酒
本当に、こういうのは、たまに、ある。
酒を飲んで、頭がちょっとふらふらとして、現実と夢の曖昧な境界線をいったりきたりして気持ち良さにうとうとしてしまう。
最近、いつも酒を飲んでる。彼氏が教えてくれた。ううん、元彼氏か。プロポーズを待っていたら、一月前に別れてくれと言われた。
そんな私に残ったのがお酒だけ。
おかげさまで家から直で帰れば、お酒ばっかり飲んでる。のんべいな私。
今日も飲む。いつもみたいにちびちびと。これが美味しいんだ。けど一人で飲むのは飽きた。
会社の飲み会は仕事だと割り切っているが、それでも食べ物と酒があると人は緩む。あの独断のぴりっと緊張とせせこましい雰囲気は好き。だから、端っこで、馬鹿をしているみんなを横目に馬鹿だと思いながら気持ちよくちびちび。
気がついたら若い子が私の横にいた。真新しいスーツ、こういう雰囲気にどきどきした顔をしている。まだはじめてなんだっていう顔。緩んだ日は、人恋しくなる。そう、緩んでる。私の口が何か語る度に、彼は緊張した面持ちで頷いてる。ウーロン茶なんてやめて酒を飲みなさいよ。
……お局様、おっしゃるとおり。行き送れ、おっしゃるとおり。絡み酒、おっしゃるとおり。
けど、こうやってゆるくなると、ぽんぽんと言葉が口からついて出てくる。相手にどう思われても、あんまり気にしない。
おっしゃるとおり、おっしゃるとおり。
ついへら、へらと口元が緩んじゃう。
あんたも笑っていいよ。私のこと。
「けど、がんばってるんですよね?」
「んっ?」
「とってもがんばってるんですよね……お疲れ様です」
あ、やばい。涙腺緩んじゃう。私みたいなおばさんの事、そんな風にいうあなたは、とってもいい子。そうよ、いい子。いい男だわ。
「ありがとう」
にっこり笑って御礼を言って、そのあと、またお酒を飲んだ。
一人で飲むお酒は、世知辛い。彼氏と飲んだお酒は、とってもおいしかったな。今のお酒も、美味しいな。本当にゆるゆるになっている。たまには、いいじゃない。たまにはね。
頭ががんがんする。
起きたとき、整理整頓されたきれいな部屋にびっくり。私のゴミ屋敷が一夜にして美しくなったなんてばかなことがあるはずない……ここ、どこって言いかけて、頭がまた痛む。ふと見ると横に知らない人がいて悲鳴をあげる寸前、頭の痛みに我に帰った。
ここ私の部屋じゃない。
「あ、おはようございます」
「おはよう……あのさ、あんた、だれ」
「えーと」
自己紹介されて私は眩暈を覚えた。おいおい、私、別のところの人、逆ナンしちゃってるよ。そういえば、昨日のところは人が多かった。なんと別会社の人に混じってしまい、そのままお持ち帰りコース。なにしてるんだ私。いくら酒のパワーといえどあんまりだ。
「とりあえず、コーヒーですね」
「うん」
コーヒーを啜りながら、昨日の酒は美味しかったなぁと思い出す。
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