他人の心が知りたいとき

今日は学校で道徳の授業があった。

人の心を大切にしなさいと習ったんだ。

だけど他の人の心なんて、ほんとうのところ分からない。


たくさんの患者さんを診ている町の歯医者さん、白瀬先生なら人の心が分かるはずだ。

先生に聞いてみよう。


「先生、どうすれば他人の心が分かるようになるの?」


はははと先生が笑う。


「他人の心を知るだなんて、僕にだって難しいものだよ」


先生にも難しいんだ。

僕は少し気が楽になった。

しかし、はたと先生は思い出したようだ。


「そういえば僕も色々とためして、新しく入った白衣のお姉さんのことを知ろうとしたね。待っていたまえ」


先生はいちど院長室に入り、分厚いファイルを持って出てきた。


「ごらん」


ファイルの中にある写真はどれも暗い上、ぼけていて何なのかわからない。

僕は気づいた。

先生は、やはり他人の心なんて分からないと伝えたかったんだ。

僕が先生の顔を見ると、先生は笑顔でうなずいた。


「まずはスカートの中を知ろうとしたのだよ」


先生が言うや否や、飛び出してきたのは数人の白衣のお姉さんだ。

新しく入ったお姉さんは『退職届』と書いた封筒を持っている。


「落ち着くんだ!ぼんやりとしか写ってない!まだ勤務開始から二週間じゃないか!!」


叫ぶ先生の口に、お姉さんたちはピンク色のぷにぷにを流し込む。

先生のひたいにプラスチックで封筒が貼り付けられ、顔にぷにぷにを盛られた。


ピンク色になった先生がもがいている。

今の先生は本当に反省しているのだろうか。


〜人の心を知ろうとしているとき、身勝手な虚像を作り出している〜

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