第20話 初級ダンジョン



 気がつくと、先ほどのチュートリアルダンジョンとは別の場所にいた。

 壁や床などは見たことのない綺麗な模様の石?で整えられていて、天井には灯を灯す丸い発光体が点々と並べられている。

 なんというか遺跡っぽい場所だ。遺跡なんて行ったことないからあくまでなんとなくだけど。

 後ろはチュートリアル用ダンジョン同様行き止まりで、前には一本道が続いている。

 つまりは……


「ようやく来たか。初級ダンジョン」


 そう呟いた瞬間、チュピーの声がまた聞こえて来るかもしれないと身構えた。がしかし、今度こそそんなことはなく、ここが正真正銘の初級ダンジョンであることを確信できた。

 

 俺は冷静にスマホを手に取り、オートマッピングを起動する。

 するとアプリの画面にダンジョン内マップが出現。次の瞬間には文字通り自動で俺を中心にスキャンが行われ、あっという間に初級ダンジョンの全貌を暴いてしまった。


 一本道がそのまま二キロほど続いていて、奥には宝箱が配置されている。

 その間の道に罠は設置されていないが、二百メートル間隔で魔物が一体ずつ配置されている。

 ほとんどチュートリアル用ダンジョンと難易度は変わらないようだ。

 強いて言うなら道が長いだけ魔物も多くなっているくらい。

 魔物の種類は残念ながらオートマッピングではわからないようだが、それでも十分すぎる探知能力を兼ね備えていると思う。


 罠もなく、魔物がいるだけだとわかったところで、早速武器を構えつつダンジョンの一本道を進んでいく。


 初めての魔物が見えたのは百五十メートルくらい進んだところ。

 遠目から見えたのは、チュートリアルでも戦ったゴブリン。

 俺は冷静を保ちつつ近づいていくと、ゴブリンが残り二十メートルくらいのところでこちらに気づき、棍棒を振りかぶって突撃して来る。


 今度は次元斬を使わず戦う。


 まずは韋駄天を使い、一瞬でゴブリンの後ろに先回りする。

 目の前から突然俺が消えたことで混乱している様子のゴブリンに容赦せることなくアイアンソードで攻撃を繰り出す。

 首を狙っての横薙ぎの斬撃は見事にゴブリンの首と胴をお別れされ、呆気なく戦闘は終了した。


「やっぱり、初級魔物なら余裕っぽいな」


 そう呟いてしまうくらいには、簡単な戦闘だった。

 身体強化と韋駄天で移動速度や攻撃力が異常に強化されているので、むしろ当たり前ともいる。

 これで初級魔物にすら通用しなかったら、ダンジョン探索なんてやる気にもならないだろうから、初級が楽勝という事実に文句はない。


 ゴブリンからの戦利品は、チュートリアル同様に棍棒とガチャポイント五。しょぼ過ぎて涙が出そうだが、これほどの弱さなのだから仕方ないと割り切る。

 使えない棍棒を落とすゴブリンよりは、回復アイテムを落とすスライムの方がありがたいので、スライム出てこいと思いながら一本道を進む。


 そうして所要時間十分程度で初級ダンジョンを踏破してしまった。


 魔物の配置はゴブリン六体、スライム四体という結果。戦闘では結局苦戦するということは一切なく、韋駄天すら使わずとも楽勝できてしまう程初級魔物は弱かった。


 最奥にあった宝箱からは、初級ポーションが出てきた。少々残念な結果だが、魔物が弱かったので宝箱の内容もそれ相応ということだろう。

 チュートリアルの宝箱はきっとボーナス的なものだったということだ。



 初めてのちゃんとしたダンジョンである初級ダンジョンを攻略し終えた感想としては、しょぼいに尽きる。

 魔物はチュートリアルと変わらず、道は一本道で危険も特になし。

 宝箱からはチュートリアルとは比べ物にならないほどしょぼいアイテムしかでない。


 なんというか、期待はずれ感が強い。


 別に俺はバトルジャンキーではないので、強い敵を期待していたわけではない。

 罠だってないに越したことはないし、宝箱からアイテムが出てきてくれるだけで儲け物でもある。


 ただ、事前に準備を整え過ぎたため、想像よりもはるかに楽なダンジョン探索となってしまったのが、少々拍子抜けしてしまったという感じだ。


 魔物を倒して得られるガチャポイントもドロップするアイテムも微妙。


 これなら家でスマホをタップしてポイントを集める方が効率はいいし遥かに有意義である。


(それでもまあ、魔物との戦闘はストレス発散にはなるし、たまに来る分にはいいかな?)


 と曖昧な結論がでたところでダンジョンから帰還した。


 時刻は午後七時過ぎ。

 結局一時間ほど現実から離れていたことになる。

 そのほとんどがチュートリアルダンジョンというのもまた微妙な気持ちになってしまうが、それは期待し過ぎていた自分が悪いので仕方ない。


 現実の身体は休眠状態であったためもちろん肉体的な疲労はない。

 それに加えて非現実的な世界を冒険してきた後だが、少々拍子抜けする結果だったためか精神的な疲労もゼロだ。


「スマホ、タップするか」


 特にやることがなかったので、テレビを見ながらガチャポイントを貯める。

 こうして俺はダンジョンで魔物と戦うより遥かに効率的にガチャポイントを貯めまくり、3回分のポイントを貯めたところで、眠りにつくのだった。

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タップしてガチャを回すだけ 葉素喜 @goto51022

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