最終話 姫とギャルとハッピーエンド
「キャッ」
「うわっ!」
全てが終わったかと思うと、いつの間にか風菜と共にピンク色に覆われた私の自室にいた。
テレビから飛び出してここへ帰ってきたようで、あの冒険は夢ではなく現実だったのだと理解できる。
終わったんだ。本当に。
その実感は確かなものになっていき、とても安心した気持ちが生れてくる。
私は生き残ったんだ。理不尽な冒険の中で。
何か涙が出ちゃいそう。
――しかし、ひとつだけ問題があった。
それは……。
「あっ」
「うへぇ!?」
今、風菜が私を押し倒しているような姿勢であること。
そりゃお互いにテレビから飛び出でてきたんだから、この状態に陥るのなんて必然よ? でも、ついさっきプロポーズした相手に押し倒されるなんて、流石に恥ずかさと嬉しさが心の中で入れ混じってすっごく照れちゃう。
風菜も頬が赤く染まってるし、多分お互いに同じ気持ちなんだろうなぁ。
「……」
「……えっ、えっと」
何を言いたいのか纏まらない2人。
分かっているんだ、今この
「「あっ、あの」」
重なる2つの声。
考えている事はきっと同じ。
「「キ、キスしよっか!」」
背後霊でもなく、ゲームの世界に取り込まれている訳でもない私達は、今なら正真正銘現実の人間として触れ合うことができる。
「「……」」
無言のまま、お互いの唇が重なる。
ほのかに暖かい肌と肌が、これは現実の世界なのだと私に証明してくれる。
ずっとこのままでいたいなぁ。
大好きよ、風菜。
***
“リビングデッド・コンティネント”の世界での冒険を終えてから大体2週間が経った。
あの後“PM4”は
そして私の日常は、あの日に起きた様々な出来事を境に大きな変化を遂げた。
「姫、ついに僕も“マジパラ”の筐体を遊びました、フレチケを交換しましょう!」
「姫、俺もお願いします!」
「姫、オレも!」
いや、ここまでは普通。そんなに変わってないわ。
別に“ゲーム神”なんて上位の存在から彼らの心情を伝えてもらったところで関係性はそのまま持続すればいいだけだもの。
そんな中で変わったことがあるとすれば……、
「姫チー、今度のデートはどこ行くの?」
「前は風菜ちゃんが姫のお家に来たからぁ、今回は風菜ちゃんのお家に行きたいなぁ♡」
私に風川風菜という彼女ができて、アニメ研究会に顔を出すようになった。
プライベートの時間を調整しやすいようにと厳密には入部していないものの、オタクくん達だってみんなあの日をきっかけに面識ができたのもあって彼女の存在は自然と肯定されている。
相変わらずイメージプレイを強要してくる変なところもあるけど、風菜は命の恩人だし、私自身が楽しめてるから文句はない。
「風川さんのオススメするアニメ本当に良かったです!」
「妙にセンスがあるんだよなぁ」
「こんなギャルが実在するなんて夢にも思わなかったぜ」
というか、オタクくん達にはさも当然な如くアニメ研究会の部員であるかのように扱われている。
もちろん、一緒にゲームをする時も頭数が増えてる分もっと楽しかったりいいことづくめだけどね。
***
またある日の夜。
今、私は不思議な夢を見ている。
そこは宇宙のように真っ暗な中、なにかの模様のようなモノが浮かんでいる異空間で、なぜかこれは夢では無いのだろうという現実感があった。
辺りを見渡していると、限りなく透明な人の形をした何かが現れた。
見ている限り教会のステンドグラスに描かれている世界にいるヒラヒラで白くて薄い布を被った服装の女性で、髪はさらさらした金髪のロングストレート、顔は穏やかさとどこかかっこいい目つきを両立させていて綺麗だ。そんなお姉さんとも言える風貌の女性を前にすれば、『顔がいい』とはこういうことかと思い知らされる。
お姉さんの透明度は次第に低くなっていき、あっという間に実体となる。
「お久しぶりです。“ゲーム神”のリーオです」
なんと、彼女はリーオだった。
そういえば“リビコン”の世界では〈巫女〉に憑依してたから実際の顔は分からなかったのよね。まさかここまで美しい人だったとは驚きを隠せないわ。
「アレ、姫チーもいるじゃん!」
しかもいつの間にか私の隣に風菜がいた。
これはアレよね、“ゲーム神”パワーで夢の中に現れて他の人間まで巻き込むことなど造作もないとかそういうやつ。流石は上位者。
「……それはこっちのセリフ」
なんであれ、まずはリーオの話を聞こう。
今は夢の中のはずが妙に眠たく、風菜とイチャイチャする気にもなれない。
