第22話「仙田による啓発」
凄惨たる酒宴の翌日、部員たちは帰りの身支度と旅館の支配人に昨夜の荒宴会について謝罪をし、旅館を後にした。
各々が下宿へ向かう電車に乗り、僕と二日酔い気味の仙田は帰路が同じだったため、二人で電車の座席に座って揺られていた。
「仙田はどうしてそんな簡単に行動に移せるんだ?」
僕は顔色が悪い仙田に純粋無垢な質問を投げかける。
「あきら、いきなりどうした?」
仙田は片手に持っているミネラルウォーターを体に流し込みながら答えた。
「いや、ふと思って。こんな早くに告っても、天城さんにフラれるのは分かっていたじゃないか」
「あれは俺的に勝算があってだな」
「いや流石に分かっていただろ。お前がイケメンだってわけでもないし」
別に仙田の死体蹴りをしたいわけではないが、客観的に考えるに満場一致の正論を言い放った。
「おいおい散々に言ってくれるな」
仙田は昨日の傷心モードは何処へいったのやら、もうすっかりと切り替えている様子で僕の棘のある言葉に一喜一憂などする気配もない。いや、二日酔いでそれどころではないだけかもしれないが。
仙田は少し考え込むと、再び水を口に入れてから答えた。
「ま、あれだ。人生一度きりだからかな。前世だとか、生まれ変わりだとか、そういうオカルトな話はいっぱいあるけど、結局今の人格って一度きりじゃないか」
「まあ、そうだな」
「だったら、やりたいことをやれば良いじゃん。成功する可能性がいくら低くても、告ってみないと分からない。一度しかないんだったら、そんな微々たる可能性にかけるのも悪くない。そうしていたら、いつかは成功するんだよきっと」
思いのほか合理的な仙田論を聞いて感心してしまった。
仙田は生き方の軸にやったもん勝ちという信念が強固に構えている故に挑戦的だったのだ。
自分を引き合いに出すと、僕は何と陳腐な人間なのだろうか。
一度きりの人生を歩んでいる仙田福太ですら藻掻いているのに、況や何度もやり直せる阿合あきらをや。つまるところ、僕は棚から牡丹餅のおこぼれを頂戴しようと無意識に行動していたのではないか。能動的にギブしたことなど、自分にはあったのか。
蓬川さんへの求愛行動も彼女の要求を真摯に応えているだけで、自分から何かアクションに移すことなんて、講義を一緒に受けないかと誘っただけだ。とすれば、一周目の失恋もフラれるべくしてフラれたに違いない。
だが、時間遡行の能力があるとは言え、どうしても思い切って大胆な行動をすることができない。もう失恋などという苦い思いはしたくないのだ。
そして、この行動力こそが陰キャと陽キャを分ける歴然たる差なのではないか。そうであるならば、僕は生粋の陰キャであるので恋愛の不可能性を認識せざるを得ない。
いや、天城さんは僕に好意があるはずだ。
だとすると、不可能性を知った僕は蓬川さんではなく、やはり天城さんと結ばれるべきなのだ。
なんと打算的で畜生な人間であろうか。
しかし、仕方ないのだ。僕は陰キャなのだから。
「ん?あきら?」
仙田の呼びかけで、僕は自分の世界に入っていたことに気づいた。
「いや、お前がまともなことを言っていて面食らったよ。ちゃんと考えているんだな」
「俺は将来ビッグになる男だ。俺にとっちゃ当たり前な話さ」
仙田はそう宣言して「少し寝るわ」と言って自分の膝に置いてあるバッグにうつ伏せになって寝息を立て始めた。
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