第31話 決断


「いてて……ティラ。大丈夫か?」


 俺は隣に寝そべっているティラに声をかけた。


「は、はいぃ〜……。なんとか……というか、あれだけ高い場所から落ちてきたのにどこも怪我をしていません。……まさか、ロンベルトさんがスキルで守ってくださったんですか!?」 

 

 ティラは、目をキラキラさせながら俺の体の上に馬のりになった。

 多分、ティラは今好奇心のほうが強くなっていて高所から落ちてきた人の上に乗るなんて無意識でしていることだと思う。いや、そう思いたい。


「まぁ、そうだな……。それより、怪我がないんならよかったよ」


 そう言って、上に乗っているティラのことを横にどかして立ち上がる。

 ちょっと素っ気ない態度を取ってしまった。


「私が何も考えずに、イカズチなんて使わなければこんなことになっていなかった……」


 ティラは目を伏せながら言った。どうやらようやく、自分のしでかした事を理解しているようだ。 

 俺はこの言葉になにも言えない。だって、本当にティラがイカズチを使わなければこんなことになっていないんだから。だけど、俺はイカズチで助けられたのは事実。


 見捨てることなんてできない。

 そう決心して、地面に落ち込んで座っているティラの目線にあうように前かがみになる。

 涙ぐんでいる目が目の前に来た。


「ティラ。今、君には2つの選択肢がある」


「2つですか?」


 ティラは不思議そうに聞いてきた。

 まぁ、それもそうだろう。普通こんな地下に落ちてきたのならすることは1つに限られてるのだから。


「あぁ。一つは俺のスキル使って、みんなのいる上の場所に戻ること」


「それは、ロンベルトさんも一緒ですよね?」


「……いや。もう俺にはそこまで、体力が残っていない」


「じゃあ、一体どうやって……」


 ティラは心配そうに俺のことを見てきた。

 まぁ、自分がこんな場所に落としてしまったのに自分だけ助かるのは心苦しいと思う。そのための2つ目。いや、この選択肢はそんなことのためのものではない。これは、俺の屈辱を晴らすためだけのものだ。


「2つ目は、死を覚悟をして俺と一緒にここに一緒に落ちてきただろうスライムを倒しに行く」


「倒すんですか!? 一度、歯も立たなかったのに?」


 ティラは前かがみになっていて聞いてきた。衝撃的だったのか勢いよくおでこがぶつかってしまった。痛い。俺とティラは、若干気まずくなった。だけど、そんな空気を振り払って口を開いた。


「あぁ、倒す。あいつがいる限り、この迷宮は終わることがないからな」


「そうですけど……」


 ティラは俺の言葉を聞いて考え込んだ。

 この選択肢は、ティラにはなんのメリットもない。


 俺はこの優しい子は、目の前で人のことをみすみす見捨てることなんてできないことをよく知っている。別にそれを利用しようとは思っていない。だが、そう思っていることはティラにバレているだろう。なので彼女はそれを踏まえて考えていると思う。


「で、どうするんだ? 上に戻って仲間の場所に帰るのか、歯を覚悟して一緒にスライムを倒しに行くのか決めてくれ」


「……倒しましょう。あの、薄汚いヌメヌメを!」


「よし。決まりだな」


 決意はティラ自身でしているのだが、ここまで話の流れを誘導してしまったのでなんか申し訳ない気持ちだ。



  



 

 

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