第11話「夜桜と両手に華〜仙田を添えて〜」

 蓬川さんと綿菓子を食べながら、大学の共通科目は何を取る予定かだとか、下宿はどこだとか、一年生らしい談笑をしながら天城さんたちが待つ場所まで向かった。


 緊張は依然として解れなかったが、ピークと比べると大分ましになっていた。


 僕たちが到着した頃には辺りは暗くなっており、引き上げようとする花見客もポツポツいた。


「君たち、さては道草を食っていたなー?」


 天城さんは眉をしかめて問い質してきた。


「私がお腹空いていたので、あきらくんを誘って屋台に行ってました…。遅れたのにもかかわらず寄り道までしちゃって…ごめんなさい」


 蓬川さんは申し訳なさそうに天城さんに謝った。


 天城さんはそんな蓬川さんに気を遣わせまいとしかめた眉を緩めた。


「じょうだんじょうだん!全然いいよ!そんなことより暗くなってきたけど二人とも大丈夫?このまま夜桜しない?」


「わー良いですね!夜桜なんて私はじめてです!」


 蓬川さんはいかにもワクワクした様子を見せる。


僕も特に用事がないので夜桜を楽しむことにした。一周目とは違い、今回は新鮮な気持ちで新入生として楽しむことができる。


仙田は相変わらずシートの隅の方で寝息を立てていたが、彼を起こすと碌なことが無さそうなので敢えて起こさなかった。その点については天城さんも同じことを考えているであろう。


「きれい…!」


 ナイトタイムに入り、僕たちが座っている辺りの桜の木々がライトアップされる。


 桃色の照明で照らされて桜は純色へと染め上がる。


 人工的に彩色されているとは言え、これはこれで良い。


 それぞれ自分だけの空間に入ったかのように夜桜に見惚れた。


 僕の片手にはビールだが、両手には花があるので最高の花見だ。


「はい、お二人さん写真撮るよー」


 天城さんはスマホを取り出してインカメに切り替え、夜桜をバックに自撮りの構えを取ったので僕と蓬川さんもカメラに映りに行く。


 天城さんが「いぇーい!カシャッ!」とカメラの擬音を発してシャッターを押す。


「写真ちゃんと撮れたかなー。って、あっきー何このピース!ぎこちなっ!」


「陰キャなんで被写体を嗜んでいないというか…」


「ふふっ、このあきらくん可愛いですね。優奈先輩、後で写真ください!」


「もちのろんよ!あっ、仙田くん映るように撮るの忘れてた!ま、面倒臭いから各自で合成してあげて!」


「仙田くんの扱い、酷いですね…」


「そ、そう?彼ならきっと許してくれるよ!」


「蓬川さんも仙田を知れば分かると思うよ」


 僕たちは夜桜の下でしっぽりとした酒宴を楽しんだ。

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