第10話 借金返済のための商売(前半)

「よし決めた。俺も何か出店する、と言うことで俺に出店許可を出してくれ」

「はい?あなた、何をお考えているのですの?」


 俺は花びらの会の事務室にやって来て、あゆみに出店の申請をした。と言うよりは、俺の一方的な命令口調であゆみに問い合わせる。すると、彼女は鳩が豆鉄砲を食らった顔を浮かべる。

 ……全く、気が利けない女だな。

 俺様が高校生の屋台を出店してやると言うのに、彼女はこうも冷たい対応をとる。全く何を考えているんだ、この女。

 そんなイライラ(していない)様子をしていると、あゆみは大きくため息を吐き出すと、順序に説明し出す。


「あのですね。こう手続きは一ヶ月前から済ませていますわ。とっくに、締め切りを超えていますわよ」

「俺はその時に、この高等学校の学生ではないから、申請の話は知らなかった。だから、大目に見てくれないか?」

「ダメですわ。ルールはルールですわ。今更、追加することはできません。そもそも。私は忙しいのです。あなたが急遽転入した手続きもまだ、終わっていませんわ。これ以上、仕事を増やさないでくださいませ」


 なるほど、俺の存在が彼女の負担を増やしていたのか。

 確か、花びらの会は学園の管理を行なっているため、俺の転入もこの花びらの会の管轄なのだと。俺の存在で彼女の仕事が増えてしまったのは、申し訳ない気があった。

 だが、ここで諦める俺ではない。

 俺はどうにか出店の許可が欲しかった。なぜならば、この学園は大金持ちが通っている学校だ。ここでどうにか、10億円を返済する可能性がある、と俺の第6感がそう叫んでいた。

 仕方がない。じゃあ、こう言う案はどうだろうか?


「じゃあ、出店はしない。その代わり、俺は個人として、このイベントに参加する。参加者に商品を売り回る。それなら問題ないか?」

「店舗を持たない店でしょうか?」

「ああ、店舗は持たない。俺は直接、客にハンドメイドの商品を売る。それも一つだけだ。なあ、いいだろ?」


 あゆみは手を顎に当てると、考え込む。

 彼女が気にしているのは、場所と秩序のことを考えているはずだ。場所はもうすでに埋まっている。使えるとしたら、フリーマーケット会場の出入り口のところだ。

そこで俺は人に声をかけて商売をする。邪魔にならない、程度でものを売る。

 そして、商品についてだが、俺は一つしか売らない。

 正確に言うと、俺が描いた絵画の一枚を売るだけだ。

 なあに、秩序も保たれるし、問題はないだろう。

 この世界でたった一つしかない、絵画を売ってやる。

 東京美高等学校のお金持ちお坊ちゃん、お嬢さんなら、欲しがる一枚の絵。

 そんなことを考えていると、あゆみは「はあ」とため息を出してから、結果を述べる。


「いいでしょう。ただし、それは学校の評価を落とさないようにお願いします」

「ありがたき幸せ!この恩は忘れないよ!あゆみ会長!」


 承認を聞くと、俺は彼女の背中を向けて、この部屋からさる。

 後ろから、「くれぐれも問題を起こさないように」と声が聞こえてくるが、俺はそんな声は無視だ。

 今は1秒でも早く、絵を描かなければいけない。

 俺は美術室に向かって、早くも道具を借り、作品に手をかける。

 昼休みはあと、45分しかない。早くしなければ、と俺は廊下をダッシュした。


 ◯


 退屈な授業が終わり、放課後になった。

 フリーマーケットが開催される。生徒たちが出店の準備をする。

 ある店は大きな鉄板を用意し、油を敷き、焼きそばの下準備をしている店があった。ある店は大きな鍋を用意し、甘酒を準備していた。ある店はテーブルクロスを下敷きにして、小物、アクセサリーを販売する店を出店していた。

