第15話「光哉くんの暴走」

 キャッ〇&チョコ〇ート。略称はキャッチョコ。いわゆるパーティーゲームだ。与えられたお題を自分が持っている手札で解決するというゲームで、大喜利といってもいいだろう。


「はい!今から皆でやるのは『キャッ〇&チョコ〇ート』です!」


 天城さんは、「キャッ〇&チョコ〇ート」と書かれたボードゲームを開けてセッティングし始める。僕たちにアイテムが描かれたカードを三枚ずつ配り、真ん中に山札を二つ置いた。


「キャッ〇&チョコ〇ート?」


 香織ちゃんはキョトンとした顔で訊ねる。


「ルールは簡単!皆には三枚アイテムカードが配られます。そして自分のターンになったら真ん中に置かれているお題の山札から一枚めくります。そこには『学校に遅刻しそうだ』とか『家の鍵をなくした』とかお題が書いているので、それを自分の手札のカードで解決するゲームです!」


「三枚とも使っていいの?」


「山札からカードを一枚めくると、次のカードが上にくるじゃん?それに書かれている数字の数だけで使えるの。今回だったら『家の鍵をなくした』の次のカードに『2』って書かれているから、自分のアイテムカードの三枚のうち二枚を使って解決するって感じ。使ったカードは捨ててアイテムカードの山札から補充する、って流れね」


「これってどうやって解決したか決めるの?」


「それは皆に決めてもらうのよ。グッドかバッドで指立ててもらって、グッドが多かったらお題カードを貰えるし、バッド多かったらお題カードは貰えない。最後に多くお題カードをゲットしていた人が勝ち!」


「あーなるほどー!楽しそう!」


 香織ちゃんは配られたアイテムカードや出ているお題カードをまじまじと眺める。


「光哉くんも分かったかな?」


「ま、なんとなく」


 黙っている光哉くんにも訊くとそっけなく答えた。


「とりあえずやってみたら分かると思うよ!早速始めよっか」


 そうして僕たちはキャッチョコを始めた。


 順番は僕、天城さん、光哉くん、香織ちゃんの順に進めることになった。


 天城さんが仕切ってくれて、山札のお題カードをめくる。


「まずはあっきーからね。お題カードは…『買った商品がぼったくり価格だ』だって」


 なるほど。そして使える枚数は二枚。僕の持っているアイテムは「チョコレート」「かつら」「卒業アルバム」だ。全く解決できなさそうだ。


 しかし、悩んでいる時間が長くなるほど要求されるハードルが高くなる。


 ここはノリで解決しよう。


「えーとですね、実はこの商品を売ってきた店員さん、昔の友達だったんですよ。なので、友達価格で売ってもらいたいところですが、僕を忘れているようだ。そこで!まず偶然持ち合わせていた『卒業アルバム』をその店員さんに見せつけてみたんですが、それでもクエスチョンマークだ。ああ、そうだ。僕は三十代半ばで髪がすっかりなくなってしまったんだった。そう、僕はハゲだったんですよ。『かつら』を被ってみると、店員さんも髪が生えていた頃の僕と合致したらしく無事に友達価格で売ってくれたとさ」


 僕は話をしながら、内容を組み立てた。この話のポイントは「ハゲ」を織り交ぜたことだ。


 子どもは単純で分かりやすい笑いを好む。そこで、ハゲという分かりやすいボケをオチとして挟んだというわけだ。


 子どもたち二人は途中で笑い声を洩らしてくれた。天城さんも子どもたちに釣られて笑ってくれた。


「お、これはウケたね。さあ皆ジャッジお願いします」


 僕が促すと、皆は指を上に立ててくれた。


「あっきーってハゲだったんだね!てことは、その髪はヅラかなー?」


 となりに座っていた天城さんが僕をからかって髪の毛に触ってくる。


「ち、違いますよ。これはあくまでもお話の中の僕であって」


「ヅラッキーだ!!」


 香織ちゃんも天城さんに同調してふざけて僕に蔑称を付ける。


 それを聞いて思わず光哉くんも吹き出す。


「こら!君たち!」


「まあまあヅラッキ…間違えた、あっきー。今じゃ発毛も技術が進んで髪も生えるから!お金いっぱいかかっちゃうけど!」


「天城さん!!」


 そんな茶番を続けて僕のターンは終了した。


 次は天城さんの番だ。お題は「宇宙人があらわれた」だった。三枚使って解決しなければいけない。


 天城さんは少し悩んだ後、何かを思いつき喋り出す。


「現れた宇宙人は地球を侵略しようとしててね。これはまずい!皆もうアワアワよ!でもまずはリラックスしなきゃね、『チョコレート』を食べて冴えた頭にしてね。『一億円』の資本を持って科学者にお願いするわけよ。このお金で良い発明をしてくれってね。そして発明されたのがこの『ドライヤー』。ただのドライヤーじゃなくて、魔法のドライヤーなんだよ。これで吹きかけられたら好きなところに飛ばせるんだって。だからこのドライヤーを使って宇宙人たちを宇宙の果てに飛ばして地球に平和が戻りました!解決!」


