第5話「ボディタッチ耐性をつけるにはどうすればいいのだろうか」

 天城さんに連れられるがまま構内を数分歩いた後、彼女のサークルの新歓ブースに着いた。


 彼女以外には新歓をしているサークル員はいないようで、ブースは無人で放置されていた。


 椅子に座ると机を挟んで天城さんも僕の対面の席に座った。


「はい、じゃあ気を取り直して。そうだ、名前言っていなかったね。あたしは天城優奈。二年生の経済学部なの、よろしくね!」


「僕は阿合あきらって言います。では、入部させていただきますね」


「阿合あきらくん、あきらくんって呼ぶね!それじゃまずあたしたちのサークルの説明からするね…ってえぇ!もう決めちゃうの!?」


 どうせ入ることになるので、僕はサークル説明なんて聞かずに入部宣言をしてやった。


 天城さんはサークル説明のために書いたビラを取り出し説明しようとする間に、即答されたことを理解してまたもや驚いた様子で大きな目を瞬かせた。


「大学生活という名のモラトリアムはどのサークルに入るかで決まる大事な場面だっていうのにそんな易々と決めちゃっていいの?ぜひ入部してもらいたいとは思うんだけどね、君のこれからの将来が不安になっちゃったよ」


 天城さんは重大な選択をこんなあっさりと決めちゃってコイツ馬鹿かとでも思っているかもしれない。重要性について懸命に説明してくれた。


「良いんです。このサークルって自由に活動できるってことで前々から気になっていたんです」


 一周目の僕も、このサークル「LIFEる!」の自由さをこれ程なく堪能していた。


 活動は二か月に一度あるかないかの頻度、一応ボランティアサークルということになっているが、しっかりと活動していたのは三年前の話。


 前までは一週間に一度の頻度で地域貢献のための運動として募金活動やゴミ拾いなど精力的に活動していたらしい。


 しかし古株留年男、伊那谷さんが部長になったことによって、憩いの場である課外活動棟の部室を確保するのに最低限の活動で済ませるようになったのだ。


 今こうやって僕は新歓されているわけだが、部員数もボーダーラインに達していれば良いので一人二人釣れたら問題ない。


 今年は僕以外にも蓬川さん、仙田の二人も入ることになる。


「まあ良いならそれでいいや!あ、そうだ、新歓イベントってわけじゃないけど、今度うちのサークルで花見するんだけど、見学も兼ねて来てよ!」


 LIFEる!では新歓イベントと告知して催しごとはしない。


 そうすると、ただ飯ぐらいが大勢沸いて少人数で運営している我々の手に負えないからだ。なので、確度が高い新入生を個別で招待して囲い込むことにしている。


 一周目の僕も天城さんに一方的に話を進められ、流れで花見に参加することになった。


 対女子耐性がなかった僕は得体の知れないサークルにもかかわらず、断りきれず承諾してしまったのだ。


「面白そうですね。ぜひ参加させてください」


「良かった…!一緒に花見できるんだね、嬉しいよ!あきらくんのこともっと知りたいし、いっぱい喋ろうね!」


 彼女は目を輝かせ、机の上に置いていた僕の手を包むように手を重ねた。


 またもや、一周目にはなかった展開だ。


 彼女の華奢な手から伝わる温かさは、僕の顔面温度を沸点に到達させるのに十分すぎた。


 何気なくボディタッチされただけで、今までそういう目で見てこなかった天城さんに心を奪われつつあるような気がしていた。


 天城さんってこんなにも美人だったのか…。


 彼女は挙動不審を極める僕に心配そうに見つめてくる。


「ん。どうしたの?調子でも悪い?また顔が赤くなっているけど。やっぱり熱があるのかな」


 僕が沸騰している原因を分かっていないらしい。


 さっきは意図的に顔を近づけてきたのに、これは男を惑わす振舞いであることを知らないようだ。


「ぼ、僕、ちょっと用事思い出したんで帰りますね!」


 彼女の手を振りほどいて、僕は荷物をまとめて席を立った。


「あ、ちょっと!まだ連絡先聞いてないけど!」


 後ろから彼女の呼び止める声が聞こえたが、無視してその場から離れた。

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