 なんでもありの自由なフリーマーケットが徐々に準備されていくのを眺めながら、俺はキャンバスをしっかりと掴み、人の動向を観察していた。

 人は全然集まっていない。あるのは準備中の店だ。


「あー人。もっと増えないかな」


 と、俺は大きくあくびをしてから、近く芝生に寝転がった。

 あと30分くらいすれば、フリーマーケットが本格的に稼働するだろう。今は、こうして休憩をとる、これからは大祭りイベントを行う予定。

 だから、今は体力を温存し、使う時には全力で行けるようにする。


「ねえねえ。何しているの?」

「あん?」


 俺が気持ちよく、芝生に寝ていると、彼女、俺がもっとも会いたくない人物、新名が俺を人差し指で突っつく。しゃがみ込んで突っつくから、横に寝ている俺は、彼女のピンクのパンツが丸見えなのだ。

 うん。絶景だ。人のスピーチはパンツのように短い方がいい。


「ねえ、昼休み。美術室に来たでしょ?何してたの?」

「ああ。ちょっと絵の具を借りた。坂本特性クイックスペシャル油彩をいくつか借りた。放課後までに乾く油彩が欲しくってな」

「へー。それがこの絵?」

「そうそう」


 俺は布で追われているキャンバスはパンパンと叩く。

 それは、昼休みに急ぎで手かけた絵だ。今回は前回のように、悠長に描く時間がなかったため、俺は乾き易い、『坂本特性クイックスペシャル油彩』を借り、絵を描いた。

 キャンバスも美術室にあったものを使ったのだ。

 全部無断と無性にて、持ってきたものだ。


「ねえ、その絵を見せてよ」

「だめだ。まだ、見せるわけにはいかない。人が集まってきてから

「えーけち」

「なんとでも言いな。この絵はまだ、見せる時じゃないのさ」

「ブーブー、絵の具貸してあげたのに」

「美術室のものは俺にものだ!文句あるなら、愛香にでも言え、彼女の公認で美術室のものは俺のものになった」


 もちろん。嘘だ。

 彼女が公認するわけがない。俺は勝手に無断で絵の具を使用した。でも、このバカ女にはこうして俺のことを信じ込む。

 新名は唇を尖らせて、僕を突っつくのをやめなかった。

 かなりうざいが、女の子のパンツを見られたなら、それが対価ならば致し方がない。

 俺は目を閉じて、キャンバスを抱き抱える。そして、眠りにつく。

 このバカ女会話で時間を潰したくないため、俺はこのまま寝他。起きた時には、人がこれ以上集まるように願った。

 

 喧騒の音で俺は目覚める。

 目の前には人が集まっていた。フリーマーケットの人の出入りが寝る前より多かった。先ほど準備している様子とはまた一段に違う。どうやら、店の準備はできている。だが、どこか調子がおかしい。

 人の流れがなっていない。屋台の列はできているが、流れが悪い。というか、並んでいるだけで動いている様子はなかった。

 まだ、始まっていないのか?

 と、俺は冴えない頭で考えると、横から新名の声がする。

 彼女はさっきと同じ体制で俺の方を見つめていた。つまり、パンツが丸見えなのだ。


「あ、起きた」

「おう。ってか、まだいたのかよ」

「だって、その絵みたいだもん」

「そうかよ……」


 俺は頭を掻きむしってから、新名に尋ねる。


「俺、どれくらい寝てた?」

「30分くらいかな?」

「そうか。で、フリーマーケットは開催されたか?」

「うーん。まだ、だね。開催アナウンスがされていないよ」

「後もう少しか」


 俺はそういうと、時計を見る。

 現在は16時29分。確か、開催されるのは16時30分。あと、1分未満で開催される。

 と、俺がそう考えているうちに、16時30分になった。


『只今より、東京美等高校学校、入学式フリーマーケットを開催いたします』


 そして、フリーマーケットの開催アナウンスが発せられる。

 喧騒の声が一段に増える。並んでいる列が動き出した。焼きそば屋は順調に焼きそばを提供していて、学生客に商品を提供している。

 甘酒屋は、大きな鍋の中からおたまで掬い、コップの中に入れて学生たちに販売している様子。

 たこ焼き屋は必死にたこ焼き器の生地を必死にひっくり返している様子も見られる。

 アクセサリー店は客たちにアクセサリーや小物の試着している様子も窺える。

 本格的にフリーマーケットが開催されたのを横目で見てから、俺は立ち上がる。


「よし、絵の解放するときだ」

「おー。待ってました!」


 新名はパチパチと拍手をしてから、興味津々の様子でキャンバスに覆われた布を見つめる。

 俺はその彼女の興味を答えるように、キャンバスに包まれている布を取る。すると、一枚の絵が世界に披露される。

 その絵は、ある人物像。「ヴィーナスの誕生」をモチーフにした一枚の絵。だが、違う点は一つだけある。それは顔が仲戸川あゆみになっている。つまり、あゆみの裸体姿で描かれている一枚のヌード絵。大切な部分は腕と手で隠されているため、健全な一枚の絵。

