第9話:既に……



 野球拳もとうとう脱ぐモノが無くなって来たので終わり、今度は燃える水をじゃんけんで負けた方が飲むと言うカオスな状態になりつつある。



 「流石にこれはやばい、何かの拍子であれに混ざったら確実に燃える水を飲まされる。何とかしなければ……」



 私がそう思っているとライムがゆらりとこちらを見る。



 「ねぇ、お肉が食べたいわ。お肉」


 「は? に、肉!?」



 目つきが怖い。

 こいつは自称「D」カップの胸をその下着からこぼれんばかりに揺らしながらこちらにやって来る。



 「早く肉よこしなさい。でなければあなたを食べるわよ?」


 「ちょっとマテ、それって性的に?」



 「勿論両方の意味」



 ニヤリと笑うそれがとても怖い。

 そしていつの間にかその手に首輪と鎖が握りしめられている。



 まずい!

 いろんな意味でまずい!!



 私は慌てて冷蔵庫を見る。

 すると豚肉バラしかない……


 「あ、あの、豚肉バラしか無いのですが……」


 「豚肉ぅ~? 私が豚肉嫌いって知ってるでしょう!? 牛肉出しなさい、牛肉!!」



 まんま、みさき の好みじゃねーか!?

 ライムに変身しても元は同じか!?



 しかしまずい、牛肉が無い。

 このままではいろいろな意味で食べられてしまう、この自称永遠の十七歳に!



 あ、それはそれでいいかも……



 「何か変なこと考えていない? 牛肉なければあなたの肉を焼くわよ?」


 「ちょっとマテ、食うってそっちかよ!? 無い物は無いんだから仕方ないだろう!!」



 こいつ本気で人肉喰う気だ!!


 

 「ちっ、使えないわね。仕方ない」


 言いながらライムは異空間に手を突っ込みそこからたてがみの有る獅子牛を引っ張り出す。

 そしてレイムにクイっと顎をしゃくるとスパっと首を切り落とす!!



 ぶっしゅぅ~っ!!



 「うわぁっ! 血っ! 血だぁッ!!」



 「ふん、これで牛肉は確保できたわよ? さあ早く料理作りなさい!!」


 「無理です、こんなの捌けません!! と言うか血がぁッ!!!!」


 「うるさいですね、ではこうしましょう。とりあえずもも肉あたりを切り出しますからなにか作ってください」



 どんっ!



 レイムがそう言いながら手を振るとまな板の上に大きな肉の塊が出現して大惨事の光景が一瞬で消える。


 あれだけ飛び散った血も奇麗に無くなっている。



 「うむ、肉か!」

 

 「肉肉しいのが良いな!!」


 「でも脂っこすぎるのは嫌」


 「つまみになるやつで」



 いやお前ら、何平静を保ってるんだよ!!

 確かに女神の使いのこの二人、常識意外な事をよくやるが。



 「ほらぁ、せっかくお肉用意したんだから早くしなさいよぉ~」


 ライムが首輪を鎖につないでくるくる回している。

 その眼がやばい。


 「わ、分かった、すぐに何か作るから舌舐めづりしないでくれぇっ!!」


 私は慌てて調理にかかる。

 



 さて、まな板の上の肉はどうやらもも肉のようだ。

 現実世界の牛肉とは少し違うが、小説の中では牛と同じ味のはずだった。


 「肉肉しいやつか…… となればやはりあれか」


 私は香辛料を引っ張り出す。

 そして肉の塊をいくつかの大きさに切り分ける。

 それに塩コショウ、チューブニンニク、オレガノ、バジル、そしてウイスキーを塗りたくる。

 そのまましばし放置。


 レイムの所に行って赤ワインがあるかどうか聞くと異空間に手を突っ込んで赤ワインを引っ張り出す。

 それを受け取ってから台所へ戻る。


 鍋にお湯を沸かし始める。

 そしてフライパンも火にかけサービス牛脂を引いてからトングで肉の塊の表面を焦げ目がつくくらいにこんがりとさっと焼く。

 こうして肉の旨味を閉じ込めたらビニール袋に入れて更にビニール袋に入れて二重にして良く縛る。

 この時空気をよく逃がしておくこと。

 沸いた鍋のお湯にそれをぶち込みそのまま茹でる。

 

