22話・ラシオス対ローガン 2

『この決闘には裏がある』


 ヴァインの言葉にカラバスは狼狽えた。

 何故決闘が始まってから言うのだ、と非難めいた目で隣に立つ男を睨む。当のヴァインは両手を後ろで組み、ずっと王子たちの戦いを見守っている。すぐにカラバスも闘技場の中央に視線を戻した。


「先ほどまで近くに人が居ましたからね。今なら歓声で話し声も掻き消されますし、全員の注意がローガン様たちに向いてますから」


 主人あるじ同士が侯爵令嬢フィーリアの件で敵対している間柄である。従者であるカラバスとヴァインが話す機会は滅多にない。それに、控えの間には世話係、闘技場には審判たちがいる。決闘が始まるまで誰にも聞かれることなく話をするなど不可能。


「そ、それで、裏というのは?」


 周りから不審に思われぬよう顔を前に向けたまま、カラバスがヴァインに問う。


「決闘自体はうちのローガン様が仕掛けましたが、これは不穏分子を炙り出すための罠です。もちろん、そちらの国王もご存知ですよ」

「なっ……」


 動揺して思わず大きな声が出そうになり、カラバスは手のひらで口元を覆った。ちょうどラシオスが手元を打たれ、木剣を取り落としそうになった場面である。外野からは主人の危機に反応したように見えただろう。


「では、フィーリア様に求婚したのも嘘?」

「あれは本気です。ローガン様は本国ではモテませんからね。留学先こっちでフィーリア嬢に優しくされてコロッと惚れてしまったようで」

「ええ〜……?」


 意味が分からない、とカラバスは困惑した。

 結局、この決闘に勝たねばならないことに変わりはないということだ。持てる限りの技を教え、万全を期したつもりだが、ラシオスは体力がない。長引けば勝ち目は無くなる。


 闘技場の中央では、剣先同士をギリギリと押しつけながらの睨み合いが始まっていた。数十秒ほど膠着状態が続いていたが、ついに均衡が崩れた。


 ラシオスが地面に片膝をついたのである。

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