高校一年生の二学期の途中で武君は転学した。


商業高校の夜間部に入ったものの、高校で取れる商業系の資格の殆どを半年余りで取得してしまい、担任の先生に昼間部普通科への編入を勧められたのだ。

その学校では、ビジネス系の科目も勉強できるらしい。

昼間みていた家業の雑貨店は、前のようにお母さんがみることになったけれど、そもそもお母さんは店にいつも出ていたいらしく、武君が取り仕切っていたこの半年はやることがなくて愚痴ってばかりいたそうだ。


武君は、昼は高校に通って勉強をし、夕方、帰ってきて、お店をみる。

週に一度、我が家にやって来て、私のピアノレッスン30分と、父のソルフェージュのレッスン30分を受ける。


はずだった。

ところが。


「ね、武君。お父さんが武君に歌わせたのって、新曲だよね」

「あ。うん」

「これで何曲目?」

「ああ。4曲目かなあ」


レッスンが終わり、私は武君を送って夜道を歩いていた。

毎週毎週、武君の帰る時間が遅くなるのは、父が、武君の歌声にすっかり惚れこんでしまい、ソルフェージュもそこそこに自作の曲を歌わせているからだった。

武君のだみ声の歌は、すごく、いい。

猛々しくて、優しい。豪快で、繊細。


「武君の歌で何をするつもりだ、お父さん」

「あはは」

「怪しい予感がする」

「ははは」

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