 貝殻から誕生する仲戸川あゆみ、それは神々しく美しい絵画だ。

 本当は、乳首と女性器を描きたかったが、そうすると、コンプライアンスに問題があると考えたので、「ヴィーナスの誕生」の絵を捻った一枚の絵だ。

 絵が世の中に解放されると、新名の目は星が宿るようにキラキラと輝いた。

 

「すごーい!その絵欲しい!」

「なら、オークションに落札するんだな」


 俺は新名にそういうと、目の前にある人々に目を向ける。

 そして、空気を肺一杯に溜め込んでから、叫び出す。


「いらっしゃい!いらっしゃい!天才画家の、吉田健次のオークション会だ。今日は特別に一枚の絵を売るよ!」


 フリーマーケットに訪れている人は俺の声に釣られて、俺を見上げる。そして、俺が描いた絵にみんなが釘付けになる。


「なんだなんだ?転入生が何か叫んでいるぞ」

「え?その絵は何?仲戸川会長の絵じゃない」

「うほー!ヌード絵だ!」

「おいおいおい。その絵マジでやばいって」

「きゃあ、仲戸川会長の絵だ!欲しい!」


 よし、注目を浴びた!

 俺は心の中でガッツポーズをとり、続けて、俺は自分が立てた計画、このオークションを開始する。


「この絵をオークションにする。世界で一枚しかない絵だ!スタートは100万円からだ!」


 俺がオークションの宣言をすると、ざわざわと、話し声が増していく。


「100万円!?嘘だろ?そんな絵が100万円もするのかよ!」

「え?でも、妥当じゃね?あんな、油絵写真のようになっているじゃん!」

「うほー!なんだか、燃えてきた!」

「きゃあ、先輩の絵は誰にも渡したくない!」

「なんだか、面白くなってきたな!」


 そう声を上げるとともに、人々は俺の方へと集まって来た。

 だが、誰にも手を上げようとしなかった。

 まだ状況を理解できていないのか、あるいはこの絵は高すぎるのか、誰もオークションに入札していない。

 ざわざわというけん騒音だけがこの場を包む。

 これは良くない流れだ。最初の一歩で躓いている。オークションの一番関心のところは最初の入札だ。

早く誰か、入札してくれないかな。と、俺は左右をキョロキョロと見回す。

 すると、最初の入札者が現れる。


「はいはい!私、挙手します!100万円」


 最初に手を挙げたのは、俺の隣にずっといた少女。新名だった。

 彼女は迷うことなく、手を挙げる。100万円入札した。

 そして、彼女はスカートポケットから俺の方に札束を差し出す。購入意欲はあると、示し出す。

 おいおい。100万円をポイと出せるなんて、さすが、常識を破りの芸術家だ。札束を持ち歩いているんだ。

 後から口座振込にしようと思っていたのに。

 だが、礼を言うぞ、新名。お前の行為でオークションの号令を出してくれたのだ。


「やべ!出遅れた!俺は200万円で買う」

「いや、私よ!私は400万円でこの絵を買うわ」

「なら、俺は450万円だ。こんな会長の絵、誰にも渡したくない!」

「500万だ!僕は500万で入札する!」


 観客たちはどんどんと入札してくる。

 よし、どんどんヒートアップして来た。

 いいぞ。これこそオークションという感じだ。このお坊様、お嬢様学園ではこれくらいの金額は払えるはずだ。

 下手をすれば1億までいくはず。

 ありがとうよ、仲戸川あゆみ。お前の裸体姿は後世にも残されるぞ。


「1千万円ですわ」


 その透き通った声で人群れの声一瞬にざわめく。誰が、こんな金額を提供したのか、と全員がそう思いながら、声元に目線を開ける。

 そして、モーゼが海割りをするように人の集団が割れて、入札者が登場する。

 登場したのは、この絵画のモデル、仲戸川あゆみだった。

 あゆみがこの場に乱入して来たのだ。

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