 「うーん、こんなもんかな?」


 取り出してビニールを破くと肉汁がいっぱい出ている。

 肉の塊は取り出しよく汁を切ってからお皿に箸を三本くらい並べてその上において粗熱を取る。

 落ち着いたらお皿に乗せてラップをかけて冷蔵庫へ。


 そしてその間に肉を焼いたフライパンに先程の肉汁とワインを入れて煮え立たせる。

 塩コショウ、そしてポン酢を少々。

 味見をしてよければ作ったソースを小さなお椀に入れて冷ます。



 「さて、付か合わせだが……」


 ジャガイモ、ニンジンと皮をむいて乱切りにしてフライパンにオリーブ油を入れてそこへ刻みニンニクを入れる。


 

 じゅうぅぅぅぅ



 途端にいい香りがするそこへ切った人参とじゃがいもを入れて表面がこんがりと焼けるまでひっくり返す。

 塩コショウとバジルを入れて仕上げ、お皿のまわりに並べる。

 冷蔵庫から冷えた肉の塊を取り出し薄く切る。



 「んっ、丁度良いな」



 切り口は見事に桜色よりやや赤い。

 それをお皿に並べて先ほどのソースをかけて出来上がり。


 

 「ほれ出来たぞ、『獅子牛のローストビーフ』だ」



 どんっ!


 

 いくつか同じく作っておいた肉塊も切らずにお皿に乗せて差し出す。

 誰がどう見ても肉の塊。

 そっちにはナイフとフォークも載せてあるのでセルフで切ってもらおう。



 「「「おおっ! 肉だ!!」」」


 

 みんな肉に群がるが、ライムが私を見てにんまりと笑う。


 「あらぁ、美味しそう。でもちょっと残念ね、これじゃぁあなたが食べられないわ」


 「それってどっちの意味で?」


 「両方♡」



 嫌っ!

 片方は嫌ぁっ!!

 腕が無くなるか足が無くなるかってところまで行きそうで怖すぎっ!!

 

 

 しかしみんなはそんな事はつゆ知らずローストビーフに手を伸ばす。


 

 ぱくっ!



 「おおっ! 美味いっ!!」

 

 「肉がしっとりとそしてこのソースがたまらん!!」


 「普通のよりちょっと変わった香りがしますね? これはウイスキー? でも悪くない」


 「どうでもいいわよ、お肉! それにお酒! レイム、ジャンジャン持ってきなさい!!」


 「確かにこれはお酒に合う」



 ローストビーフで舌鼓しながら強い酒をどんどん飲んでいる。

 調理で使ったウイスキーもいつの間にか持って来ていてストレートで飲んでいやがる。



 危険だ、もうビジュアル的にも危険だ。

 なんなんだこの状況?

 全員裸で肉喰いながら火が付くほど強い酒を飲んでいる。


 私は震える手で近くに有るコップの水を飲む……




 「って! 誰だよ私のコップの水を燃える水に変えた奴はぁっ!!」

      



 「大丈夫、まだまだある。はいどうぞ」

 

 「いや羽澄、私はまだつまみを作らなければならない……」



 ペタンコの推定「A」サイズのブラジャーが目の前にある?

 いや、私は何時の間に座り込んでいるんだ??


 ニヤリと笑う羽澄だが私が手に持つコップに水を灌ぐ。



 「取りあえず一杯飲んだ方が良い、水分補給は重要」


 「水分って、これは燃える水……」




 と、そこまで言って私の意識は急速に遠のいていくのだった。


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