第13話 報酬のスマホ


【スキル:C.裁縫 Ⅰを獲得しました】

【スキル:C.速読 Ⅰを獲得しました】

【アイテム:C.ミネラルウォータ×200】

【アイテムC.梨田みかん×1000】


 本日のガチャ結果は、全てコモン。それに加えてスキルは名前だけ見ても俺にはあまり縁がないもの。アイテムはどこででも比較的安価で手に入るガチャの排出物としてはハズレといわざるを得ないものだった。

 当分水やみかんに困らなくなったから文句ばかりではないが、一個くらいはアンコモンが出て欲しかったというのが本音である。


 アイテムは名前通りだろうから、とりあえずスキルの確認だけして今日は寝ることにする。決してふて寝ではない。



【裁縫 Ⅰ:裁縫に関する知識、技術を自動取得】

【速読Ⅰ:本を読み理解するスピードが上がる】


 スキル効果は名前を見て予想できる範囲内のものだった。小説はあまり読まないし、裁縫も学生の時に授業でした以外で経験はないので、あまり俺には向かないスキルであったが、一応効果をオンにしてから寝ることした。


 明日はいいものが出るといいな。



⭐︎


 目が覚めると、懐かしい天井が視界に映った。


「そういや実家に帰ってきてたんだっけ」


 ガチャ結果が所謂爆死だったので、すっかりその前後の記憶を忘れていた。


 寝つきは良かったのか、昨日運動をしたりして身体を酷使したというのに疲れは一切残っていない。

 ニート生活二日目も早起きしてしまったが、二度寝する気分でもないので身支度を済ませて日課にするつもりの朝のランニングと筋トレに向かう。

 ちなみにまだ時間は午前六時で、それに加えて今日は日曜ということもあり全員が休日なので誰も起きていなかった。


 柔軟とストレッチと軽いランニングで運動の準備をして、身体強化を発動した状態でランニング一時間、筋トレ三十分をして帰宅する。

 ゴリマッチョは目指していないので、ジムに通ったりすることは今のところ考えていない。

 毎朝のランニングや筋トレを行えばそれなりに鍛えられるだろうし、そもそも俺が望んでいるのは引き締まった細マッチョ体型。過度なトレーニングは必要ないのだ。


 家に帰ってくると大体時刻は八時過ぎ。

 母さんは既に起きていて、朝食を作っていた。

 父は既に食べ終わったのか、リビングでテレビを見ている。姉や妹の姿がないのでまだ寝ているっぽい。


 俺は両親に朝の挨拶を済ませて、母に礼を言いつつ久しぶりの実家の朝ごはんを食べる。

 ほとんど二年ぶりの実家の母の手料理だ。

 白米、味噌汁、魚の塩焼き、卵焼きといった日本の朝食の見本のようなメニューで、味付けもバッチリ。

 美人で家庭的とは、我が母ながら完璧な主婦だなと改めて思った。


 朝食を食べ終えたところで、今日初となるタップガチャアプリを起動し、早速タップしまくろうとして、気づいた。


(アチーブメントの部分が点滅してる?)


 何か特別なことがあったか記憶を遡ってみるが、特に思いつかない。

 昨日のガチャ結果は全部最低レア度のコモンだった。それ以降アプリは起動していない為、このアチーブメントの解放は昨日のガチャ結果によるものだと予想がつく。が、どんなものかはまったくもって未知数である。


(とりあえず確認してみるか)


 前回は五個中二個がレアガチャチケットだったので、あわよくばそうであることを願ってアチーブメントの部分をタップした。


《累計タップガチャ回数十回突破》


 確認してみると、なんというか、はっきり言って報酬が微妙そうなアチーブメントだった。

 そもそも昨日のガチャの前からガチャ回数は十回を超えていたはずだが、なぜ今になって解放されたのだろうか。


(ちょっと待てよ)


 改めて数えてみれば、昨日のを合わせて合計ガチャ回数は、十六回。そのうちの二回はレアガチャチケットで、三回は通常ガチャチケットだった。

 チケットの回数を引けば、昨日の最後のガチャで回数は十回を超えることになる。

 そうなると、回数的にもタイミング的にも間違っていない。

 チケット消費によるガチャでは累計回数にカウントされない理由がわからないが、今はそれがわかっただけでよしとする。


 結論が出たところで早速累計十回突破の報酬を確認してみる。


『アプリ専用スマホ』


「なんだそれ?」

「ん? 何か言ったか?」

「あっいや、なんでもないから気にしないで」


 訳がわからず思わず独り言が漏れてしまい、父に不振がられたが、なんとか誤魔化して急いで自室に戻り再度確認する。


 スマホの画面には変わらぬ文字が出ていた。

 つまりはその名の通り、アプリを使うだけのためのスマホが手に入ったということだろう。

 そんなもの別にいらないと思いつつ、ストレージ画面に移行してアイテムの効果を確認する。


【アプリ専用スマホ:タップガチャアプリのみがインストールされているスマートフォン。タップガチャアプリを使用する以外に使うことはできないが、絶対故障することなく、破壊不可能であり、充電も不必要である】



 その説明を見た時、初めてスマホが壊れたらアプリができなくなるかもしれないという可能性に気がついた。

 こんな現実に喧嘩を売っているようなファンタジー全開のアプリが、果たしてバックアップ可能なのか。

 普通なら大事を取ってアプリを使い始めてすぐ確認しなければいけないことだった。

 最悪データが復元できなければ、二度とタップガチャができなくなる可能性もあった。


 それに気がついた時、冷や汗が溢れ出た。


「危なかった……」


 ファンタジーみたいなスキルを手に入れて、億万長者になれる未来が確定して、浮かれすぎていた。


 幸いにも早めの報酬で絶対に壊れないスマホが手に入ったから、今後この報酬で得たスマホを無くさない限り、タップガチャアプリが使えなくなる事態に陥る可能性はなくなった。


 この時点でバックアップは必要なくなったが、なるべくこういった重要事項は忘れないように気をつけよう。



 そう決意を新たにしたところで、絶対に壊れないアプリ専用スマホをストレージから出す。


 すると、突然スマホ画面が真っ黒になり、もう一つ手元に出現したスマホと一緒になって、初めてアプリを起動した時のような眩しい光を放った。


 数秒して光が収まり、目が回復したところで、元々手に持っていたスマホをみれば、その画面からタップガチャアプリが跡形もなく消えさっていた。

 慌てて画面をスワイプして他の場所も確認するが、どこにもない。


 そこで俺は新たに手元に現れたもう一つのスマホの存在を思い出す。

 機種は見たことがないもので、大きさは元々持っているスマホより気持ち小さいくらいの大きさ。

 自分の手の大きさにマッチしているというか、妙に手にしっかりとくるスマホだと感じた。


 ごくりと思わず生唾を飲み込みながら、スマホを起動する。


 すると、その画面は既に見慣れたタップガチャアプリのタップしてポイントを貯めるホーム画面であった。


「はー……よかったー」


 ため息を出しつつ心の底から出る安堵の声。

 決意を新たにして早々使えなくなったかもと焦った。


(とりあえずスマホをタップしてポイントを集めつつ落ち着こう)


 慣れ親しんだ行動で心を落ち着けつつ、このスマホについて改めて考える。


 タップガチャアプリ専用とはいえ、絶対に壊れなくて充電も不必要とはとんでもない性能だ。

 流石、現実に全力で喧嘩を売っていくスタイルのファンタジーアプリ専用なだけある。


 これからも沢山お世話になるつもりなので、壊れないと知っているがこれまでより一層優しいタップを心がけ、今日もポイント集めに興じるのであった。

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