 天城さんは自信満々に語った。


「この科学者は科学を探求していく中で魔法を見つけたんですね」


 科学者が発明したくせに魔法が出てきた点について、つい茶々を入れてしまう。


「そ、そう!発明をしているうちに魔法を見つけちゃったんだよ!実は魔法はね、科学の副産物だったんだよ」


「ってことは、これから魔法によるぶっとびファンタジーが展開されるというわけですね」


「そうそう!これからの時代は科学じゃなくて魔法じゃないとね!」


 天城さんが面白くなり、つい深堀してしまう。


 そして子どもたちを置いてけぼりにしてしまったんじゃないかと気づいて二人の様子を窺うと、僕たちの掛け合いを面白がって見ていた。


「は、はい!じゃあ皆グッドかバッドか!せーの!」


 天城さんは切り替えてきたので、僕たちは判決を出した。僕はバッド、二人はグッドだった。


「もう!あっきーは辛口なんだから!あたしも次から辛口評価しよ! あ、香織ちゃんと光哉くんは甘々採点にしてあげるからね!」


 彼女は頬をプクッと膨らませて拗ねてみせて、クリアしたお題カードを自分のもとに寄せる。


 次は光哉くんの番だ。「蜂がおそいかかってきた!」がお題で、一枚だけを使って解決することになった。


 光哉くんはじっとお題カードとアイテムカードを見比べて考え込み、話を捻りだした。


「えーっとね…蜂に追いかけられているから、『おかん』に身代わりになってもらった!」


 チートカード「おかん」。お母さんだ。物語の主人公をアレやコレやで強引に解決へと導いてくれる最強のアイテムだ。


 「おかん」を持っていれば、アイテムカードを三枚消費しなければいけない局面でもオチに「おかん」を繰り出すことで万事解決。それが光哉くんの手に渡っていたとは。


「お母さんがいたかー、お母さんだったら蜂に襲われても長年の知恵でどうにでもなるね」


 僕が適当に解決策の補強をする。


「それにお母さんって確か、百メートル走九秒ジャストでしょ?お母さんの脚力はボルトも驚きだからね」


 天城さんも付け加えて言う。


「う、うん!あとね、『おかん』は実はロボットで、両手にロケットランチャーがついているんだ!」


 光哉くんも乗っかって「おかん」の設定を加えていく。


「ふふっ、お母さんって最強なんだね」


 三人によるキャラクター設定が面白かったのか、香織ちゃんも面白がって聞いている。


 こうして「おかん」はとんでも超人(?)へと変貌した。


 ジャッジを取ると満場一致のグッドを得た。


「やった…。僕のだ!」


 光哉くんは嬉しそうにお題カードを自分のものにする。


「えーと次は香織ちゃんの番だね。なになに、『トイレが並んでいて入れない』だって!」


 天城さんはお題カードを読み上げる。解決に要するアイテムカードは二枚だ。


 香織ちゃんはすぐに答えを出した。


「早くトイレに行きたいのに並んでいて行けないから、『携帯電話』を使ってお母さんを呼んで『薬』を持ってきてもらってね、その薬を飲むとトイレに行きたい気持ちが引っ込んだの!」


 香織ちゃんお下品な言葉を避けつつ、このトイレ事件を解決してみせた。


 小学生なのに、わずかな時間で納得がいく解決策を見つけるとは天晴だ。


 僕が香織ちゃんの回答を褒めようと口を開けようとしたとき、光哉くんが先に喋り出した。


「それってお母さんを待っている間に漏れちゃうんじゃない?」


「え…それは」


 香織ちゃんは光哉くんのつっこみに戸惑う。


「僕だったら携帯で他に空いてそうなトイレが近くにないか調べて、そこまで向かう間我慢できるように薬飲むって話にするけどな。そっちの方が良くない?」


 さっき自分の話が盛り上がって勢いづいたのか、光哉くんは代替案を披露する。


「でも、今は私の番で…」


「こっちの方が絶対良いよ!ね、あきら、僕が考えた話が良いと思うよね?」


「そ、そうだね。でも香織ちゃんのターンだから、今は香織ちゃんの話が良いかどうか決めようか」


「うーん、わかった…」


 光哉君が得意げに訴えかけるので、僕は彼を優しく制した。


 その後、皆でジャッジを取ったが光哉くんだけ親指を下に向けた。


「もー光哉くんは素直じゃないなー。さっきの香織ちゃんの話良かったじゃん!」


 天城さんは冗談っぽく和ませようとする。


「だって僕の方が良いと思ったし」


 光哉くんは依然として、納得がいかない様子だ。


 その後も僕たちはゲームを続けたが、香織ちゃんが話をする度に光哉くんは難癖をつけてバッド評価ばかり下していったのだが…。

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