第7話 次の日、家に行く。

「結愛ちゃん、新城くん今日お休みだって」



 翌日、昨日の事は忘れたように普段通り学校に来た結愛は、希空からの言葉を聞いて驚く。おそらくだが、彼が休んだ理由は風邪を引いたからだろう。結愛が取り乱してせいで半強制的に追い出す形になったが、まさか休むだなんて思いもしない。




「結愛ちゃん達、昨日一緒に帰らなかったの?」

「………帰ったけど、」



 その事を報告しにきた希空は、結愛の隣に来てゆっくりと腰を下ろした。覗き込むように結愛の瞳をじーっと眺めて口を開く。



 希空は無責任に放り投げて帰ったので、その後の事情を知りたいようだった。




「新城くんが途中で帰っちゃった?」

「………うん」

「結愛ちゃん何かしたの?」

「何かというか、、ちょっと戸惑ったというか」



 純粋さ溢れる親子のセリフに、結愛が勝手に恥ずかしくなって廉斗を困らせたなんて、口が裂けても言えない。




「じゃあ喧嘩とかじゃないんだ」

「喧嘩はしてない」

「なら良かったよ」



 廉斗と結愛が喧嘩なんてするはずなかった。何故なら結愛は心が読めるので、喧嘩になる前に対処するのだ。そもそも廉斗自体が一部を除いて良い人なので、一緒の傘に入ったくらいでは喧嘩にはならない。



 第一に、喧嘩するほど仲良くはない。




「結愛ちゃん、今日はお見舞い行きなよ」

「お見舞い?」

「そう。お見舞い」

「何で私が……」

「喧嘩もしてないのに傘から抜けて帰ったって事は、結愛ちゃんに原因があったんじゃないの?」

「それは……」



 古水希空という少女はこういう時だけ察しが良い。まあ普通に考えたら希空の言う通りなので、言葉に詰まった。




「男の人の家だし、結愛ちゃんが行きたくないなら行かなくてもいいけど、新城くん1人暮らししてるらしいのよね」

「1人暮らし?」

「さっき新城くんの友達の西山くんに聞いたの」



 希空は、結愛の許可を取る事なく話を進めていた。看病に行きたいという名目で住所も教えてもらっていて、それが書かれたメモ用紙を渡された。



 心の声を読んでみるに、希空は100%の善意でやっているから悪く言えない。




「……分かった。行く」



 迷った結愛は、結局行くという決断をした。決断した理由としては、自分のせいで風邪を引かせてしまったという罪悪感があったから。彼が1人で寝込んでいると聞いたから。



 まあ廉斗は傘を持っていなかったのでどのみち風邪を引いたのだろうが、自分が入れてあげていればという後悔が胸に残っていた。




「ねぇ、希空ちゃんも一緒に、、」

「私も行くの?まあ行ってもいいけど…」



 結愛は罪滅ぼしのつもりで行くのだが、流石に一人で行くのは気まずかった。廉斗の人間性についてを高く評価しているとは言え、彼も男子高校生という立派な男だ。



 1人で行ったら何が起きるかも分からない。そういう事にはならないだろうが、念のためにもう1人くらいは欲しかった。



 希空も無責任に2人をくっつけた事に対して思う事があるのか、一緒に行く事に関してすぐに承諾をくれた。




「放課後、すぐに行きましょうね」

「分かったわ」



 廉斗には悪いが、学校をサボってまで行こうとはしなかった。もし行ったとしても、今度は廉斗に変な気遣いをさせてしまうだけだ。それなら、何の問題もない放課後に行くのが良いはずだ。




(……本当は今すぐ行きたい)



 そう思ったのは、結愛の中にある罪悪感というものが、大きかったからなのだろうか。その感情が何なのかは、結愛自身にも分からなかった。








【あとがき】


・この作品は、ヒロイン視点で進める事が多いかもです。

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