人間不信だって愛を知ってもいいんじゃないの

ひえひえ冷凍庫

第1話

思うことは思った。

こんなこと書いて何になるのか、と。

それはそうかもしれない。

でも書きたかった。それは文章を書く理由としてそれなりの衝動じゃないかい?

では少し振り返らせてもらおう。なに、ほんの少しだけじゃ。ほんの少し、貴方の時間を頂戴しよう。

私は、その実、恋愛なんてものが苦手だ。

誰々がかっこいい、だの、○○ちゃんが好きなのに話したありえないだのくだらないと思っていることから人生が始まっている。

ガールズトークを女の子と楽しく話すお茶会みたいなものだと思っていたくらいだ。そんなのがあれば是非参加したい。

そして、私も二十代になり、適当な恋愛を経て、今は好きな人と付き合っている。

意味が分からないだろう。大丈夫だ。私も分かっていない。

この方は四つ歳上の優美ちゃんという方だ。

この人思いっきり実名を出したな……というのがあるが、このエッセイのことは黙っているので問題はない。

ないったらない。

何故なら、私が優美ちゃんと呼びたいだけなのだ。

歴代の恋人なら、迷わず仮名を使ったであろう。名前を呼ぶことすら幸福なのだ。

そして、私と優美ちゃんは同人活動を主として、ネットで創作をやっている。優美ちゃんはヒーラーなどもやっていてとても多才である。

何が言いたいかと言えば、本名とは別の名前で活動しているのだ。

なら、支障はでないだろう。これは私と優美ちゃんの……優美ちゃんだけ名前を出すのは不公平だな。

夏美と優美ちゃんの愛の物語なのだ。

……まさか自分がこんなの書くと思うか? そのこたえはひとつだ。思わない。想像すらもつかなかった。

そんなふうに自問自答してしまう。

実は私は優美ちゃんと付き合うのは2回目だ。お互い二股していたうえに、私は優美ちゃんに振られてしまったという過去がある。

さらっととんでもないことを言ったな? と私の親友の望紀ちゃんなら言うでしょう。というか言った望紀ちゃんは。望紀ちゃんははっきりしているタイプの人間で、すっきりとしているのだから。だから言う。

望紀ちゃんも本名出した。申し訳ない。だけど望紀ちゃんなら許してくれるでしょう。私の元片想いの親友だ。ここまでは優美ちゃんに言っていない。読者と私の秘密だ。私はひそかに口元を軽く上げる。ヒミツを共有することは仲が深まるチャンスだからだ。誰と、といえば読者と。

話を戻そう。優美ちゃんには元彼女が存在した。

……え、あの人のこと元彼女って言っていいのか。嬉しい。なんならそこに嬉しさを見出した私をゲスだと思えばいい。それくらい気にならない。

何せ、私は優美ちゃんと付き合ってた一回目、朝方に元彼女のことはなんとかするから一緒になろうと電話していたのだ。文面が不倫チックだが、平たく言ってしまえば浮気だし、その提案は大層私にとっては魅力的だった。

しかし、これはお昼前だろうか。三人で話したいんだけど今、大丈夫? とメッセージが来た。

大丈夫なわけあるか。

そう思うのはもう仕方がないだろう。しかし覚悟せねばならない。優美ちゃんの元彼女からどんな罵詈雑言を言われるのかと恐れを抱きながら、私はその提案を受け入れた。

簡潔に言う。

泣き落としをされた。

優美ちゃんの元彼女の言ってることなんて微塵も思い出したくないが、泣かれた。そしてこの時点では、優美ちゃんと元彼女は一緒に住んでいたため、ごめん、泣いてるから慰めてくると言い残し、電話は切れた。十分もあったかどうか分からないほど大切な話にしては短かった。

そこからの記憶はあまりない。メッセージには金銭や社会的なことが書かれていたがもう頭に入ってこなかった。

忘れよう。

もうそれしか方法はなかった。

私と優美ちゃんは同人活動をしていることもあって同人イベントで鉢合わす可能性もある。

怖かった。とても怖かった。

でも、だからといってはい、やめますって言えないところがオタクの面倒なところなんだと思う。

もう通販だけやっていこうと思った。

情世も情世でwebオンリーなど、家に居ても同人活動ができる時代。

この点だけは不謹慎ながらも感謝している。それ以外は早く収まるといいですねとしか言うことはありません。

私は、そんなこんなで時折枕を濡らしながら、変わらず日々を過ごしていた。

 11月だったでしょうか。優美ちゃんから半年ぶりにメッセージが届きました。

『ブロックしてなければ届くと思うんだけど、どうですか?』

そんなメッセージだった。

私は即座に返信した。朝の五時だった。日も明けていない、かと言って夜でもないよく分からない時間。

私は不眠症の睡眠障害なので、たまに起きているのは不思議ではないが、その時ばかりは優美ちゃんのSOSを私が受信したんだ、とさえ思った。

なるべく、なんでもない様子をとりながら、会話を進めていった。

どうやら元彼女に対して修復不可能な状態のほどご立腹なご様子。

しかも出ていったのか、追い出したのかは分かりませんが、もう別れたのだと。

私は必死に優美ちゃんの話を聞き、内心解放感に溢れていた。

もしかしたら私と付き合ってくれるのだろうか。

そんなことすら思った。思ってしまった。

今思えば、私はそれでいいんか。思いっきり都合のいい女だろうが、と理解できるが、それでも付き合いたかったのだ。

惚れた方の負けとはよく言ったものだ。

そしたら優美ちゃんからひとこと。

『今、元カレとラブホからかけてるんだけど、ちょっと外に出ていい?』

……?

言葉が出ないとはまさにこのこと。私は元カレを八つ裂きしたいほどの衝動に駆られた。端的に吐くかと思った。

今も親交はあるし、仲良くさせてもらっているので八つ裂きにはしないが、それぐらいしても許されるとさえ思った。

こんなことがあった翌月、私は友達として優美ちゃんの家に遊びに行き、初日でセックスをして、付き合って3ヶ月ほど経つのだから人生は分からない、ということを身をもって学んだ。

私は、精神障害者であり、平たく言えばメンヘラなので人生なんてこんなもの、という諦めが常にあるが、もしかしたら何かあるのかもしれないと思った。

私はもう少し、生きてみたい、優美ちゃんと共に生きていたいと思った。




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