第8話 家に行くまで……。

「さぁ結愛ちゃん、行きましょ」



 その日の授業が全て終わった放課後、結愛と希空はすぐに廉斗の家に行く準備をした。準備といってもまだ学校内なので、鞄に荷物を入れたりしただけだ。




「………ねぇ希空ちゃん、何か買っていった方が良いかな?」

「そうね。ドリンクとゼリーくらいは買って行ってもいいかもね」



 廉斗の家に行った事がないので彼の家に何があるのかは分からない。だが一人暮らしをしているという事はある程度は備えてあると予想して、本当にちょこっとお見舞いに行くくらいの感覚で考えていた。



 

「………結愛ちゃん結構楽しみだったりする?」

「しないわよ!」

「そう…」



 希空に揶揄われながらも、結愛達は教室を後にした。




「そういえば希空ちゃん、新城くんの友達の西山くんは一緒じゃなくていいの?」



 近くのスーパーに寄った結愛は、ふとその考えが頭に浮かんできた。希空は秀に廉斗の家の場所を聞いたと言っていたので、結愛達が廉斗の家にお見舞いに行くというのは安易に想像がつくはずだ。



 家を知っているだけでそこまで親しくない可能性も否定は出来ないが、廉斗と秀が一緒にいる所を良く見かけるので、それはないだろう。



 秀と一緒に行きたいという感情は一切ないが、少しだけ気になった。




「………私がね、新城くんの家にお見舞いに行きたいんだけど、西山くんも一緒にどう?って聞いたら、俺が行くのは廉斗に悪いとか何とか言ってたわ。よく分からないけど、」

「そう。本当に良く分からないわね」



 希空から話を聞いた結愛だが、秀の言っている事の意味が分からなかった。近くにいたなら心を読めたのだが、その時は別の場所にいたので、秀の心の声は聞こえて来なかった。



 結愛と希空が廉斗の家に行く時に、秀がついて行ったら迷惑になる。何回か頭の中で考えてみたが、きっと男の人にしか分からない感覚なのだろうと考えるのをやめた。




「まあ何にせよ、家の場所は分かったから西山くんはいてもいなくてもいいのだけど、」

「希空ちゃん、それは言い過ぎよ」

「……そうね。ちょっと反省」



 結愛が指摘すれば、希空は素直に非を認めて反省した。心から反省している所、希空の素直さは長所と言えるだろう。素直すぎる所が短所でもあるが。

 



「よしっ!必要そうな物は買ったし、早く行きましょ!」

「希空ちゃんテンション高くない?」

「当たり前よ。新城くんの家に結愛ちゃんを連れて行ったらどうなるのか楽しみなのよ」

「………馬鹿にしてるわよね?」



 希空の楽しそうな顔を見たら、心を読むまでもなく結愛を揶揄おうとしているのが伝わってくる。それでも胸の中では結愛のためを思っているだから、許すしかない。




「違うよー、私は結愛ちゃんの元気な顔を見たいだけ!」

「ふふ。希空ちゃんの元気さが、今にも移ってきそうよ」

「それは何よりね!」



 結愛から見ても明るくて可愛らしい笑みを浮かべている希空は、隣にいるだけでとても落ち着く。綺麗なエメラルド色のボブヘアーの希空は、昔から明るかった。




(そういえば、希空ちゃんって急に明るくなったわよね)



 今では明るくて元気な印象の希空だが、初めて会った時は少し違ったような覚えがある。かれこれ幼稚園からの仲なので、希空の事は鮮明に覚えている。



 希空が明るくなったのは、おそらく小学生の頃からだった。懐かしさを感じると同時に、今と似たような性格の希空に変化のなさを感じる。




(確か、あの時は私が……)



昔の事を思い出せば、嫌な事も良い事も全部頭に流れてくる。希空が明るくなり始めたのと同時期に、結愛にとっても嫌な事が起きた。ちょうど人の心が読めるようになったのと同じくらいの時に。



 いつもは柔らかな優しい笑みを浮かべている希空だが、今日はちょっと違った。




(……私じゃ駄目だから)



廉斗の家に行く事が決まったから、希空の心の隅の方にそんな感情が浮かんでいた。それが何なのかは、まだ誰も分からない。




「結愛ちゃん?どうかした?」

「え?あ、何でもないわ!早く行きましょ!」

「今度は結愛ちゃんが元気になった…」

「希空ちゃんのが移ったのよ」



 2人そんな微笑ましいやり取りをしながらも、カゴに入れた商品をレジに運ぶ。



 自分1人で抱え込むだけでなく、きちんと相手に伝えなければ意味がない。結愛は廉斗からそう教わったが、相手の考えてる事が分かる結愛だからこそ、それを切り出すのは難しかった。









【あとがき】


・ヒロイン視点が多くなるかもしれないです。何故ならヒロイン視点の方が書きやすいからです!


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