「お久しぶりです、御二方に伝えておきたいことがあり、このような形で顔を合わせさせて頂きました」
いや、本当に眠たくてイライラする。なので、雑な対応しか出来ない。
「ホント、マジ眠いから要件をさっさと伝えなさい」
具体的には風菜の前だろうと姫モードで喋れないぐらい頭が回らない。
そんな私達に対して、リーオはこう告げてきた。目が覚めるほどに嬉しい話を。
「そうですね、単刀直入に言います。貴女達がゲームクリア時に保持していたゲーム内の所持金218,193Gを22万円に変換し、それぞれ半分を御二方のPMストアのポイントとして付与させていただきます」
なんと、シンプルにお金をくれると申してきた。
「いいの、そんな大金!?」
「2人で割ったら11万円だからだいたいお小遣い2ヶ月分+αかぁ」
「待って、姫チーお小遣いもらいすぎじゃね?」
「その分誕生日とクリスマス以外何も買ってくれないし外食の時は基本実費だから、単なる放任主義よ。沢山愛は貰ってるけどね」
「……えっと、話を続けます。ゲームのダウンロード版の総合販売サイトになら辛うじて現実世界の金銭に干渉できるのでこうさせてもらいました。ゲームソフトやDLC等を買う以外に使えないお金ですが、これで沢山遊んでくださいね」
「「はーい」」
予期せぬ報酬には驚いたけど、ある意味これは私達と“ゲーム神”の関係に対する手切れ金なのかもしれない。昔ゲームの中のお金を現実に持って行けたらなぁと思ったことがあったけど、本当に実現するなんて面白い人生ね。
「そうだ、リーオっち」
「なんですか?」
リーオからの通知が終わったところで、風菜が質問をした。
話の内容は……それこそ彼女にとって重要な話。
「アイツって結局どうなったの?」
アイツ――と言うのはやっぱりチャラ男のことだと思う。
私よりも嫌な思いをさせられた風菜だからこそ、あの後の末路と言える展開があるのなら知りたいのは当然だ。
対してリーオは、一呼吸置きつつこう答えてくれた。
「彼についてですが、正直私も暴力を振るわれたりといい思いもしないので、思いきって私刑にしました」
「チョベリグ!」
風菜がすごく嬉しそうにしてる。ならよかった。私だって命を狙ってきた相手だし嬉しいわね。
「彼自身のあらゆる因果律が捻じ曲がり、絶対にゲームを遊べない体質にしておきました。ゲームを遊べてしまう媒体も含めてなので、スマホを買うたび即日水に落ちたりと破損します。娯楽も人との交流もない不便な生活を一生送ることになるでしょうね」
いや、それはやりすぎ。
「では、次に会う日が来るかは分かりませんが、さようなら」
程なくしてリーオとしても私達としても確認しておきたいことは全て通知することができたためか、お開きの時間になった。
「ばいばーい」
お互いに別れの言葉を告げ、夢のような時間は終わる。
***
とある土曜日の昼。
私はある1階建ての一軒家の扉を開けた。
「おはよ、姫チー」
玄関の先には私の恋人――風川風菜が立っている。
つまり、ここは彼女の家だ。
そんな彼女は……。
「チュッ☆」
いきなりキスしてきた。
「ちょっちょっと、いきなりはダメでしょ!」
「えー、学校でもコソコソとやってるのに今更じゃない?」
相変わらずこいつのペースにはついていけないわね。
でも、何をされても正直嬉しい自分がいる。今も顔を赤くして照れながら俯いてるし。
「あと、ここにいる間もちゃんとお姫様でいてね」
「は、はぁ〜い♡」
そのつもりだったけど不意打ちされて維持できなかったんじゃい!
まあいいわ、好きだもの、可愛いもの、イケイケのギャルにキスされて嬉しくないわけないもの。
「さっ、もう準備は出来てるから部屋まで案内するね」
「ちゃんと朝とお昼は抜きてきたわ〜♡ 楽しみ〜♡」
風菜の部屋はピンクに彩られた私の部屋に比べると、整えられた本棚や化粧棚、綺麗なベッドのシーツに床、シンプルで綺麗な様相だった。
少し変わった物があるとすれば、勉強机とは別にパソコン専用の机が置いてあり、机の上に設置された棚には
パソコンにはキャプチャーボードというゲーム画面をテレビ用モニターではなくパソコンのモニターに映して録画できる状態にする機器が接続されていて、彼女は本当に“リビコン狂人のウインド”なんだなと腑に落ちてしまう光景。
部屋にテレビ用モニターが置いていないのは録画環境が整っている分パソコンさえあれば事足りるから?
