第30話「蓬川さんがサークルを辞めた」

 僕は家に帰り、今日の天城さんとのデートを思い出して顔を綻ばしていた。


 天城さんの発言から考えるに、やはり彼女が僕に気があるのは間違いない。


 相応しい場所で相応しいタイミングで相応しい言葉を選んで天城さんに告白すれば、僕も付き合うことができるのではないか。


 僕らしくない胸のトキメキに酔いしれながら天城さんにデート後のお礼LINEを送り、彼女からの返答を待って次のデートに誘おうと思いスマホと睨めっこしていた。


 すると、早くもLINEの通知音が鳴った。


 天城さんからのLINEかと思ってスマホのホーム画面に表示されたバナーを確認すると、LIFEる!のグループラインの通知であることが分かり落胆する。


 大方、部長である足立さんから、次のサークル活動の日程が決まっただとかの業務連絡に違いないと思いながら、グループラインのトークを確認する。


 しかし、それは足立さんからのメッセージではなく、蓬川さんからのメッセージであった。


蓬川愛子:夜分遅くに失礼いたします。

     この度、LIFEる!を辞めさせて

     いただこうと思います。

     新歓合宿を終えて間もないのに

     申し訳ございません。

     短い間でしたが、

     仲良くしていただいた先輩、

     同期の方々、お世話になりました。


 そして、そのメッセージの後に「蓬川愛子がグループを退会しました。」と表示されていた。


 僕はあまりのイレギュラーに唖然とした。


 先ほどまでの浮かれた気持ちはいとも容易く沈みきっていた。


 蓬川さんがサークルを辞めた?


 何故サークルを辞めたのか?


 一周目では辞めていなかったのに。


 一周目と二周目での差異を考えれば明らかになるだろう。


 混乱した頭の中を整理する。


 花見のとき、明神池さんの酒乱パーティーに参加しなかった。


 花見に遅れてきた蓬川さんを迎えに行った。


 そして天城さんと三人で夜桜をした。


 入部届を出すために蓬川さんと話した。


 そして仙田から電話がかかってきて話を切り上げた。


 仙田に天城さんの告白チャレンジに協力させられた。


 しかし仙田は天城さんにフラれた。


 飲み会のときに仙田が蓬川さんにダル絡みをした。


 蓬川さんがキレた。


 天城さんと縁側で会話した。


 天城さんをデートに誘った。


 やはり、蓬川さんがサークル員の前でキレたことが原因なのだろうか。


 どうしてあの時蓬川さんは仙田に突っかかったのだろうか。


 飲み会で蓬川さんが口にした言葉を思い出す。


 ――私も、仙田くんはあまりオススメしません。この人、優奈先輩に卑猥な発言したらしいじゃないですか


 ――本当のことを言ったまでです。あきらくんを利用して優奈先輩を落とそうとしたらしいじゃないですか

 

 前者に関しては、一周目でも仙田が天城さんに対して卑猥な発言した可能性が高く、一周目の蓬川さんはその事実を知っていただろう。仙田が天城さんに惚れた理由としては、セクハラした仙田を天城さんが優しく受け止めて膝枕までしてくれたからであり、一周目と二周目どちらとも新歓合宿で告白している点から察するに、一周目でも天城さんにセクハラまがいのことをしたのだろう。そして、優しく介抱してくれたから惚れて新歓合宿で告白したと考えられる。セクハラしたことはきっと女子の間で話題に上がっているだろう。


 後者に関しては、二周目で起きた事実だ。とすると、仙田が僕に協力を求めてきた事象、それに付随する事象に原因があると考えられる。


 やはり、僕が少なくとも退部の原因を作っているのだ。


 僕はとてつもない罪悪感に苛まれた。


 僕が幸せをつかみ取った代償に、蓬川さんがサークルを辞めることになった。


 起こり得る事象を想定できなかった僕が悪いのだ。


 蓬川さんに謝りたいが、僕が謝っても彼女を困らせるだけだ。


 僕は罪悪感を抱きながらこれからの大学生活を過ごしていく自信もない。

 

 しかし、今の僕は天城さんに惚れていて、その幸せを失いたくない自分がいた。 


 どうすればいいだろうか。


 散々悩んだ挙句、僕は決断した。


 新歓合宿の頃に戻ろう。


 あの飲み会で仙田の暴走を止めよう。


 僕は、「新歓合宿のときに戻りたい」と強く念じた。

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この大学青春モラトリアムはR-陽キャ指定(陰キャ禁)である お茶の間ぽんこ @gatan

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