第4章 魔法使いと魔術師

14話・魔法と魔術

 魔法と魔術の違い。

 魔法は先天的に授かった素質を伸ばして直感的に使うもので、魔術は正しい知識と技術を用いて計算された事象を引き起こすもの。結果は同じでも過程は大きく異なる。


 第三試合はその似て非なる魔法使いと魔術師の対戦となった。ここで大きな問題が生じる。観覧席の安全が保証できないのである。

 通常の武器とは違い、魔法または魔術は攻撃範囲が広い。下手をすれば下段の一般観覧席だけでなく中ほどにある貴賓席にも影響が出る可能性がある。


 そこでハイデルベルド教国大司教ルノーが名乗り出て、闘技場を覆う防御魔法を掛けることとなった。魔力を打ち消す不可視の壁を作り、観覧席に危険が及ばぬよう計らったのだ。

 貴賓席はもちろん、ブリムンド王国の王族専用席は念入りに守らねばならない。ルノーは特別に許可を得て内部に入り、より強固な防御魔法で区画全体を覆った。


「ルノー殿。ここで見聞きしたことはラシオスとローガン王子の決闘が終わるまで内密に願いたい」


 その際、とある事情を国王直々に打ち明けられ、ルノーが抱いていた疑問が解消された。

 闘技場を包む謎の緊張感と悪意の元凶。国王は跡継ぎである第一王子ルキウスの結婚式を前に、決闘騒ぎに乗じて良からぬ真似を企てる者を炙り出すつもりだという。


「もちろんですとも。ですが、他国の方々も薄々何かに気付いておられるのでは?」

「百戦錬磨な方々ばかりですからな。不測の事態に陥った際に頼らせていただこうかと」

「なるほど、わかりました」


 王族の結婚式に招待されたにしてはやけに血の気の多い者ばかりだと思っていたが最初からそのつもりで選定したのだろう。何かあっても自分の身を守ることが出来、尚且つ助力が得られそうな者を。


 貴賓席に戻ったルノーは自らが作り出した防御魔法の壁越しに闘技場を見下ろす。第三試合で対戦する若き魔法使いと魔術師が既に中央で睨み合っていた。

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