それと、中央に広げられたちゃぶ台の上にセットされたホットプレートが置いてある。あの日私の“PM4”を破壊したホットプレートが設置されている。
「生地は事前に作ってるから、早速焼こっか!」
「いぇ〜い♡」
そう、今日の目的は風菜の家でお家デート。
目玉のイベントのひとつとして、今から2人でパンケーキを焼いて食べる。
まさか自分の命を救ったホットプレートを使うなんて思ってもいなかったけど、これもこれで因果を感じちゃうわね。
風菜は少し部屋から離れると、台所に銀のボウルの入ったパンケーキ用のドロドロな生地を持ってきてくれた。
今からこれを使ってフワッフワなパンケーキ作る。
「型を取るヤツあるよ」
「えっ、ハートの型があるじゃない♡ せっかくだからこれで焼こっと」
「おっ姫チー上手だね☆」
「こう見えて自炊も慣れてるのよ♡ スイーツだって朝メシ前♡」
「おー焼けてきた、テンションあげみざわ〜」
「そういえば“マジパラ”見てくれた?」
「まだ2クールだけだよ。でも、みんな可愛いいし音楽も良くてずっと見てられるって感じマジ卍」
「あぁ〜♡ こういう話ができる女の子のお友達が欲しかったのよ〜♡」
「ウチらは恋人同士だけどね☆」
実は人の家でこんな女子女子して他人とキャッキャするのは人生でも初めてなのだけど、すごく楽しいわね。
もうちょっと意識して同性の友達も作った方がいいなって思えてくるぐらいには。
「よし、焼けてきた☆」
「ハート型も完成♡」
まずは6枚ぐらいに焼いたパンケーキが完成すると、それぞれ中皿に1枚1枚分けて盛っていく。
作りすぎても面倒なだけなので、おかわりは全部食べてから生地を含めてまた作る、今回はそういうルールになっているわ。
「トッピングはどうする? 何かける?」
そして、パンケーキをどうやって頂くかという話になった。
要は、台所からついでに持ってきたのであろうホイップクリームやハチミツやメイプルシロップから、カットしたバナナやイチゴなどの果物、他にも小倉ペースト等など選択肢がある中で何をつけて食べるのかという話なのだけど……今日は少し特別。
「そりゃもちろん、最初はこのモ、ン、ブ、ラ、ン♡」
風菜が前に行ったスイーツ店でモンブランを載せたパンケーキが美味しかったって話をしていたから、勢いでこの家へ来る途中に近所のケーキ屋に寄って買ってきたのだ。
「ちゃんと2人分あるじゃん。完璧☆」
「さあ、美味しく頂くわよ〜♡」
カロリーの塊としか言いようがない物体は2人の食欲を加速させていった。
***
それから2時間ぐらいずっとパンケーキを焼いていた。
私は結局3枚ぐらいしか食べなかったけど、風菜がテンション上がりすぎて30枚も最終的には食べてしまった。少年漫画の主人公かってぐらい大食いなのね……。
もちろんどのトッピングも美味しく頂けたから満足なのだけど。
「美味しかったぁ☆」
「またやりたいね♡」
「ところで、リーオっちからもらったポイントどれぐらい使った?」
「そもそも欲しいと思ったゲームなんて大体買ってるから〜、新作ゲームが出てもお小遣いが減らない状態になったぐらいかな♡ あっでも風菜ちゃんの話合わせたいから“リビコン”のシリーズ作品を一通り買っちゃった♡」
「流石姫チー! ちなみにウチは地味に手をつけてなかったリビコンライクっていうジャンルの、“リビコン”のゲームシステムを参考にして作った他の会社のゲームを中心に買った感じ。それでも全然余ってるけど」
食べた後もずっと雑談が続く。これはもう理想の恋人そのものなのでは? “オタクに優しいギャル”恐るべし。
「そういえばあの日は結局風菜ちゃんのプレイ、見れなかったよね♡」
そうして暫く風菜とお喋りを続けていたところ、ふとこんなkとを思い、口に出した。
あの事件がなければ本当は風菜が“リビコン”をプレイする姿を延々と見ていたはずなので、今になってやり残した後悔みたいな感じになってきたのだ。
「実はその言葉を待ってたんだ☆ “ウインド”のスーパープレイを見せちゃうよ☆」
私の一言に対して風菜はノリノリで受け入れてくれた。ある意味予想通りね。
そうして私様は、勉強机の椅子を移動させつつ、パソコンのモニターの前に2人は座る。
あの日をきっかけに私もなんだかんだで“リビコン”が本気で好きなゲームになっていて、今は続編の“リビングデッド・コンティネント2”を遊んでいる。
そんな心意気のままに風菜のプレイを見れるのは本当に幸せだ。
「それじゃあ、リマスター版リビングデッド・コンティネント、スタート☆」
タイトル画面に表示された『NEWGAME』を選択すると、モニターの中で小さな冒険が始まった。
〜完〜
【完結】死にゲーなダークファンタジー世界に飛ばされたオタサーの姫は同伴のオタクに優しいギャル(RTAランカー)と共にバグと効率テクを駆使しノーデス安定チャートでクリアしていくようです リリーキッチン百合塚 @yurikiti009
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