24話・密計の矢 2

 今度はヴァインが駆けた。

 ある程度近付いてからタイミングを計り、懐から取り出した短剣を真上に投げる。すると何処からか放たれた矢が弾かれて地面に落ちた。


 何者かが弓で闘技場を狙っている。

 一般観覧席は通路や階段まで埋め尽くされている。不審な動きを見せれば周囲にすぐ気付かれるが、誰にも見咎められずに弓矢を構えることが出来る場所がある。貴賓席だ。円形闘技場をぐるりと囲む観覧席の中ほどの位置にある王侯貴族専用貴賓席は突き出した壁に仕切られ、隣り合ったブースの様子は見えない。


 矢が放たれたのはラシオスが膝をつき、ローガンが離れた場所で立ち止まってから。至近距離で剣を交えている時には何も起こらなかったところを見ると片方だけを狙った犯行だと分かる。


 カラバスは警備兵に矢を放った貴賓席を調べるよう指示を出し、ヴァインの元へ駆け戻った。

 そうこうしている間にラシオスが立ち上がり、再びローガンと剣をぶつけ合っている。恐らく犯人は二人の王子が近くにいる時には何も仕掛けてこない。矢がどちらに当たるか分からないからだ。


「犯人を捕まえれば終わりですか?」

「黒幕を突き止めねば意味ないですね」

「黒幕って……」

「悪い人ほど自分の手を汚しませんから」


 カラバスの問いに答えながら、ヴァインは主人あるじの動きを目で追った。

 一時は劣勢かと思われたが、ラシオスは完全に持ち直した。ローガンが派手に振り回す木剣を最小限の動きでかわして合間に反撃する。体力の無さを戦い方を工夫してカバーしているラシオスの姿を見て、カラバスは安堵した。


「ところで、ラシオス様とフィーリア嬢ってうまくいってないんですか」

「そ、そんなことは……」

「あんまり仲睦まじい姿を見掛けませんし」

「うちのラシオス様は感情の表現が苦手なだけです!」


 クスクスと笑うヴァインに、カラバスは視線だけ向けて睨み付けながら、苦し紛れの言い訳をした。

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