第12話 家族で焼き肉


 時間が差し迫ってきたところで、実家から焼肉屋へと出発する。

 俺や姉は四人乗りの軽自動車持ちなのだが、今回は定員オーバーしているため、父の乗用車で向かうことになった。

 少し遠いので俺が運転をしようと思ったのだが、飯代出すんだからゆっくり乗ってろと父に説き伏せられ、後部座席に姉と妹と一緒に乗り込んだ。

 五人乗りの乗用とはいえ、三人で乗れば結構狭いので二人の身体が接触する。

 女の子特有の体の柔らかさにドギマギ……は当然しない。

 血のつながりこそなくても、これまで家族として過ごしてきたのだから、多少久しぶりだろうと姉は姉、妹は妹であり、その柔らかさに欲情することはありえないのだ。


 それに俺がイケメンになった今も、イケメンではなかった昔も、二人の距離感は変わっていない。

 つまりはそういうことだ。

 二人はそもそも俺のことを顔で見ていなかった。

 弟として、兄として、家族としてちゃんと見ていてくれたのだ。


 顔がイケメンであると過去改変されていなかったろうと、金がない俺だろうと、二人は久しぶりに会えば今と同じように振る舞ってくれただろう。

 そういう意味では、やはり家族というのは普通の関係とは違うものなのだなと改めて感じた。



 ただ、だからといって金や顔に群がる女がダメということでもない。

 俺だって付き合うなら美女であればあるほど嬉しいし、身体つきだってナイスバディーの方が好みだ。

 そんな俺が金や顔に群がる人間を否定しても理にかなっていない。

 そもそも顔が良くなり、金も手に入れた俺がそんなことを改めて考えるのも今更だな。


 どういうことになるにしろ、付き合うならまず第一印象である見た目は評価範囲に含まれるし、長く付き合っていけば金があることだってバレるだろう。

 そこでわざわざやっぱイケメン嫌いだから別れる! お金の持ちの人は嫌いだから別れる!

なんてことにはならないし、なるようならそもそも顔が良くなく金もない状態でも、なんだかんだで別れる結果に落ち着く。


 それなら好きに生きる。


 俺の内面が好きだという女も、俺の顔が好きだという女も、俺の金銭面が魅力だという女も、全部おんなじ女なのだから、選り好みせずに選り好みして付き合っていけばいい。


 なんて考えているが、今のところ誰かと付き合う予定どころか遊ぶ予定すらなく、そもそも女の子の連絡先すら知らないから考えるだけ無駄なのだが、そこはご愛嬌ってやつだ。


 そんな無駄なことを考えてるうちに、景色は流れ過ぎ去っていき、三十分かけて予約したお店に到着した。


 やってきたのは肉の割烹を謳う肉のキムラ。 

 地元付近に多数存在する焼肉屋の中でもトップクラスに高級なお店だ。

 当然そうなってくるとお値段もそれ相応のレベルになってくる。がしかし、今の俺の財布の中には六十万ちょとの金が入っているので、お支払いが数万円でも余裕だ。

 今日はしっかりとした食事を取っていないのでお腹ぺこぺこの状態で大食いしようと思っている。

 ちなみに食事量は、父と母は少食で、息子である俺と娘二人が大食いといった感じ。大食いとはいってもフードファイター並みに食べられるわけでもないので、そこまで金額はいかないと見ている。


 早速店内に入ると、予約していたことを告げて個室に案内してもらう。

 六人でも余裕を持って座れる広さなので、五人だとかなり余裕がある。

 席順は、親子で別れたので、こちら側に三人

いるが、それでも後部座席とは雲泥の差だ。

「好きなもの頼んでいいからね、値段は気にせず」

「えー! 本当! 陽兄大好き!」


 俺が気を遣わせないらように言うと、欲望に忠実な妹は調子のいいことを言って早速メニューを目を輝かせて見出した。


「本当に大丈夫なのよね?」

「大丈夫だって、どんどん好きなもの頼んでよ」


 いまだ心配する母を説き伏せつつ、みんなに向かって声をかける。


「遠慮しないからね?」


 姉が不敵な笑みを浮かべると、早速ウェイターを呼んで注文をする。


 道産和牛特選カルビ二人前。

 道産和牛サガリ二人前。

 特上牛タントロ二人前。

 豚丸ホルモン二人前。

 十勝和牛ユッケ四人前。

 キムチ盛り合わせ。

 シーザーサラダ。

 ライス人数分。


 姉と妹が中心になってメニューから選んでいったが、最初の注文だけでかなりの注文数になった。

 本当に食べ切れるんだろうなと疑いの目線をむければ、当然という表情で返される。そんな俺達を微笑ましい視線で見つめてくる母と父。他人事っぽく見ているが、自分達も結構な量食べないとギリギリ残るレベルの注文量だってわかっているのだろうか。


 ただ、そんな心配は杞憂に終わり、気づけばあっという間に焼き肉を平らげていた。

 さすがは高級焼肉屋。高いだけあってめちゃくちゃ肉自体が美味い。

 特上牛タントロに至っては、ガチャで出たアンコモンの牛タンのさらに上をいく美味さである。

 その他の肉やサイドメニューも安い焼肉屋やファミレスでは到底比べ物にならない味を出していて、気づけばギリギリ食い切れるかと思っていた量を食べきって、デザートを注文していた。腹は結構キツかったが、やはり高級な店というだけあり、デザートもそれ相応の美味さでぺろっと完食。


 流石にそこからの追加注文こそなかったが、それでもお会計は二万五千円近くした。

 肉の割烹と呼ばれるだけあり、味はその値段でも納得できるだけのレベルであったため、これまででは考えられない金額だとしても気にしない。

 これが東京とかならさらに倍近いくらい値段を取られると聞く。田舎に生まれてよかった。


「ご馳走様、初めてきたが美味い店だったな」

「親父も満足したようで何よりだよ」


 唯一血のつながりのある父との久しぶりの会話も思いの外悪いものでもなかったし、これからはもう少し実家に帰ることにする。

 姉妹二人に勝手に抱いていた感情もなくなったし、母さんも久しぶりに会えて嬉しそうにしていたし、

何より家に父が男一人という今の状況ら肩身が狭いだろうからな。


 帰りは俺が運転して、実家に帰り、泊まる気はなかったのだが、結局泊まることにした。

 二年で片手で数えられるよりも少ない帰省回数であるのに、いまだ実家には俺の部屋が残っているので、今日はそこで寝る。


 風呂は妹と姉が長風呂で遅くなるのが嫌だったため先に入って、文句を言われるのも面倒臭いのでシャワーだけでさっと済ませた。


 それからリビングで家族とテレビを見ながらスマホをタップしまくりつつ、夜十一時になるまで一家団欒を楽しんだ。



 久しぶりの自室のベッドで寝転んで、まだ今日のガチャを引いていなかったことに気づく。


 ポイントは競馬のレースの合間や家でテレビを見ながらのながら作業でもなんだかんだで、四回分溜まっていた。


 まだ貯めておいて一気に引くと言うのも面白いが、毎日ガチャを引こうと決めていたので、今日集めた分は今日消費する。

 あるかはわからないが、連続系のガチャが現れるまではその日集めたポイントはその日のうちに消費していくことに決めておく。その方が無駄に葛藤することもない。


 さて、今日のガチャは何が出る?



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