第3話 文化祭の準備と結愛の心

「文化祭準備が始まってから結構経ったけど、小南さん一度も手伝いを求めた事ないよね」



 結愛からすれば、廉斗の言ってる事は暴論に近かった。事実として自ら助けを求めた事はないが、普通なら言うまでもなく手伝いをするはずなのだ。



 出し物はクラス展示という選択をしたのにも関わらず手伝いに来ない人達を、結愛はわざわざ呼びたくはない。これはクラスメイトの心を読めてしまう上での判断なので、きっと廉斗には理解出来ない。理解出来て欲しくない。




「俺さ、小南さんはめっちゃ優しいんだと思うんだ」

「………は?」



 次に彼から出てきた言葉に、結愛は思わず意表を突かれたような返しをしてしまった。




「………別に優しくないわよ。だって私はクラスメイトからの手伝いは不要と思っていて、自分1人で準備をしようとしている人間よ?」

「知ってる」

「知ってるなら何故、、」



 この男と会話をするだけ時間の無駄だと思った。ただでさえ時間がないというのに、自分の痛い所を妙に突いてくるから。



 今まで手伝ってくれなかったくせに、自分の突かれたくない所を的確に指摘してくるから。




「小南さんさ、自分1人で全て背負えばいいって思ってるでしょ」



 結愛は廉斗の言葉を聞いて、グッと息を呑んだ。




「皆んなが手伝おうとしないのを良しと許して、最悪全部自分1人でやればいいと思ってるでしょ?」



 その言葉が、結愛の中で何故か響いた。それはもしかすると、自分が一番言われたい言葉だったのかもしれない。誰の力も借りずに1人でコツコツと作業する辛さと、忍耐さ。



 そこを誰かに見て欲しかったのかもしれない。そして褒めて欲しかった。そう思うと同時に、それを素直に認められない自分もいた。ここですんなりと認めてしまえば、自分の今までの頑張りを否定してしまうようなものだから。




「だって、、そう思うしかなかったのよ……!誰も手伝ってくれないから!手伝いに来てくれなかったから!」



 結愛の中にある廉斗の言う事を認められない負の感情と、喜びの感情。それらがぶつかり合って、結愛の心情を左右させた。




「私はやりたくないと思ってる人を呼びたくないし、無理矢理手伝わせたりしたくない!だから1人でやるしかなかったの!」



 結愛の中で勝っていたのは、負の感情だった。いや、きっと負の感情を曝け出した上で、認めて欲しかったのだ。頑張ったね。ただそう言われたかったから。



 結愛にとって、1人で作業するのは特別苦ではなかった。今回だけでなく、今までだって似たような経験をずっとしてきたから。だが、その時もずっと胸の中では悲しんでいた。誰かが1人の自分を見つけてほしいと。




「………ほら、小南さんは優しいじゃん。普通なら作業を投げ捨ててもおかしくないし、すぐに助けを求める」



 彼は真っ直ぐな瞳をしていた。結愛の胸の中にある思いを見透かしたように、真摯な瞳で。




「俺は知ってるから。小南さんが1人で抱えて、1人で耐えてる事、、」



 もう十分だった。彼の言葉が結愛の心をを埋め尽くすには、十分過ぎた。これまで、そんな事を言ってくれる人は誰としていなかった。1人で物事を終わらせれば皆んなが「凄い!」と結愛を賞賛してくれた。だが、心を読める結愛からすればそれは偽りの賞賛で、心元にない歓声と分かっていた。




 そして今回廉斗は、それを勘付いた上で手伝いをしなかった。結愛から助けを乞われるのを待つために。結果としては、彼が先に折れて自ら接触してきたのだが。




「知ってるって何よ……。私が1人でやってるのに手伝いに来なかったくせに!」



 今にでも涙が出そうだった。理由は分からないが、溢れて出て零れ落ちそうなほど。




(何が私の事を知ってるよ。どうせ心の中ではそんな事微塵も思ってないんでしょ。面倒だな、そう思っているに違いないわ)



 傷ついた結愛の心は、最後まで廉斗の事を信じようとはしなかった。いや、信じたからこそ、彼の心を読む事にした。




(やっぱり、回りくどい事せずに、すぐに手伝いに行った方が良かったのかな)



 彼の心は、言うまでもなく綺麗だった。面倒だなんてこれっぽちも思っていなくて、それどころか結愛の事を気遣ってくれていた。



 流石に結愛も認めざるを得なかった。彼は手伝いたくなかったわけでも、手伝えないわけでもない。結愛の事を思って、あえて手伝おうとしなかったのだと。




「だから話は最初に戻すよ。小南さん、俺に手伝いを求めた事あった?」

「ない……」



 結愛がそれを声に出して認めれば、廉斗は誰よりも優しい目をして結愛の事を見た。




「………新城くん、、その、、、今更かもしれないけど、手伝ってくれる?」

「もちろんだよ」



 結愛が自分の思いや何もかもを捨ててお願いすれば、廉斗は柔らかな顔をして見せた。この時、結愛の中で、廉斗の下がった好感度は大幅に上昇した。







【あとがき】


・次話、結愛ちゃん(ヒロイン)視点は終わりです。そこからようやくラブコメらしいの書けます!お待ちください!良ければレビュー等もお願いします!

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