフしている、魔物の中でも最弱のラビットの"ルイエ"に至っては未だに眠っている。


 これだから俺達は追放されるんだよな…。そんな事を思いながら心の中でため息を吐くと、口早に捲し立てた。


「どうしたじゃない。とりあえず2人は荷物纏めろ」

「「え」」

「早く」


 俺は有無を言わさず、2人に荷物を纏めさせる様に言うと、自分の荷物を袋に入れ、寝ぼすけルイエの荷物を代わりに纏める。


 そして3人を連れて、魔王城の城門をくぐった。


「アノム、本当にどうしたんだ?」

「そうだよー、私達何しに外に行くのー?」

「眠いわ…」


 3者それぞれの様子を見せる。


「簡単に言えば俺達は追放された。魔王城から出ないといけない」

「「「え!?」」」


 ガギル、エンペル、そしてルイエまでもが驚きに目を見開く。


「何で…! いや…それもそうか…」

「マ、ママ達に相談すればどうにかなるかも!?」


 ガギルは納得した様子で、諦めた表情をしている。

 流石はガギルだ。頭が良く理解も早い。俺達が何で追放されたのか検討がついているのだろう。


 エンペルは動揺しているのか、左右に震えている。


「エンペル、多分父さん達に言っても無駄だ。これは魔王様直々の命令だから、父さん達でもどうにもならない」


 そう言うとエンペルは、「そ、そんなぁー…」とナヨナヨと水溜りの様になる。

 気持ちは分からなくもない…だが、もうこれは決定事項。



 俺達パーティーのと、魔王城とでは必ず決裂してしまうのだ。



「決まった事は仕方ないわ。とりあえず早く寝床探しましょう」


 ルイエがなんとも男らしい事に、率先して先頭を歩いて行く。

 寝床がなくなった途端これか…でもルイエが動いた事で…。


「おぉう…ルイエが先頭に…」

「ルイエが動くのかぁ…なら私も行くよぉー」


 ガギルがどこか物珍しそうについて行き、エンペルがルイエに負けじとついて行く。

 こうして俺達は午前中の内に、嫌々魔王城から出て行ったのだった。






 12時間後。

 俺達は緑が生い茂る、何処かじっとりと汗を掻く森の奥まで来ていた。


「何でこんな歩くのー…そこらへんで寝れば良くなーい?」


 歩いている途中、最後尾でエンペルが弱音を吐く。


「さっきガギルが言っただろ、野宿して魔物や人間達に出会ったら負ける俺達は、それまで寝るのは極力短く、魔物、人間からも遠い場所に行かないといけないって」

「そうだけどぉー…」

「はぁ…分かったよ…エンペル、俺の背中に乗れよ」

「え! いいのぉ!? アノムぅ!?」

「って…もう乗ってんじゃねぇか」


 まぁ、もう既にルイエも数時間前に力尽き、寝息を立てて乗っているのだが…。


「ガギル、どうだ今日の寝床は決まりそうか?」


 俺は、いち早く先頭を行っているガギルに問い掛ける。


「いや…まだだ」

「そうかー…」


 流石に2人を乗せるのはキツいからな、それに寝床が決まった後も火の確保とかあるしな。なるべく早く見つけたい。


「ん?」


 ガギルが声を上げる。


「どうした?」


 ガギルが一点を指を差す。


 そこを見ると…。


「…洞窟か?」

「あぁ、危険性がなければあそこにしよう」

「寝床!」

「休憩だー!」


 2人は洞窟に向かって走り出して行った。


 あ……そんな力どこから…と言うか、お前らは散々寝てたし、休んでたろ! てか、話聞けよ!?

 と叫びたくなったが、その言葉を飲み込み2人の後を追う。


「先行くぞ!」


 ガギルの横を通り過ぎる時、俺はそう言うと森を駆け抜けて行った。


「おい! 2人共大丈夫か!?」


 俺は洞窟に入った瞬間叫んだ。

 洞窟に入って、すぐ視界に入ったのは洞窟の中では2人が倒れている姿だった。


「エンペル! ルイエ!」


 俺は2人に駆け寄り、何かあったのではと揺さぶって起こそうとする。


 すると。


「「すぅ…すぅ…」」


 ……タターンッ!


「「イタッ!?」」


 洞窟内は安全で快適だったらしい。

 俺は2人に肉球クラッシュを食らわせ、目を覚まさせると、目の前に座らせる(?)。


「何で先に行った?」


 俺が聞くと…2人はモジモジしながら答えた。


「早く休憩したくて…」

「寝床…」

「どっちもしてたろ…」


 思ってた通りの理由か。これだからコイツらは…。


 頭を左右に振り、感情をあらわにする。


「してないわ。アノムの背中はゴワゴワ、グラグラで寝床に適さないから」


 そこでルイエからの口撃が胸を抉る。

 そんなグラグラは兎も角、ゴワゴワとか言わなくても良いだろ…。

 俺は少し傷つきながらも2人に説教をする。


「と、とにかく! ガギルと話したよな? ちゃんと安全を確認してからだって?」

「あ、あれー…?」

「…話してないわ」


 エンペルとルイエ、どちらもスッとボケる気だ。


 タタタターンッ!




「ふぅ、やっと追いついた。ん? 何だその2人の跡は?」


 2人の顔中には沢山の跡が付いていたのを見たガギルは不思議そうに首を傾ける。


「色々あってな…それよりもガギル、どうやら此処の洞窟何もなさそうだ。何かが住んでいる形跡も見当たらない」


 改めて周りを見ると、洞窟の中は苔も何も無く不自然と言えるほど普通な洞窟だった。


 ガギルはしゃがみ込むと地面に手を着く。


「…地面が温かい?」

「え?」

「そうなんだよー、此処の地面あったかーい!」

「此処を一生寝床にするべきだと私は思うわ」


 2人もそれに気がついていた様だ。俺は焦って洞窟に入ったから気が付かなかったな…。


「この下に何かあるのか?」


 ガギルが地面を見つめながらブツブツと呟き始める。


 こうなったら長いな…。


「よし、じゃあガギルはほっとくとして…火を起こす…いや、洞窟内じゃ危ないよな」

「大丈夫だよー、火を起こさなくてもこの地面で温かいからー」


 エンペルが地面をコロコロと転がりながら答える。


 俺とルイエは自分の毛で寒くないが、ガギルとエンペルは別だ。素肌と粘体、温度を調節しないといけない。


 だけどエンペルが言うなら大丈夫か?

 チラッとガギルを見ると、地面にキスをするかの様に近づけている。


 …うん、大丈夫か。


「よーし、取り敢えず今日の飯はナシで、早く寝るぞ。夜に出ても碌な事ないからな」

「りょーかーい」

「zzz…」

「む…ペッペッ…地面の砂はパサパサだ…」


 そうして俺達は眠りについたのだった。




 そして翌日。


「これは…」


 皆んながまだ寝静まっている早朝、俺は空中にある物を見つめていた。


【ダンジョン主に選ばれました】


 そこには半透明のボードが存在していた。

 俺は何故か、ダンジョンの主に選ばれました。

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